日産スカイライン250GT Type P(FR/5AT)/350GT Type SP(FR/5AT)【試乗速報】
あの「称号」を取り戻すために 2006.12.07 試乗記 日産スカイライン250GT Type P(FR/5AT)/350GT Type SP(FR/5AT) ……400万3600円/436万5850円 「SHIFT_passion」を掲げて登場した「スカイライン」は、先代の外観を継承しながらも中身は一新されている。「走りの日産」を象徴する存在ともいえるモデルの実力を味わうと、足りない部分も見えてきた。
![]() |
![]() |
エンジンは「新設計」
伝統をかなぐり捨て、すべてを一新して登場した先代V35型スカイラインだが、ここ日本では、それは支持されたとは言いがたい。しかしインフィニティG35の名で初めて輸出された北米ではこれが大ブレイクしたのだから、本当に不思議なものだ。
V36型という形式名称が与えられた新型スカイラインは、その北米での人気を維持するべく、外観はうねりのあるラインで力強さを強調しつつも基本的には先代のイメージを強く残している。しかしボディ、シャシー、エンジン等々クルマを構成する重要部分には多くの新技術が採用され、また改良が施された。
たとえばボディは、スポット溶接を550点、アーク溶接を20か所増やし、レーザー溶接も総延長260cmから820cmに増やすことで剛性を大幅に向上させたという。サスペンションも同形式ながら設計は新規。後輪操舵にギア比可変式ステアリングを組み合わせた4輪アクティブステア(4WAS)も設定される。
V型6気筒のエンジンも、北米でブランド化しつつあるVQ型という名称を継承しているが、実質的には完全新設計だ。ここから透けて見えるのは、『走りの』スカイラインという称号を取り戻そうという思惑だが、実際それは高い次元で達成されている。
![]() |
![]() |
あとをひく爽快な走り
最初に250GTに乗って驚いたのはエンジン。これがホントに2.5リッター? と思うほど活発なのだ。スロットルが過敏で発進が飛び出しがちになるのは不満だが、低速域から十分なトルクがある上に吹け上がりは7500rpmからのレッドゾーンを軽く飛び越えるほど気持ちよく、グイグイ速度を高めていく。
スペック的にはガッカリな5段ATも、カタログ燃費はともかく走りの面では不満はなく、特にDSレンジでは小気味よいシフトアップ、自動でブリッピングを行なうシフトダウンのおかげでリズミカルに走らせることができる。
先代ではフラットライドとは名ばかりだった乗り心地も、目線をブラさず路面の凹凸を足元でいなしていく快適なものに進化した。個人的には、もう少し路面とのコンタクト感が重厚なほうが好みだが、それだけうまく入力を遮断し、あるいは受け流しているということでもある。
それでいてワインディングロードへと足を踏み入れ、ややゲイン強めに躾けられたステアリングを切り込んでいくと、四輪全部がじわっと沈み込むような絶妙なロール感で、地面に張り付いているかのようなコーナリングを堪能できるのだ。
17インチサイズのタイヤは快適性重視の銘柄で、ペースアップしていくと腰砕けな感もあるが、総じて乗り心地と操縦性のバランスは上々。爽快な走りはあとをひく感覚である。
よりグリップ指向の18インチを履く350GTでは、荒れた路面での追従性がやや劣るものの、限界は高まり動きのキレも増して、より爽快な乗り味を得ている。こちらのエンジンは最高出力315psと強力。回転上昇はやはり鋭く、低音が効いたサウンドを伴った豪快な加速を味わえる。しかし、トルクがさらに強力な上にこちらもやはりスロットルの反応が過敏なため、コーナリングでは立ち上がりで挙動がギクシャクすることが多々あった。
ポテンシャルが高いからこそ……
注目の4WAS装着車は、さらにそんな印象が強まる。低速域での反応のシャープさは格段に増しているが、キレ味鋭い代わりに前輪のグリップと掌を介して対話しながら舵角をキレイに決めていくといった歓びは逆に希薄で、切り過ぎたり、あるいは舵角が足りなかったりを繰り返してしまう。シャープな反応は最初は刺激的だが、それが本質的にスポーティと言えるのかは、また別の話。クルマと深く濃く付き合っていきたいなら、現時点では僕は4WAS未装着をオススメとする。
こんな風にまだいくつか注文をつけたい部分はあるが、その走りの実力が明らかに高いレベルにあることは確かである。しかし、2006年のスカイラインとして、かつての神話など知らない層にアピールするには、それだけではやはり足りない。走りのよさなんてスカイラインが10年前にも、あるいは20年前にもアピールしていた価値なのだ。
それがハイブリッドなのか、やめてしまった直噴なのか、それとも画期的な燃費向上メカニズムなのかはわからないが、今の時代に登場する新しいスカイラインには、走りだけじゃない何か新しい価値を求めたい。それが見えてこないのが、現状の最大の問題点ではないだろうか。
これはあくまでエールのつもりである。そう、もっともっとと貪欲に期待したくなるくらい新型スカイラインの走りのポテンシャルは高い。だからこそ、それだけのクルマに終わってほしくはないのである。
(文=島下泰久/写真=郡大二郎(KO)、河野敦樹(KA)/2006年12月)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。