■小さな会場で提示された明日へのメッセージ
今年は海外主要メーカーの参加がなく、「世界3大モーターショー」に数えられる東京ショーも、大幅に規模を縮小しての開催を余儀なくされた。
世界のモーターショー事情に詳しい大川悠が、会場に足を運び、感じたこととは……。
■王座から蹴落とされた日本
2009年10月21日の東京モーターショープレスデイの前夜、中国が自動車生産・販売で今年は1200万台を突破しそうだというニュースが流れた。それは二つのことを意味していた。販売においてはアメリカを凌ぎ、生産においては日本を追い越して、自動車王国としてついに中国が世界に君臨するということである。つまり日本は、王座から蹴落とされた。
そしてその状況はそのまま、いや残酷なほどストレートに、千葉県幕張メッセのモーターショー会場内に反映されていた。会場全体の展示スペースは、これまでの約半分に減っていた。出展企業も前回の246社から113社へと半減したが、その中で最も大きな失望は海外企業が軒並み欠席したことだ。具体的に言うなら前回の26社からたったの3社へと激減したのだが、その3社もアルピナ、ロータス、ケータハムというマイナー企業であり、東京モーターショーは国際格式を保ちながらも、その実体はドメスティックなショーにならざるを得なくなった。
いうまでもなくこれは、世界スケールで見て、自動車市場としての日本の相対的な地位と魅力がこの2年間で大きく落ち込んだからに他ならない。欧米各社(と日本企業も)が積極的に中国市場に投資していることで示されているように、いま、世界でもっとも大切なのがこのアジアの大国、中国であり、自動車産業の未来はこの国のモータリングに大きく左右されるといっていい。
その一方で日本市場は単に景気後退に打撃を受けているだけでなく、市場そのものが成熟しきって将来が見えにくくなっている。特に海外企業にとって、そうでなくても日本市場は長年にわたって、もっとも難しくコストのかかるマーケットになっている。さらには東京モーターショー自体の出展料は高額で、規制も厳しい。加えてその直前に国際ショーとしては最重要なフランクフルトショーが開かれる。
このような状況を全て勘案するなら、東京モーターショーの費用対効果はあまりにも小さく、それならアジアでは北京と上海で毎年交代で開かれる中国のショーに全力投球したほうが、はるかに懸命な選択であるのは明瞭になる。
■この半世紀でもっとも寂しいショー
ついに今回、幕張から事実上海外企業は姿を消し、その会場内からは輸入車の姿はほとんど見られなくなった。加えて国内販売不振に悩む日本メーカーもまた、これまでのようにこのショーに過剰な投資をすることをためらう気配が見られたし、部品メーカーや関連産業の多くも参加を断念した。
かくて幕張メッセの会場風景は、例年に比べるなら驚くほど寂しいものになった。部品館も二輪館も用意されず、従来乗用車でほぼ占有されていた、全体からするなら半分ほどのスペースにすべてが集められた。しかもそれでも会場内に空き地ができてしまったかのようで、それを埋めるべく子供の自動車絵画展や、意図の良く分からない国産車の歴史展、カーオブザイヤーの発表や展示から、はては自動車総連のブースまで動員していた。加えて例年どおりのスペースを確保している日本メーカーも、予算の関係かブース自体への投資を抑えており、ブース構築もディスプレイデザインも地味になり、さらには莫大な制作費を要求するコンセプトカーも、従来に比べるならはるかに数が減っていた。
1960年代初期から約半世紀近くにわたって東京ショーを見てきた私個人としては、こんなに寂しいショーは初めてだった。もっと規模が小さく、外車なんて見られなかった60年代でも、会場にはモータリゼーションに向けて必死に走ろうとする時代の熱い空気が渦巻いていたものだ。
■密度は高く奥深い
たしかに寂しいショーである。物理的に規模が小さくなり、スペースも出展台数も、あるいは会場内の熱気もすべてスケールダウンしていたが、それでも、あるいは小規模になったがゆえに、却って内容的には充実していたという言い方もできる。あるいは、出品数が多すぎたゆえに、これまでは見逃されがちだった注目作品が、より見つけやすくなったのも確かである。
だから見方を変えるなら、小さなぶん、密度が高く、意外と奥が深いショーでもあった。
基本的にショーそのものの全体の基調というか本質的なテーマは、前回2007年のそれを受け継ぎ、さらに問題を明瞭に絞ってきたといっていい。
徹底したCO2削減と化石燃料への依存からの脱却という将来の課題が、この2年でよりクリアになった、というより絶対の命題になった今年は、明日の社会にクルマがどう生き残れるかと言うことが会場全体で問われていた。それはメーカーそれ自体の存続にかかわることであり、各社は明日への回答案を必死に提示していた。
と同時に、それでも人々にクルマの魅力やそれと生活する喜びをいかに与えるか、いかに訴えるかという、自動車にとっての永遠のテーマもまた、新しいフェイズで問われ、それに対しても多くのメーカーがなんとか答えようとしていた。
■見応えのある明日への提案
ようするに、クルマに期待されている未来像と、古典的な自動車の喜びが提示され、提唱される場、ということにおいては、ここ数年の世界中の主要自動車ショーの流れとまったく変わらない。だが東京の場合、特に新しい社会への対応という点では、先月のフランクフルトとともに、世界のショーでももっとも見応えがあったといえるだろう。
それは二つの理由による。一つは、とくに日本市場で旧来型自動車の需要が頭打ちになるとともに、社会内にエコに対する認識が急速に高まったからである。そしてもう一つは、ハイブリッドやEVの技術、中でもそれを量産化し実用化するという力量において、日本のメーカーは依然として世界をリードしているからだ。
だから地味な会場の中を真剣に観察すると、それなりに注目すべき技術やコンセプトカーが散見されたし、企業のクルマとその未来に対する姿勢の違いもまた、それぞれにとても興味深かった。
個人的には、単にパワーユニットだけを未来型に載せ替えただけのようなクルマよりも、クルマの世界だけに限定されずに、人と物との移動に関して、まったく新しい観点から考えているような提案や企画がとても新鮮で刺激的だった。あるいは敢えて電気にこだわらず、単に徹底的に軽くすることで、環境負担を追求するという姿勢を明快にしているメーカーもあったのには、心から共感できた。
また物理的に近い場所に展示されたがゆえに、乗用車と二輪車、そして部品企業のそれぞれの新製品、そこに込められた将来技術や社会対応が直接に比較できるということも、スケールが小さな新しいショーならではの魅力になっていた。
■最後に一言
最後に行かれる方に一言。ショー全体の社会的アピール度が落ちているから入場者数は減ると思われるが、それでも例年よりも狭くなったがゆえに、相対的に混雑するかも知れないことを予想していただいた方がいい。また自動車メーカー以外の出展や企画の中に予想外に興味深いものがある。特に今回は比較的気楽にそれらのブースに行けるから、新しいものを発見していただきたい。
そしてどんなパワープラントで動くようになろうと、さらにはそれがもはや古典的な意味での自動車ではなくなっても、いつの時代も移動具というのは、人間にとってもっとも魅力あふれるものだということを再確認していただければ幸いである。
(文=大川悠)
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