第6回:アフターマーケットでの成功を狙って〜米ビッグ3のビジネス舞台裏〜(前編)(桃田健史)
2006.11.13 アメ車に明日はあるのか?第6回:アフターマーケットでの成功を狙って〜米ビッグ3のビジネス舞台裏〜(前編)
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■プレスなのに取材拒否?
「今すぐ、ここから出て行って下さい!」。強面のセキュリティにすごまれた。
ここは、米ネバダ州ラスベガス。毎年11月の恒例イベント、世界最大級の自動車アフターマーケット見本市であるSEMA(Specialty Equipment Market Association)ショーの取材に来た。
問題が発生したのは開催2日目の昼、ラグジィ系大手ホイールメーカーのブースでのことだ。
雑誌掲載用に、まずは手持ちデジカメでパチパチと撮影。そして、タイヤサイズなどをメモしようとカバンからノートを取り出した瞬間、セキュリティが飛んできたのだ。
彼は「商品について、筆記することはお断りします」と言う。私は首からぶら下げたSEMA発行のプレスクレデンシャルを見せて、「いや、私はプレス。取材ですから」とさりげなく言うと、「ですから、商品についてここで書くことは一切できません。写真は構いませんが」と、相手はより強い口調で返してきた。
「あなたの言う意味がよく分かりません。つじつまが合わないので、SEMA事務局に後で聞いてみます」と言った瞬間、相手は「今すぐ、ここから出て行って下さい!」と血相を変えた。
埒(らち)が明かないと思った私は渋々そのブースを出た。するとあのセキュリティは私の後ろ姿を指差し、ブース入り口のキャンギャルに「アイツを、2度とここに入れるな!」と“用心棒”のような捨て台詞を残した。
こうしてつまみ出された私。まるで、間違えて入ってしまった新宿歌舞伎町の非合法な飲み屋から叩き出されたような気分になった。
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■ついに34インチ! 毎年1インチ大きくなるホイール
事を荒げるつもりはないが、なんとなく気分がスッキリしないので、SEMA事務局に取材に関する制約事項について聞いてみた。
すると「エキシビター(出展者)それぞれの判断に任せています。コピー製品目的で、製品の詳細を描いたり、サイズを測られるのを嫌う傾向が多いですから」。
私は、「いや、それは我々の問題ではなく……」と言いかけたが止めておいた。
“偽装ウェブサイト”や“コーディネーター”を名乗り、無償入場券であるプレスクレデンシャルを申請する米国内外の輸入業者、製造業者が大勢いるのが現実であることを知っているからだ。特に、メチャクチャ儲かる商材であるギンギンギラギラのラグジィ系大径ホイール業界では、パクリ合戦&訴訟合戦が大ブレイク中である。
気を取り直してショー会場に戻ると、さっそく見つけた。
「おー、今年はついに、34インチだぁ!」
ここ10年程、毎年SEMAショーでの名物となったのが、各社が競い合う“毎年1インチずつ大きくなっていくホイール”。日系のYOKOHAMA、TOYO、NITTOや、韓国系のKUMHOなどの米国市場後発タイヤメーカーは、価格が高くても一部の熱狂的な層に着実に売れる超扁平タイヤ(扁平率20〜35)に注力し、ラグジィ系ホイールメーカーとタッグを組んでビジネスを拡大させている。
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■最後のオイシイ商売
こうした流れに、米ビッグ3も相乗りしようと必死だ。
4、5年程前まで、SEMAショーでGM、フォード、ダイムラー・クライスラーのアフターパーツ関係者を取材すると、「走行性能に支障を及ぼしますから。SUVでも20インチなんてあり得ませんヨ」と言っていた。
しかし今では、メーカーオプションで20インチはあたりまえ。今回、GMのアフターパーツ関係者に聞くと、「現在、22インチ導入の準備をしています。アフターメーカーがドンドンサイズアップしていきますから、私たちも当然そのトレンドを追うことになります」とアッサリしたコメントだ。
当然、安全基準についてのテストは十分行っているのだろうが、“見た目重視で、短絡的に大きさ追求”を自動車メーカー側が後追いするのはいかがなものだろうか。
とはいえ、ビッグ3のメーカーオプションのホイールは、社外ラグジィ系ホイールと見比べるとはっきり言って地味だ。そこには、「自動車メーカーとしての良心=PL(製造者責任法)へのビビリ」が見え隠れしているのだ。
ガソリン高騰→ダウンサイジング→日系の小中型車の活況→デッカイアメ車が売れない、との構図が鮮明になった昨今。ビッグ3のカーディーラーにとって、ホイール、ルーフラック、ベッドライナー(ピックアップトラックの荷台用の下敷き)など、メーカーオプションパーツは、最後に残されたオイシイ商売なのだ。
今後、メーカーオプションはどこまで大きくなるというのか。ホイールの大きさがドンドン膨らんでいく様子は、まるで経済バブルの風船がムクムクと膨らんでいるように見えてならない。(つづく)
(文=桃田健史(IPN)/2006年11月)

桃田 健史
東京生まれ横浜育ち米テキサス州在住。 大学の専攻は機械工学。インディ500 、NASCAR 、 パイクスピークなどのアメリカンレースにドライバーとしての参戦経験を持つ。 現在、日本テレビのIRL番組ピットリポーター、 NASCAR番組解説などを務める。スポーツ新聞、自動車雑誌にも寄稿中。
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第11回:ガンバレ、アメ車たち!(後編)〜ビッグ3にエールを 2007.3.1 「アメ車に明日はあるのか?」というエッセイの締めくくりとして、米ビッグ3それぞれを分析しようと思う。今までの取材に加え、ここ1ヶ月ほどの取材で痛感したことも多い。
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第10回:ガンバレ、アメ車たち!(前編)〜アメ車が売れない現実 2007.2.28 2007年に入り、私だけではなく、世界中の自動車関係者たちがこう言い出した。「アメ車に明日はあるのか?」アメ車たちはいま、彼らの社史上で最大のターニングポイントに差し掛かっている。
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第9回:アメ車の味とはなんなのか? 〜日欧のクルマと違う道へ(後編) 2006.12.29 ■古い設計でも十分と考えるフォードGMに続き、フォードの試乗エリアに来てみると、ウェイティングの人があとを絶たない。そう、皆、「シェルビーGT500」(5.4リッターV8、500ps)にどうしても乗りたいのだ。それほど“シェルビー効果”は、典型的なアメリカ人に有効なのだ。その乗り味を一言で表現すると「意外と、普通」。エンジンONでV8がドロドロすることもないし、低速走行でサスがガシガシ、ゴツゴツもしない。「なんだか拍子抜けしちゃう」ほど、普段のドライブに向いている。アクセル全開で、イートン製ルーツ式3枚歯スーパーチャージャーが「ウギュワァーン!」と叫ぶ。だが、遮音性が意外と高く、うるさいと思う音量・音質ではない。直線でフルスロットル。リアサスがじーんわりと沈みこみ、ズッシーンと加速する。コーナーに進入。トラクションコントロールをONにしたまま、この手のクルマとしては中程度の重さとなるパワステを切る。ステアリングを切ったぶんだけクルマ全体が曲がるような安心感があるのだが、ステアリングギア比が意外とスローで、結構な角度まで切りたす必要があった。ロール量は、乗り心地と比例して大きいが、「この先、どっかにブッ飛っンでいっちゃうのか!?」というような不安はない。ちなみにトラクションコントロールOFFで同じコーナーを攻めてみると、意外や意外、コントローラブルだった。このボディスタイルからすると、スナップオーバー(いきなりグワーンとリアが振り回される現象)を想像してしまうのだが……。日系自動車メーカー開発者たちはよく「こんな古い基本設計のリアサスでいいのか?」といっている。しかし、シェルビーGT500の目指す「大パワーを万人向きに楽しく&乗りやすく」は、十分満たされている。なお、系統は違うが、期待のミドサイズSUV「エッジ」でも同様に、マイルド系ズッシリ乗り味は表現されていた。
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第8回:アメ車の味とはなんなのか? 〜日欧のクルマと違う道へ(前編) 2006.12.28 毎年恒例、米国メディア団体のMPG(Motor Press Guild)主催のトラックデー。日米欧韓各自動車メーカーが最新型車両を持ち込み、サーキットと一般路で走行体験をさせてくれるビッグイベントだ。今回集まったのはおよそ130台。アメ車たちは他国モデルのなかに埋もれず、個性を出していたのだろうか?■アメ車の個性をハイパフォーマンスモデルで試す皆さんはこんなことを思ったことはないだろうか。「クルマの技術って、メーカーによってそんなに違いがあるの? どのメーカーだって、最新コンピュータ技術を導入しているし、生産技術は上がっているし、他社関連の情報だってウェブ上に溢れかえっている。だいたい、比較車両としてどのメーカーも競合車は購入してバラバラにして詳細解析しているのだから、同じ価格帯のクルマならどこのメーカーも似たようなクルマになるでしょ……」確かに一理ある。ところが、現実には各社モデルには技術的な差がある。その差を背景として、各車の“味”も変わってくる。特に、乗り味、走り味の差は大きい。その原因は、購買コスト&製造コストとの兼ね合い、開発責任者のこだわりやエゴ、実験担当部署の重鎮との社内的なしがらみ、開発担当役員の“鶴の一声”……など様々だ。ではそうした差は、アメ車と日欧韓車、いかに違うのか。今回の「トラックデー」で、約50台のステアリングホイールを握ったが、そのなかでも各社が力を入れ、アメ車の色が濃く出ているハイパフォーマンスモデルに絞って、乗り味、走り味を比較してみたい。場所はウイロースプリングス・ロングコース(1周約3km)。ここでは200km/hオーバーの高速コーナリングから、ハードブレーキングまでチェックできるほか、近場の一般道でも乗り心地などを試すことができる。
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第7回:アフターマーケットでの成功を狙って〜米ビッグ3のビジネス舞台裏〜(後編)(桃田健史) 2006.11.15 ■会場はレトロな雰囲気スターがいない。これが、今年のSEMAショー全体を見ての率直な感想だ。SEMAショーではここ数年、「ハマーH2」「クライスラー300C」や、ホンダ系プライベーター主導のジャパニーズ暴走族、などアメリカの社会背景を映し出してきたクルマたちが華やいでいた。だが今回は、次世代のスターの姿が全く見えてこなかった。毎年キャッチコピーや『Car/Truck of the Show』というテーマを祭り上げて、ショー全体の雰囲気作りを行っているSEMAショーの今年のテーマは『American Musclecar』。会場正面玄関には歴代の「フォード・マスタング」「ダッジ・チャージャー/チャレンジャー」「シボレー・カマロ/コルベット」など、V8ドロドロなアメリカン魂たちがレッドカーペットの上で整然と構えていた。ということで、会場内のあちこちにも60年代のレトロな雰囲気が蔓延していた。アメリカングラフィティ世代の初老のカーファンたちは「いやー、昔のアメリカはほんと、楽しかったわいなぁ……」とノンビリとした足取り。
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