第32回:『偉大なる失敗作』ホンダ1300(1969〜1972)(その1)
2006.09.13 これっきりですカー第32回:『偉大なる失敗作』ホンダ1300(1969〜1972)(その1)
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ホンダが四輪車市場に参入したのは、いまを遡ること41年、1963年のことである。
この分野では最後発だったホンダが、本格的な四輪メーカーへ脱皮するために、まさに社運を賭して開発、68年に発表したモデルが「ホンダ1300」だった。それはDDAC(一体式二重空冷)と呼ばれる前代未聞の空冷エンジンをはじめ、独創的なメカニズムを満載したユニークかつ高性能な小型車で、大いに話題を呼んだのだが……。
■独創的な技術屋集団
「チャレンジングスピリット」というキーワードのもと、独創的な技術開発を創業以来のポリシーとしてきたホンダ。それゆえに、ときに「びっくり箱」と形容されるようなユニークな製品をあれこれ送り出してきたが、その歴史のなかでも最大級の「技術のびっくり箱」が、1969年から72年までつくられた「ホンダ1300」シリーズではないだろうか。
なにしろ1300シリーズ最大の特徴である、DDAC(デュオ・ダイナ・エア・クーリングシステム=一体式二重空冷)と呼ばれる空冷エンジンは、ホンダのみならず世界中を見渡しても唯一無二、空前絶後、つまりは「これっきり」なのだから。
59年の初挑戦からわずか3シーズン目の61年にはロードレース世界グランプリを制し、二輪車メーカーとして世界にその名を知られたホンダが、四輪車市場に進出したのは63年のことである。総アルミ製の水冷直4DOHC4キャブレターという、超高性能レーシングユニット並の贅沢な設計のエンジンを搭載した小型スポーツカーの「S500」と軽トラックの「T360」を発売し、世間を驚かせたのだった。
四輪の分野では市販1号車からしてびっくり箱だったわけだが、翌64年にはなんと四輪レースの最高峰であるF1に挑んだ。二輪レースでの実績があり、またすでに日本初の本格的なレーシングコースである鈴鹿サーキットを建設していたとはいえ、四輪に関してはヨチヨチ歩きを始めたばかり。たとえるなら幼稚園から高校までをすっ飛ばしていきなり大学入試に挑んだようなものである。にもかかわらず挑戦2年目には早くも勝利を挙げてしまったのだから、こんなメーカーは世界広しといえどもホンダ以外にはなかった。
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■軽で成功、そして……
それから3年後、ホンダはまたもや世の注目を集めた。3月に発売した軽乗用車の「N360」が爆発的にヒットし、58年のデビュー以来、軽の盟主として君臨していた「スバル360」からベストセラーの座を奪い取ったのだ。
空冷並列2気筒SOHCという、自社のモーターサイクル用をそのまま移植したような、既存の軽より5割以上も強力なパワーユニットがもたらす高性能、前輪駆動の採用による高効率のパッケージング、そしてライバルよりはるかに安い価格。「速い、広い、安い」と三拍子が揃った革命児であったN360は、空前の軽ブームさえ巻き起こしたのだった。
軽自動車市場を掌中に収めたとなれば、次は小型車市場への進出を目論むのは自明の理である。68年4月の定例株主総会において、創業社長である故・本田宗一郎が「今秋の東京モーターショーまでに新たな1リッター級のセダンを発表する」と述べたことで、その計画が明らかになった。
「カローラ」「サニー」をはじめ競合車種がひしめく最大の激戦区に殴り込みをかける“ホンダ大衆車”は、噂では開発中のF1マシンの技術が導入された空冷エンジンのFFセダンということだったが、なにしろホンダのやることである。いったいどんなモデルを出してくるのか、ユーザーは興味津々、競合メーカーは戦々恐々だった。(つづく)
(文=田沼 哲/2004年11月)

田沼 哲
NAVI(エンスー新聞)でもお馴染みの自動車風俗ライター(エッチな風俗ではない)。 クルマのみならず、昭和30~40年代の映画、音楽にも詳しい。
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第53回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その4「謎のスプリンター」〜 2006.11.23 トヨタ・スプリンター1200デラックス/1400ハイデラックス(1970-71)■カローラからの独立1970年5月、カローラが初めて迎えたフルモデルチェンジに際して、68年に初代カローラのクーペ版「カローラ・スプリンター」として登場したスプリンターは、新たに「トヨタ・スプリンター」の名を与えられてカローラ・シリーズから独立。同時にカローラ・シリーズにはボディを共有する「カローラ・クーペ」が誕生した。基本的に同じボディとはいえ、カローラ・セダンとほとんど同じおとなしい顔つきのカローラ・クーペに対して、独自のグリルを持つスプリンターは、よりスポーティで若者向けのムードを放っていた。バリエーションは、「カローラ・クーペ」「スプリンター」ともに高性能版の「1200SL」とおとなしい「1200デラックス」の2グレード。エンジンは初代から受け継いだ直4OHV1166ccで、「SL」にはツインキャブを備えて最高出力77ps/6000rpmを発生する3K-B型を搭載。「デラックス」用のシングルキャブユニットはカローラとスプリンターで若干チューンが異なり、カローラ版は68ps/6000rpm(3K型)だが、スプリンター版は圧縮比が高められており73ps/6600rpm(3K-D型)を発生した。また、前輪ブレーキも双方の「SL」と「スプリンター・デラックス」にはディスクが与えられるのに対して、「カローラ・クーペ・デラックス」ではドラムとなっていた。つまり外観同様、中身も「スプリンター」のほうがよりスポーティな味付けとなっていたのである。しかしながら、どういうわけだか「スプリンター1200デラックス」に限って、そのインパネには当時としても時代遅れで地味な印象の、角形(横長)のスピードメーターが鎮座していたのだ。
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第52回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その3「唯一のハードトップ・レビン」〜 2006.11.15 トヨタ・カローラ・ハードトップ1600レビン(1974-75)■レビンとトレノが別ボディに1974年4月、カローラ/スプリンターはフルモデルチェンジして3代目となった。ボディは2代目よりひとまわり大きくなり、カローラには2/4ドアセダンと2ドアハードトップ、スプリンターには4ドアセダンと2ドアクーペが用意されていた。このうち4ドアセダンは従来どおり、カローラ、スプリンターともに基本的なボディは共通で、グリルやリアエンドなどの意匠を変えて両車の差別化を図っていた。だが「レビン」や「トレノ」を擁する2ドアクーペモデルには、新たに両ブランドで異なるボディが採用されたのである。カローラはセンターピラーのない2ドアハードトップクーペ、スプリンターはピラー付きの2ドアクーペだったのだが、単にピラーの有無ということではなくまったく別のボディであり、インパネなど内装のデザインも異なっていた。しかしシャシーはまったく共通で、「レビン」(型式名TE37)および「トレノ」(同TE47)についていえば、直4DOHC1.6リッターの2T-G/2T-GR(レギュラー仕様)型エンジンはじめパワートレインは先代から踏襲していた。ボディが大型化したこと、および双方とも先代ほど簡素でなくなったこともあって車重はレビン930kg、トレノ925kgと先代より60〜70kg前後重くなった。
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第51回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その2「狼の皮を被った羊(後編)」〜 2006.11.10 トヨタ・カローラ・レビンJ1600/スプリンター・トレノJ1600(1973-74)■違いはエンブレムのみ1972年3月のレビン/トレノのデビューから半年に満たない同年8月、それらを含めたカローラ/スプリンターシリーズはマイナーチェンジを受けた。さらに翌73年4月にも小規模な変更が施されたが、この際にそれまで同シリーズには存在しなかった、最高出力105ps/6000rpm、最大トルク14.0kgm/4200rpmを発生する直4OHV1.6リッターツインキャブの2T-B型エンジンを積んだモデルが3車種追加された。うち2車種は「1600SL」と「1600SR」で、これらはグレード名から想像されるとおり既存の「1400SL」「1400SR」のエンジン拡大版である。残り1車種には「レビンJ1600/トレノJ1600」という名称が付けられていたが、これらは「レビン/トレノ」のボディに、DOHCの2T-Gに代えてOHVの2T-B型エンジンを搭載したモデルだった。なお、「レビンJ1600/トレノJ1600」の「J」は「Junior(ジュニア)」の略ではないか言われているが、公式には明らかにされていない。トランクリッド上の「Levin」または「Trueno」のエンブレムに追加された「J」の文字を除いては、外から眺めた限りでは「レビン/トレノ」とまったく変わらない「レビンJ/トレノJ」。だがカタログを眺めていくと、エンジンとエンブレムのほかにも「レビン/トレノ」との違いが2点見つかった。
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第50回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その1「狼の皮を被った羊(前編)」〜 2006.11.6 誕生40周年を迎えた2006年10月に、10代目に進化したトヨタ・カローラ。それを記念した特別編として、今回は往年のカローラおよびその兄弟車だったスプリンター・シリーズに存在した「これっきりモデル」について紹介しよう。かなりマニアックな、「重箱の隅」的な話題と思われるので、読まれる際は覚悟のほどを……。トヨタ・カローラ・レビンJ1600/スプリンター・トレノJ1600(1973-74)■スパルタンな走りのモデル型式名TE27から、通称「27(ニイナナ)レビン/トレノ」と呼ばれる、初代「カローラ・レビン1600/スプリンター・トレノ1600」。英語で稲妻を意味する「LEVIN」、いっぽう「TRUENO」はスペイン語で雷鳴と、パンチの効いた車名を冠した両車は、2代目カローラ/スプリンター・クーペのコンパクトなボディに、セリカ/カリーナ1600GT用の1.6リッターDOHCエンジンをブチ込み、オーバーフェンダーで武装した硬派のモデルとして、1972年の登場から30余年を経た今なお、愛好家の熱い支持を受けている。「日本の絶版名車」のような企画に必ずといっていいほど登場する「27レビン/トレノ」のベースとなったのは、それらが誕生する以前のカローラ/スプリンターシリーズの最強モデルだった「クーペ1400SR」。SRとは「スポーツ&ラリー」の略で、カローラ/スプリンター・クーペのボディに、ツインキャブを装着して最高出力95ps/6000rpm、最大トルク12.3kgm/4000rpmを発生する直4OHV1407ccエンジンを搭載したスポーティグレードだった。ちなみにカローラ/スプリンター・クーペには、1400SRと同じエンジンを搭載した「1400SL」というモデルも存在していた。「SL」は「スポーツ&ラクシュリー」の略なのだが、このSLに比べるとSRは装備が簡素で、より硬い足まわりを持った、スパルタンな走り重視のモデルだったのである。
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