エンジニアが「車検・点検時に注意すべき」と思う点は?

2026.02.24 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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マイカーの車検や定期点検を、販売店に言われるがままに受けてきました。何をどう見てもらっているのか、私自身よくわかっていないのですが、メカのプロ(整備士やエンジニア)が注視すべきと考える、車両のチェックポイントはありますか?

こう言ってしまうと身もふたもないのですが、「車検といっても、それほど大したことはやっていないので、特に注意することはありません」というのが答えです。実は私も近々、マイカー(軽トラと「RAV4」)の車検なんですよ。それも、「また物入りだな」と思っているだけのことで(苦笑)。

今回の質問は、少なくないお金を毎回取られて「一体何をやってるんだろう?」と疑問に思ってのことでしょうが、タイヤの空気圧やタイヤに異物が刺さっていないかどうかの確認をはじめ日常点検をユーザーがしっかりやっていれば、わざわざ点検してもらう必要なんてあまりないんです。今どきのクルマは。

そもそも世界的に見て、車検がある国のほうが少ないくらいです。アメリカなどは州によりますが、基本的に車検がありません。あれだけクルマが走っていても、車検がないからといって大混乱が起きたり事故が多発したりという話は聞きませんよね。ヨーロッパ、特にドイツなどは日本に近い。その流れでわが国で車検が行われているという面がありますね。

いわゆる“旧車”のような、電気系統が整っていない古いクルマには、昔ながらのやり方も必要でしょう。しかし、それも全体から見ればごくわずかであり、個別に対応すれば済むこと。例えば、現代の生産ラインでつくられた、ここ10年~15年くらいの日本車であれば、重要なパーツの取り付け部分がゆるむなんてことは、普通に考えてありえません。もちろんゼロとは言いませんが、エンジンが焼きつくとかサスペンションの構成部品が外れるといった重大なトラブルは、余計な改造でもしていない限り、まず起こらない。

今ではオイルレベルもタイヤの空気圧もセンサーが警告してくれますし、オイル自体も昔ほど頻繁に変える必要はない。「定期的に換えましょう」などと言われますが、実際には“慣らし”すらマストではなく、1万km走った時に一回換えて、あとは10万kmまでそのままでもほとんど問題ないくらい、今のエンジンの加工精度やオイルの性能は上がっています。2000年以降のクルマならほぼ大丈夫。特に2010年以降なら、全く問題ないといえるでしょう。

これを機会にあえて言いますが、私は、日本の車検制度はそろそろ見直すべき時期にきているのではないかと思います。

一番いけないのは、車両のチェックとセットで「重量税の徴収」「自賠責保険の更新」を行っている点です。保険や税金といったお金を一緒に取られるから、「車検は高額だ」という印象だけが残って中身がよくわからなくなっている。取るほうは取りやすいからそうしているのでしょうが、点検と税金は切り離すべきです。

もう一つ、今のクルマには「OBD(On-Board Diagnostics:車載式故障診断装置)」というコンピューターが備わっていて、クルマの状況や故障の予兆など、ほぼすべての情報が履歴として内部に残っているんです。メーカー専用のコンピューターをつなげば、その状況が一発でわかります。

今や法的にも、OBDチェックは義務づけられつつあります。車検においては、2021年10月1日(輸入車は2022年10月1日)以降の新型車を対象に、2024年10月1日(輸入車は2025年10月1日)から実施されている。

ディーラーもそこにつないで「はいOK」「ここはダメ」と判断し、あとは目視でまわりを確認する程度です。昔のように整備士がすべて手作業でチェックするよりも、ミスがなく網羅的なので、今はもうそうなっているわけです。

このOBDと、近年対応車種が増えてきた「OTA(Over The Air)」、つまり無線通信によるアップデート機能を組み合わせれば、ワイヤレスで車検のようなことはできるはずなんです。日本はしばしば「電動化やデジタル化で後れをとっている」などといわれますが、OBDとOTAで車検システムを世界最先端のものにすれば、費用も安くなるし、気軽に頻繁にチェックできるため、安全性も高まります。

既存のシステムを組み合わせればできることなのに、なぜやらないのかといえば、そこには「ディーラーや整備工場の利益が減ってしまうから」という議論もあるでしょう。しかし、OBDとOTAを活用して自宅にいながらできる、あるいはディーラーに持ち込んでも短時間で済むような、ユーザーメリットのある仕組みはつくれるはず。旧態依然とした今の車検や点検に大した意味があるとは、私には思えません。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。