フェラーリ849テスタロッサ スパイダー(4WD/8AT)
“上質な速さ”を知るマシン 2026.07.15 試乗記 歴史ある車名が与えられた「フェラーリ849テスタロッサ」は、従来型から大幅な進化をとげた高性能スポーツカーだ。では、そのオープントップバージョンの走りはどうか? 日本での発売を前に、フェラーリ通として知られる西川 淳が試乗した。語りたくなるデザイン
速い。とてつもなく速い。そんなことは、走りだす前から分かってはいたけれど。スペインはテネリフェ島までわざわざ24時間もかけて赴き、849テスタロッサ スパイダーを半日堪能したが、結論から言うと「クーペと同様」である。
「SF90」シリーズの後継にあたり、マラネッロの量産シリーズにおけるスポーツモデル(パイロットカーとマラネッロは呼ぶ)の頂点。それが849テスタロッサだ。2025年9月にクーペとスパイダーが同時に発表されたが、生産の立ち上がりに時間差があったため、スパイダーを試す機会はクーペから半年遅れに。待たされた、というより、焦らされた感じだ。
最新の“テスタロッサ”は量産フェラーリの顔をしてはいるが、もはやハイパーカーである。V8ツインターボに、フロント2基+リア1基の電気モーターを加え、バッテリーを積んで、システム最高出力はなんと1050PSに。ちなみにスパイダーの日本における価格は、7000万円超。SF90スパイダーに比べて1000万円ほど高くなったが、為替の関係で世界的にみると安い部類に入る。高いけれど、安い。
久しぶりにスタイリングを語りたくなるフェラーリだ。用意された試乗車はすべてシルバー×レッド。シンプルにかっこいい。SF90が従来のマラネッロ製リアミドカーデザインの文法を基本としていたのに対して、849テスタロッサは全面的に新しい。「F80」や「12チリンドリ」との同時代性を匂わせつつ、シリーズモデルとしての現実味を足したようなたたずまいである。
乗り込むだけでも満たされる
クーペとスパイダーとは、開発も同時だ。リトラクタブルハードトップの開閉システムは基本的にSF90スパイダーと同じ。ウィンドウなどをクーペとは違う形状とすることで、オープン時の空力性能をクーペ並みに整えてきた。
冒頭でも記したように、乗る前から結論はみえていた。クーペは国内外ですでに十分テスト済みだったし、SF90時代のクーペとスパイダーの関係もよく知っている。ならば849でも、スパイダーはクーペとほとんど変わらないはず。そして、実際にそうだった。だったら、ルーフが開くぶんコチラのほうがおいしい。プラス約600万円は高いだろうか? この世界ではもはや誤差の範囲だろう。
ドアを開けるだけで気分が盛り上がった。開いたドアの断面が美しいからだ。ドアの縁に見とれるなど、そうあることじゃない。先代テスタロッサ以来かもしれない。そういえば1980年代のテスタロッサにも一台だけ、マラネッロがつくったスペシャルスパイダーがあった。その個体の色もシルバーである。
オブジェにもなりそうなドアを閉め、コックピットにおさまる。近年のフェラーリは“欲しくなる内装”をつくるのが本当にうまくなった。デジタル化されたステアリングホイールは、ようやく使い勝手も良くなったし、マニュアル時代のシフトゲートを思わせるギアスイッチのベースは宙に浮いたように置かれていてとてもユニークだ。こういう演出が所有欲をかき立てる。走りだす前から気に入ってしまうというわけだ。
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両極端な性格がひとつに
始動は、もちろん静か。バッテリー残量に余裕があれば、V8は眠ったままなのだから。フェラーリなのに、エンジンがかからない。頭では分かっていても、不思議な感覚になる。駐車場からはEVモードでそっと出てみた。このとき前輪がモーター駆動されている。音のないフェラーリも意外に悪くない。
早朝の港町を静かに抜ける。フェラーリなのに静かなので、早起きの漁師たちが不思議そうな顔でこちらを見つめていた。いつもとは違った優越感に浸れる。道が開けたところで、たまらずドライブモードを「レース」に。すると瞬時にV8が目を覚ました。駆動は何事もなかったかのようにエンジン主体へ移り、背後で心地よいサウンドを奏で始める。
まずはリアの垂直ウィンドウだけを下げた。室内の快適性や車体の剛性感はクーペとまったく変わらないというのに、リアから勇ましいサウンドだけが侵入する。決して爆音ではない。けれどもちょうどいい。この状態でのドライブが一番ぜいたくだ。
とはいえせっかくのスパイダーである。速度を45km/hまで落とし、ハードトップを開けた。14秒でルーフはきれいにおさまり、初夏の日差しが一気に室内へと降り注ぐ。低速域ではわずかなきしみ音もあったけれど、速度が上がるにつれて気にならなくなった。風の巻き込みも、想像よりも少ない。計算されたトノカバーブリッジのデザインと、特許構造のウインドキャッチャーが効いているのだろう。ただし頭頂の髪は盛大に乱れる。それが気持ちいいと思えない人はそもそもオープンカーに乗る資格などない。
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数字には出ないエボリューション
ひとっこひとりいないカントリーロード。全開加速を試してみた。もう笑うほかない。SF90でさえ今なお十分に速いのだ。それを超えるスペックを持つ849に不満などあるものか。
感心したのはむしろ速さそのものではなかった。速さの質のほうだ。SF90にはどこかスペースシップにでも乗せられているような、ふわっとした速さがあった。それが少し怖かった。対して849は、路面とのつながりをしっかり感じさせたまま加速する。フロントモーターの存在を意識させないのに、安定している。コーナリング時のフロントの入り方もクリアで正確だ。RWDほどではないにせよ、フロントモーターの気配は見事に消されていた。
もうひとつ、ブレーキフィールのよさも評価しておきたい。回生を含め、裏側では相当な制御が働いているはず。にもかかわらず、踏み応えは常に素直で、潔い。強く踏めば強く効く。少し抜けば、うまい具合に抜けてくれる。減速そのものを楽しめるブレーキがあってこそ、ウルトラ加速が生きてくる。
849テスタロッサ スパイダーの魅力は、クーペとほぼ同等の剛性感を保ったまま、空という大いなる余白を与えてくれること。空が近い。音を肌でも感じる。速度感も、より体になじむ。SF90が未来から届いた実験的なスーパーカーだったとすれば、849は未来をこちら側へ引き寄せたモデルだ。速さは相変わらず常識外れなのに、怖さより先に信頼がくる。そこが大きな違いであった。
街なかを静かに走り、港沿いで空を感じ、ワインディングロードでは本気をみせる。望めばアセットフィオラノ仕様でサーキットにも連れていけることだろう。つまり849テスタロッサ スパイダーは、ハイパーカー級の速さを持ちつつ、日常と非日常の境目をさらりとまたいでしまうスーパーオープンであった。
(文=西川 淳/写真=フェラーリ/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
フェラーリ849テスタロッサ スパイダー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4718×1999×1186mm
ホイールベース:2650mm
車重:1660kg ※オプション選択車両の乾燥重量
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:830PS(610kW)/7500rpm
エンジン最大トルク:842N・m(85.9kgf・m)/6500rpm
モーター最高出力:220PS(162kW) ※3基合計の値
システム最高出力:1050PS(772kW)
タイヤ:(前)265/35ZR20/(後)325/30ZR20(ピレリPゼロR)
ハイブリッド燃料消費率:11.6リッター/100km(約8.6km/リッター、WLTPモード)
EV走行換算距離:25km(WLTP複合モード)
交流電力量消費率:99wh/km(WLTP複合モード)
価格:7027万円/テスト車=--円 ※日本国内における価格
オプション装備:--
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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