シボレー・トレイルブレイザーLT(4AT)【試乗記】
マッチョと細腕と柳腰 2001.09.11 試乗記 シボレー・トレイルブレイザーLT(4AT) ……349.0万円 北米はオハイオ州に新工場を建設して生産されるシボレーの新鋭SUV「トレイルブレイザー」。4.2リッターという大排気量ながらストレート6という特異なエンジンを積む意欲作である。山梨県は河口湖周辺で、『webCG』記者が乗った。GMの迎撃モデル
(その1)1984年の映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のいち場面。誕生プレゼントがガレージにあると言われて家を飛び出すマーティ(マイケル・J・フォックス)。家の裏には、ピカピカのトヨタ・ハイラックスが……。
(その2)取材陣に囲まれるフィギュアスケートの選手トーニャ・ハーディング。1994年に開催されたリレンハメル(冬季)オリンピックを前に、ライバルのナンシー・ケリガン選手を旦那に襲わせたとして世間の注目を浴びた。記者の質問に答えているさなか、突然鳴り響くクラクションの音。「クルマがいたずらされている!!」。駆け出すトーニャ。駐車場には、フォードのピックアップが停まっていた……。
どうも日本人に理解しがたいのが、アメリカでのトラック&SUV(Sports Utility Vehicle)の人気である。“人気”というか、すでに販売台数において乗用車(Passenger Car)を抜いたというから、彼の地では堂々の本流となった。値段が手頃なわりに、ボディやエンジンが大きなクルマが買える、というのが売れている理由らしい。たとえば、ご予算2万ドル前後で検討すると、乗用車「トーラス」なら3リッターV6モデル、SUV「エクスプローラー」(旧型)なら4リッターV6、トラックたる「F-150」なら4.2リッター車が購入できる。ガタイのデカさに頓着することなく、普通のクルマ(?)と同じ論理で買っちゃうところに、極東の島国の消費者は呆れるばかりなり。
さて、ビッグスリーの“ドル箱”たるSUV市場に続々と参入する、トヨタ、日産、ホンダ、メルセデスベンツ(いまやビッグスリーの一員だが)、BMW、そして近い将来現われるフォルクスワーゲンやポルシェなどを迎撃すべく、GMが送り出したのが、シボレー・トレイルブレイザーだ。ブランニューシャシーに新開発4.6リッター直6ユニット(274ps、38.1kgm)を搭載する意欲作である。
アメリカン4WDな室内
毎日8オンスのステーキを食べたのであろう、トレイルブレイザーはブレイザーよりグッとマッチョになった。ボディサイズは、全長4890(+270)全幅1900(+135)全高1850(+120)mm、ホイールベースは2870(+150)mm(カッコ内はブレイザーとの比較)。トヨタ・ランドクルーザーとほぼ等しい大きさだ。
トラックからの出生を表わすラダーフレームは、トレイルブレイザーにも継承された。左右の縦フレームにコーベットと同じ「ハイドロフォーミング法」が採用され、「軽量」「強靱」なのがジマン。これは、筒状の素材の内側に高圧の水を注入してパーツを成型する手法で、コストも抑えられるはずだ。
サスペンションは、フロントが「ダブルAアーム」と呼ばれる独立式となった。リアは、5リンク式のリジッドである。いずれも、コイルスプリングが使われる。
グレードは、革内装の「LTZ」(389.0万円)とファブリック仕様の「LT」(349.0万円)の2種類。フロントグリルの横桟、サイドモール、そしてドアハンドルがボディ同色なのがLTZで、しかし上級版として一番重要な装備はサイドステップだと思う。なぜなら、足が短くても颯爽と、シボレーいうところの「ミドルサイズ」SUVに乗り込むことができるから。
LTZの撮影をすると、LTで試乗に出かけた。
無地と柄のシート地を組み合わせたコンビシートは、ふんわりと柔らかく、「サイドサポート」という文字はない。センターコンソールおよびエアコン吹き出し口は、ブレイザー同様ドライバー側を向いている。ダッシュまわりにおおらかな曲線が多用された、いかにもアメリカン4WDな室内である。
イグニッションキーを捻っても、「ズロン!!」というプッシュロッド式V型エンジンの音はしない。トレイルブレイザーは、直6ツインカム24バルブという、BMWばりのエンジンをもつ。しかも、排気量は4.2リッター!! 最高出力274ps/6000rpm、最大トルク38.1kgm/3600rpmというハイスペックを誇る。「あまりに静かなために、エンジンがすでに始動している状態でキーを回してスターターを破損させることのないように、『再スタート防止機能』が備わっている」と、プレスリリースには記される。なるほど、エンジンをかけてから試しにキーを捻っても、ストレート6は粛々とアイドリングするばかりだった。
年間販売台数3000台を目指す
トレイルブレイザーが直6ユニットを採用したのは、エンジンの構造がシンプルになり排ガス対策が立てやすいから、というのが公式の説明だが、「サバーバン」や「タホ」といった、さらに大きなV8モデルとの差別化もひとつの理由だろう。日本GMの関係者は、「キャディラックといったセダンに横展開することも考えているようです」と耳打ちしてくれた。そういえば、次のキャディはFR(後輪駆動)モデルになると発表された。
新開発「ボルテック4200」は、実際、スムーズできれいに回るエンジンだ。とはいえ、可変バルブタイミング機構を備え、わずか1600rpmで最大トルクの90%を発生する大排気量ユニットだから、ことさらブン回す必要はなく、4段ATを介して楽々と2トン超のシェビーを走らせる。フライバイワイヤー化されたスロットルレスポンスにも不満はない。
フレームに8本のクロスメンバーをもつボディは頑強で、乗り心地はいい。路面からの入力が、しごくソフトだ。路面の突起を越えた際の上屋のかすかなわななきで、リアの固定式サスペンションとフレーム付きボディを感じるくらい。
ステアリングギアはラック&ピニオンに変更され曖昧さが減じた。「ロック・トゥ・ロック=4回転弱」のスロウなものだが、ハンドルの切り角を大きくとれる縦置きストレート6のメリットを最大限に活かし、最小化回転半径は5.5mと望外に小さい。今回はじゅうぶんテストする機会がなかったが、市街地でも意外に運転しやすいのではないか。
北米はオハイオ州にわざわざ建設された、新しい「モレイン工場」で生産されるトレイルブレイザー。GMの、日本市場における期待も大きく、2001年度は630台、翌年からは3000台の販売を予定する。ニューSUVは、押し出しの効く外観とはうらはらに、純然たるアメリカ生まれの労力いらずのクルマだから、ハーディングばりのたくましさがなくてもなんら問題なく運転できる。細腕でドライブするの図は魅力的だ。ただ、当面、左ハンドル車しか用意されない。高速道路などの料金所で、横幅1.9mのSUVの運転席から柳腰を伸ばす姿もまたステキかもしれないが。
(文=webCGアオキ/写真=難波ケンジ/2001年9月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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