フィアット復活物語 第12章「大予言!フィアットはベネトン化する」(大矢アキオ)
2006.11.02 FIAT復活物語第12章:「大予言!フィアットはベネトン化する」
■出たーッ!ストップ高
まずはフィアットの近況からお伝えしよう。ミラノ証券取引所では10月20日、フィアットの株価がついに14ユーロを超えて、ストップ高となった。
一部ではさらに数ユーロ値上がりするのではないか?との憶測も流れている。凡庸な表現ではあるが、今フィアット株はバブル、である。
別の機会に詳しく触れるが、ここ数年周辺ビジネスをひたすら捨てて自動車ビジネスに特化してきた効果が、ようやくあらわれたといえよう。
■捨てなかった国外工場
ただしフィアットはリストラに際し、工場閉鎖というかたちは採らなかった。国外拠点も、スペイン法人であるセアトを1986年に売却したのが事実上最後だ。
現在フィアットは、ブラジル、ポーランド、インド、フランス、トルコ、中国に100%もしくは他企業との合弁工場をもつほか、南アフリカとベトナムに組み立て工場がある。また、スズキのハンガリー工場からは、スズキSX4の兄弟車である4WD「セディチ」の供給を受けている。
ちなみに、トルコ、ポーランド、ブラジルの工場は、70年代にフィアットが推し進めたグローバル戦略の産物である。
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■フィアット版ワールドカー
そうした海外拠点用に、フィアットには専用モデル=ワールドカーがある。96年に誕生した「シエナ/パリオ」だ。
Sienaとは、ボクが住むイタリア中部の街の名前だ。Palioとはシエナで行われる競馬の名前で、イタリアを代表する行事のひとつである。
このネーミング、シエナの一部市民は、「我が街の誇り高き伝統行事の名前を世俗のクルマなんぞに使いおって」とカンカンに怒ったそうだが、大フィアットはマジに相手にしなかった。
シエナ/パリオは、デザインはトリノのデザインハウスI.DE.Aイスティトゥートが手がけ、パリオ・ウィークエンド(ワゴン)はイタルデザイン・ジウジアーロがエンジニアリングに関与した。
ブラジル、インド、トルコ、中国、ベトナムで造られており、今年ブラジル工場ではパリオの世界生産200万台を祝った。もはや10年選手だが、それぞれの生産国や周辺国で絶大な人気を誇っている。
唯一の失点は、ヨーロッパではウケなかったことである。華やかさに欠けたスタイルが祟ったと思われる。事実イタリアでも、カタログから消えて久しい。
■非イタリア系が面白くなる兆し
先日ようやく、その挽回ができそうな非イタリア製フィアットの概要が明らかになった。
トルコ工場で生産される「リネア」である。株価がストップ高となったのと同じ20日のことだ。
いわばグランデプントのノッチバック版だが、セダン特有のオヤジ臭さがない。世界でもっともスタイリッシュなセダンのひとつではないか。欧州でも2007年中頃に販売開始される。
さらに、本欄でもたびたび紹介した新型チンクエチェントも、ポーランドで生産される予定である。
でも、フィアットは、やっぱりmade in Italyでなくてはウケないのでは? その心配はないだろう。
ヨーロッパの一般ユーザーは、スタイルが良く、品質が高く、値段が妥当ならば、もはや製造国にはこだわらない。
事実、現行フィアット・パンダはポーランド工場製だが、イタリアではグランデプントに次ぐ販売台数を誇り、復活フィアットの屋台骨を支える1台となっている。
■フィアットのベネトン化
リネアも新型チンクエチェントも、成功を収めるだろう。
それで思い出すのは、同じイタリアのベネトンである。ベネトンのアパレル製品は、早くからアジア諸国の拠点に生産を移し、コストダウンを図った。しかし、それを巧みにグローバルなイメージに転化し、いわば“売り”にしてしまった。
イタリア臭さが身上のアルファ・ロメオやランチアはイタリアで生産し続けるかわりに、フィアット・ブランドは徐々にベネトン化してゆく。これがボクの大予言である。
蛇足ながら、日本で路上を走るクルマを見ると、いまだ韓国車が少ないばかりか、たとえ日本ブランドでも海外生産車に乗っている人は少ない。
もっと日本人も国籍にこだわらなければ、クルマ選びの選択肢も広がって楽しいと思うのだが、いかがだろう?
(文=大矢アキオ-Akio Lorenzo OYA/写真=フィアット/2006年11月)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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