トヨタ・アイシス G“Uセレクション”(FF/CVT)/アイシス プラタナ“Uセレクション”(FF/CVT)【試乗記】
トヨタの底力 2007.06.19 試乗記 トヨタ・アイシス G“Uセレクション”(FF/CVT)/アイシス プラタナ“Uセレクション”(FF/CVT)……297万7800円/283万8150円
2007年5月14日、マイナーチェンジされた「トヨタ・アイシス」。2リッターの上級モデルで、新装備とその走りを試す。
マイチェンだけどタレントはビッグ
トヨタ・アイシスのマイナーチェンジでいちばん目を引いたのは、イメージキャラクターに椎名桔平と菅野美穂を起用したことだった。
マイナーチェンジの内容はといえば、内外装のフェイスリフト、運転席側パワースライドドアやパワーテールゲートといった新装備の設定がトピック。メカニズムの変更は、一部車種へのパドルシフト追加ぐらいだ。だからこそ椎名&菅野投入だったのかもしれないが、マイナーチェンジなのにここまでビッグなタレントの起用。トヨタの底力を思い知らされた。
試乗会では、2リッター2WDの「G」と「プラタナ」、それぞれの“Uセレクション”に乗った。Gは上級グレード、プラタナはスポーティグレードで、Uセレクションは前述の電動扉を装備したものだ。
エクステリアやインテリアの変更は、旧型オーナーじゃなければわからないぐらい、さりげない。デザインそのものもおとなしい。だから内装の質感の低さや、妙なドライビングポジションのほうが印象に残ってしまう。
背の低いクルマとスカットル周辺を共用としたためか、インパネやシートに対してステアリングが低すぎる。身長170cmの自分が腕を前に伸ばすと、ステアリングの頂上に行ってしまう。しかもテレスコピック機構はなく、チルトも3cmぐらいしか調節できない。どんな体型の人を想定して設計したのだろう?
カラーコーディネイトはGがグレージュ(グレーとベージュの中間色)、プラタナがダークグレー。ひと目で印刷だとわかるGの木目調パネルは、プラタナではシルバーに変わる。シートは色が違うだけで形状は同じ。サイズが小さめの前席は、サポートはそこそこだが、座面はじゅうぶんな厚みと絶妙な硬さを持ち、座り心地はよかった。
やっぱりパノラマオープンドアは便利
アイシスのいちばんのセールスポイントは、左側のセンターピラーがないことだ。その恩恵はスライドドアを開けただけでも、2・3列目へのアクセスのしやすさとして実感できる。助手席を畳んで前方に立てかけておくことも可能で、これで助手席ドアを開けようものなら、感動もの! これだけでアイシスを買う人がいても不思議ではない。タクシーや送迎用にもよさそうだ。
ちなみに2・3列目、ともに自分サイズの人間が座れる空間を持つが、シートの折り畳みはちょっと面倒。どちらも2つのアクションを必要とするからだ。輸入車のミニバン、たとえば「シトロエンC4ピカソ」は、これをワンタッチで行える。道具として煮詰めてあるのはアチラのほうだ。
2リッター直噴エンジンは低回転から扱いやすいトルクをデリバリーしてくれる。4000rpmを越えると耳につく唸りを発し始めるが、1名乗車ではそこまで回す必要はなかった。CVTのマナーはかつてのトヨタ車と比べると格段にレベルアップしていて、発進停止を含めて自然。
もっともそれ以上の感動はなく、プラタナにつくレバーやパドルで操作する7速マニュアルモードの出番は、もっぱらエンジンブレーキだった。
「G」グレードがオススメ
Gの乗り心地はマイルドかつフラットで、なかなか快適。ロードノイズの遮断もじょうずだ。インチアップしたワイドタイヤを履くプラタナも、それより硬くはなるが、ショックはうまくいなしてくれる。
2台の走りで大きく違うのはステアリング。パワーアシストがプラタナは油圧式、Gは電動式なのだ。どうやら燃費対策で使い分けているらしいが、フィーリングがよかったのは、燃費にも有利なGの電動式だった。プラタナの油圧式は、奥様方から苦情が出そうなほど重い。スポーティを通り越して、体育会系のノリだ。そのぶんレスポンスは少し機敏だが、コーナーではひたすら外へふくらみたがる性格なので、CVTのマニュアルモード同様うまみは少ない。
同じトヨタ車でスポーティモデルとそうでないモデルを乗り比べると、ほとんどの場合、後者のほうがバランスが取れている。アイシスも例外ではなかった。某国営放送の若者向け番組みたいにぎこちないプラタナに対し、Gには「のど自慢」のような作り慣れてる感があふれていた。ピラーレスのスライドドアにホレてアイシスを買うような人は、フツーのグレードにしたほうがいい。
(文=森口将之/写真=峰昌宏)
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森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車は「シトロエンGS」と「ルノー・アヴァンタイム」。