第9回:アメ車の味とはなんなのか? 〜日欧のクルマと違う道へ(後編)
2006.12.29 アメ車に明日はあるのか?第9回:アメ車の味とはなんなのか? 〜日欧のクルマと違う道へ(後編)
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■古い設計でも十分と考えるフォード
GMに続き、フォードの試乗エリアに来てみると、ウェイティングの人があとを絶たない。そう、皆、「シェルビーGT500」(5.4リッターV8、500ps)にどうしても乗りたいのだ。それほど“シェルビー効果”は、典型的なアメリカ人に有効なのだ。
その乗り味を一言で表現すると「意外と、普通」。エンジンONでV8がドロドロすることもないし、低速走行でサスがガシガシ、ゴツゴツもしない。「なんだか拍子抜けしちゃう」ほど、普段のドライブに向いている。
アクセル全開で、イートン製ルーツ式3枚歯スーパーチャージャーが「ウギュワァーン!」と叫ぶ。だが、遮音性が意外と高く、うるさいと思う音量・音質ではない。
直線でフルスロットル。リアサスがじーんわりと沈みこみ、ズッシーンと加速する。
コーナーに進入。トラクションコントロールをONにしたまま、この手のクルマとしては中程度の重さとなるパワステを切る。ステアリングを切ったぶんだけクルマ全体が曲がるような安心感があるのだが、ステアリングギア比が意外とスローで、結構な角度まで切りたす必要があった。
ロール量は、乗り心地と比例して大きいが、「この先、どっかにブッ飛っンでいっちゃうのか!?」というような不安はない。
ちなみにトラクションコントロールOFFで同じコーナーを攻めてみると、意外や意外、コントローラブルだった。このボディスタイルからすると、スナップオーバー(いきなりグワーンとリアが振り回される現象)を想像してしまうのだが……。
日系自動車メーカー開発者たちはよく「こんな古い基本設計のリアサスでいいのか?」といっている。しかし、シェルビーGT500の目指す「大パワーを万人向きに楽しく&乗りやすく」は、十分満たされている。
なお、系統は違うが、期待のミドサイズSUV「エッジ」でも同様に、マイルド系ズッシリ乗り味は表現されていた。
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■ソフト、マイルド、典型的アメ車のクライスラー
アメ車のなかでここ数年、ハイパフォーマンス系を躍起になって追いかけてきたのがダイムラー・クライスラー(以下DC)だ。AMGやMなどと同じ位置づけを狙い、SRT(Street&Racing Technology)というブランド展開をしかけてきた。
ちなみにDCには現在、クライスラー、ダッジ、ジープとあるが、SRTは3ブランドを横断して設定している。
「ダッジ・チャージャーSRT8」(6.1リッターV8 HEMI、425ps)、「ジープ・チェロキーSRT8」(6.1リッター/V8 HEMI、420ps)を、サーキットで全開走行してみる。
ピットに並んでいる両車の姿を見て思わず「うぉー、カッチョいいー」と、小躍り。さらに「チャージャーパトカー」を交えてしまうと、往年の刑事ドラマ『西部警察』のような、“わかりやすいカッコ良さ”を感じる。
チャージャーSRT8はエンジンを始動すると、OHVのわかりやすい音と振動がフロアに響く。
ハイパフォーマンスブランド「SRT」の名を信じてコーナーに突入すると……ソフトすぎる! パワステは非常に軽く、バネ上がスワーンとマイルドに動く。ステアリングでのいわゆる“壁”がないのに、ある時点からクククッと操舵されてしまう。ステアリングを切ったぶんだけ曲がるという、安心第一のFRではなく、舵角と旋回ラインが微妙にリンクしない。
これぞ、「典型的、古典的なアメ車ハンドリングテイスト」だ。
ドイツ車に乗った直後だと頭は混乱するかもしれない。それぐらいチャージャーSRT8の操作感は特殊だった。特別に怖いわけではないが、ハイペースで走るには、ドライバーの頭のスイッチを大きく切り替えないと運転できない。
チェロキーSRT8に乗ると、ローダウンなボディスタイルに似合わず、サスはマイルドでロール量がかなり大きい。それを20インチタイヤでガッツリと支えているように走る。しかも、チャージャーSRT8よりHEMIドロドロ音がかなり大きい。
新型「BMW X5」 「アキュラMDX」も走らせたが、チェロキーSRT8が求める走り味とは180度違っていた。
つまりSRTとは“真のマッスル”なのだ。独シュトゥットガルト(メルセデス本部)としても「根本的に、SRTはAMGとは狙っているマーケットが違う。当然コスト的にも、AMGと同等にならない。SRTは徹底したアメリカンを追及するべし」と判断しているのだろう。
サーキット走行タイムの速い遅いが、SRTの商品判断基準ではないようだ。SRTはマッスル体験型商品として、確固たる人気を誇っているのだ。
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■生き抜く道を見つけた
以上、米ビッグ3を乗り味、走り味の特徴から比較してみると、まことに3社3様である。
しかし、3社に共通して、アメ車には「大らかさ」がある。これは一般的にアメ車を表現するときに使われるあいまいな言葉でもあるが、最新モデルに実際乗ってもその特徴を感じる。特に最近は、メーカーがそれを“味”と認識し、意識的に出している感すらある。
その「おおらかさ」を持ち合わせながらも、ビッグ3はそれぞれ味付けを変えている。
一言でいえば、GMは「プチ・ヨーロピアンな上昇志向」、フォードは「アメリカン・トラディショナルな迫力」、DCは「圧倒的なオリジナルテイストをプッシュ」といえるだろう。
アメ車が、欧州車、日本車、韓国車に負けないためには、「あのテイストが好きだから、GMが、フォードが、DCが、買いたい!」とユーザーに思ってもらえる個性を確立することが大切だ。
どうやらビッグ3は、それぞれの生き抜く道をやっと探し当てたようだ。
(文=桃田健史(IPN)/2006年12月)
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桃田 健史
東京生まれ横浜育ち米テキサス州在住。 大学の専攻は機械工学。インディ500 、NASCAR 、 パイクスピークなどのアメリカンレースにドライバーとしての参戦経験を持つ。 現在、日本テレビのIRL番組ピットリポーター、 NASCAR番組解説などを務める。スポーツ新聞、自動車雑誌にも寄稿中。
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第11回:ガンバレ、アメ車たち!(後編)〜ビッグ3にエールを 2007.3.1 「アメ車に明日はあるのか?」というエッセイの締めくくりとして、米ビッグ3それぞれを分析しようと思う。今までの取材に加え、ここ1ヶ月ほどの取材で痛感したことも多い。
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第10回:ガンバレ、アメ車たち!(前編)〜アメ車が売れない現実 2007.2.28 2007年に入り、私だけではなく、世界中の自動車関係者たちがこう言い出した。「アメ車に明日はあるのか?」アメ車たちはいま、彼らの社史上で最大のターニングポイントに差し掛かっている。
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第8回:アメ車の味とはなんなのか? 〜日欧のクルマと違う道へ(前編) 2006.12.28 毎年恒例、米国メディア団体のMPG(Motor Press Guild)主催のトラックデー。日米欧韓各自動車メーカーが最新型車両を持ち込み、サーキットと一般路で走行体験をさせてくれるビッグイベントだ。今回集まったのはおよそ130台。アメ車たちは他国モデルのなかに埋もれず、個性を出していたのだろうか?■アメ車の個性をハイパフォーマンスモデルで試す皆さんはこんなことを思ったことはないだろうか。「クルマの技術って、メーカーによってそんなに違いがあるの? どのメーカーだって、最新コンピュータ技術を導入しているし、生産技術は上がっているし、他社関連の情報だってウェブ上に溢れかえっている。だいたい、比較車両としてどのメーカーも競合車は購入してバラバラにして詳細解析しているのだから、同じ価格帯のクルマならどこのメーカーも似たようなクルマになるでしょ……」確かに一理ある。ところが、現実には各社モデルには技術的な差がある。その差を背景として、各車の“味”も変わってくる。特に、乗り味、走り味の差は大きい。その原因は、購買コスト&製造コストとの兼ね合い、開発責任者のこだわりやエゴ、実験担当部署の重鎮との社内的なしがらみ、開発担当役員の“鶴の一声”……など様々だ。ではそうした差は、アメ車と日欧韓車、いかに違うのか。今回の「トラックデー」で、約50台のステアリングホイールを握ったが、そのなかでも各社が力を入れ、アメ車の色が濃く出ているハイパフォーマンスモデルに絞って、乗り味、走り味を比較してみたい。場所はウイロースプリングス・ロングコース(1周約3km)。ここでは200km/hオーバーの高速コーナリングから、ハードブレーキングまでチェックできるほか、近場の一般道でも乗り心地などを試すことができる。
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第7回:アフターマーケットでの成功を狙って〜米ビッグ3のビジネス舞台裏〜(後編)(桃田健史) 2006.11.15 ■会場はレトロな雰囲気スターがいない。これが、今年のSEMAショー全体を見ての率直な感想だ。SEMAショーではここ数年、「ハマーH2」「クライスラー300C」や、ホンダ系プライベーター主導のジャパニーズ暴走族、などアメリカの社会背景を映し出してきたクルマたちが華やいでいた。だが今回は、次世代のスターの姿が全く見えてこなかった。毎年キャッチコピーや『Car/Truck of the Show』というテーマを祭り上げて、ショー全体の雰囲気作りを行っているSEMAショーの今年のテーマは『American Musclecar』。会場正面玄関には歴代の「フォード・マスタング」「ダッジ・チャージャー/チャレンジャー」「シボレー・カマロ/コルベット」など、V8ドロドロなアメリカン魂たちがレッドカーペットの上で整然と構えていた。ということで、会場内のあちこちにも60年代のレトロな雰囲気が蔓延していた。アメリカングラフィティ世代の初老のカーファンたちは「いやー、昔のアメリカはほんと、楽しかったわいなぁ……」とノンビリとした足取り。
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第6回:アフターマーケットでの成功を狙って〜米ビッグ3のビジネス舞台裏〜(前編)(桃田健史) 2006.11.13 ■プレスなのに取材拒否?「今すぐ、ここから出て行って下さい!」。強面のセキュリティにすごまれた。ここは、米ネバダ州ラスベガス。毎年11月の恒例イベント、世界最大級の自動車アフターマーケット見本市であるSEMA(Specialty Equipment Market Association)ショーの取材に来た。問題が発生したのは開催2日目の昼、ラグジィ系大手ホイールメーカーのブースでのことだ。雑誌掲載用に、まずは手持ちデジカメでパチパチと撮影。そして、タイヤサイズなどをメモしようとカバンからノートを取り出した瞬間、セキュリティが飛んできたのだ。彼は「商品について、筆記することはお断りします」と言う。私は首からぶら下げたSEMA発行のプレスクレデンシャルを見せて、「いや、私はプレス。取材ですから」とさりげなく言うと、「ですから、商品についてここで書くことは一切できません。写真は構いませんが」と、相手はより強い口調で返してきた。「あなたの言う意味がよく分かりません。つじつまが合わないので、SEMA事務局に後で聞いてみます」と言った瞬間、相手は「今すぐ、ここから出て行って下さい!」と血相を変えた。埒(らち)が明かないと思った私は渋々そのブースを出た。するとあのセキュリティは私の後ろ姿を指差し、ブース入り口のキャンギャルに「アイツを、2度とここに入れるな!」と“用心棒”のような捨て台詞を残した。こうしてつまみ出された私。まるで、間違えて入ってしまった新宿歌舞伎町の非合法な飲み屋から叩き出されたような気分になった。
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