トヨタGRカローラRZ(4WD/8AT)
硬派なホットハッチ 2026.07.01 試乗記 GAZOO Racingの手になる「トヨタGRカローラ」が、一部改良でさらに進化。強化されたボディー剛性にサウンドコントロールシステムの追加など、従来モデルからの変更点をおさらいしつつ、硬派で辛口なその走りをリポートする。発売から続けられる不断の改良
モリゾウこと豊田章男会長の旗のもとで躍進を続けるGAZOO Racing=GR。ちょっと前までは、ホンダやマツダ、もしくはスバルあたりが担っていた「クルマ好きの味方」「クルマ好き御用達」といった役割の多くを、今やGRが引き受けていると言っても過言ではない。当初は、トヨタの既存車をベースにチューニングやドレスアップを施したモデルを輩出していたが、2019年にデビューした「GRスープラ」以降、GRブランド専用車を次々と製作。いよいよ2027年には、ルマンやニュルブルクリンクの24時間レースで優勝を狙えるGT3規格のスーパースポーツ「GR GT」を投入する予定だというから、今からワクワクが止まらない人も多いだろう。
そんなGRが擁する現行ラインナップのなかで、GRのクルマづくりに対する実直な姿勢が最も顕著に表れているのがGRカローラだ。「カローラ スポーツ」をベースにしたホットハッチは、水素燃料の実験車としてスーパー耐久シリーズに参戦したり、プライベーターによってラリーやジムカーナといったスピード競技に用いられたりしているものの、世界ラリー選手権で華々しい活躍を見せる「GRヤリス」のように、自動車競技への参戦を視野に入れたクルマではない。にもかかわらず、GRヤリスや「GR86」と同様、2022年に世界初公開、2023年初頭に日本で発売されてから、毎年のように改良を受けてきた。最初の改良は発売からわずか半年後。2025年には、前年に発表した進化型の導入が遅れたこともあり、なんと1年の間に2度の変更が行われている。しかも、そのうちの1回はマイナーチェンジに相当する規模だった。
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すべてが走りにフォーカスしている
また、その変更内容は、普通のクルマとはちょっと違う特徴的なものなのだ。毎回、締め付けボルトの頭部サイズの拡大だったり、バンパー内にあるダクトの形状変更だったり、溝付きワッシャーの追加だったり……と、デザインの変更や快適装備の充実といった商品改良に慣れている側としては、思わず苦笑いしてしまうほどに、パフォーマンスの向上しか考えていないのである。
確かに、競技での使用機会が多い車種であれば、戦闘力強化のために必要不可欠な変更だが、GRカローラはそういうクルマではない。にもかかわらず、毎回の改良が常に走りにフォーカスしているのだ。揚げ句の果てには、5ドアでボディーの後半に3人が乗れる空間を持つ車種にもかかわらず、2シーターの特別仕様車まで世に送り出している。それも1度ではなく2度もだ。以前、「ルノー・メガーヌR.S.」にも2座のモデルが存在したが、あれはニュルブルクリンクでFF最速の座を「ホンダ・シビック タイプR」から奪取するためにやむを得ず採用した苦肉の策だった。対してGRカローラの2座は、軽くなって運動性能が高まるといった実利はあるものの、レースで勝つとか最高タイムを記録するといった名誉的な利点は、とくにないのである。
競技の世界に身を置く車種でもないのに、なぜGRカローラはこれほどまでに速さや走りの質の向上を求めるのか。それはひとえに、モリゾウが提唱する「もっといいクルマをつくろう」という姿勢によるものだ。いいクルマの概念は車種によって異なるが、「モータースポーツを起点としたいいクルマづくり」をモットーとして掲げるGRのモデルだけに、走りの性能を極めることを主眼に置いた改良が中心になっているのだろう。
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ようやく“普通に買えるクルマ”に
今回試乗した、「25式後期」と呼ばれる2025年9月発表の最新モデルでも、GRカローラは「今度はそこかよ」とツッコミを入れたくなるような改良を受けている。
まずは、ボディーに塗布する構造用接着剤の長さを、従来の18.8mから32.7mへと延長。これはもちろん、サスペンションをしっかり正確に働かせるのに不可欠な、ボディー剛性の向上を目指したものだ。また、エンジンが高回転となった時に作動する、2次吸気口用のクールエアダクトを追加。フロントグリルから直接外気を取り込むガイドを設け、エンジン熱の影響を受けない空気を2次吸気口に送り込むことで、高負荷連続走行などでも安定して高出力を発生できるようにした。
そのほか、今回は走行性能以外の商品力を高める改良も実施している。メーカーオプションのJBLプレミアムサウンドシステムのスピーカー数を、サブウーハーを加えることで8個から9個へと増やし、また同オプション装着車に「アクティブサウンドコントロール(ASC)」を採用した。ASCは、アクセルやシフト操作に応じて疑似のエンジン音や変速機の機械音をスピーカーから流すという、最近BEVで多く見られる演出音作成機能だ。ターボ車のアンチラグ制御作動時に発生する、バブリング音も再現しているという。
そして最後に取り上げる改良が、これこそが今回のいちばんの目玉かもしれない供給体制の改善だ。GRカローラは2023年に発売されてから、抽選、もしくはそれに近いかたちでの販売が続いていた。そんななか、2026年モデルからはイギリスのバーナストン工場でアメリカ向けの生産を開始。これにより元町工場に余力が生まれたことで、納車待ちの列に並べばもれなく購入できる状況へと事態が好転したのだ。
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公道がメインならこれを選んでおくべき
今回試乗したのは、25式前期で追加された8段ATの「GR-DAT」仕様。そこにホールド性を高めた専用セミバケットフロントシートと赤色のシートベルト、ウルトラスエード表皮のステアリングホイール、シフトノブ、手動式パーキングブレーキレバーなどがセットになった「スポーツパッケージ」や、JBLプレミアムサウンドシステム、サブラジエーター、前席シートヒーター、フロアマットなどのオプションが備わり、価格は素の598万円に対して、67万7600円高の665万7600円となっている。
GRカローラの立ち位置をわかりやすく感じさせるのが、スポーツパッケージの存在だ。公道走行をメインにしたスポーツモデルとして売るなら、これらのアイテムは最初から標準装備でもいいはず。それをあえてオプションにしているのは、競技車として使用するには不要なものばかりだからだ。つまり、モータースポーツで使用するユーザーにも配慮しているのである。もちろんそれ以前に、運転支援装置の一部機能をあきらめてまで手動式パーキングブレーキを採用している時点で、GRカローラの立ち位置は明確なのだけれど……(笑)。ただ、公道でしか使用せず、またお金に余裕がある人は、このオプションは絶対に選んだほうがいい。シートは快適性を損なわずにホールド性が高まるし、ウルトラスエード表皮は見た目も触り心地も高級車テイストで、クルマの質感がグンと高くなる。
そんな出来のいいセミバケットシートに身を委ね、駐車場から出ようとした瞬間、ステアリングのギア比でこのクルマの素性が垣間見られた。近年はスポーツモデルに限らず、俊敏性をアピールするために切り始めのギア比が速めで、思わず切りすぎてしまうようなクルマが多い。しかしGRカローラのそれはけっして速すぎず、またステアリングの角度を増していっても舵角の変化量が一定なので、その操作に気を使わなくていい。クルマの動きに集中したい自動車競技でも扱いやすいセッティングだと感じた。
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ウエット路面で如実に感じた駆動力制御の違い
1.6リッター直3ターボは最高出力304PS、最大トルク400N・mのアウトプットを含め、基本的に従来型から大きな変更はない。クールエアダクトの追加くらいだ。力強さは相変わらずで、GR-DAT仕様で1500kgという車重をものともしない。もちろんこの小さな排気量で300PS超という高い出力を得るには大きな過給の助けが必要で、ターボラグもそれなりにある。背中をグッと押されるような加速は3500rpmを超えたあたりからになるが、その旨みを8つの有段ギアで引き出しながら走るのは、クルマを操っている感にあふれていてとても楽しい。自動変速モードも優秀で、クローズドコースでタイムを競うような場合には、むしろこちらのほうが速く走れると思わせるくらい変速タイミングが的確。2つの楽しみ方ができるという側面から考えると、30万円安い6段MTよりお得かもしれない。
GRカローラには、「エコ」「ノーマル」「スポーツ」「カスタム」から選べるドライブモードセレクトのほかに、4WDの前後トルク配分を調整できる4WDモードセレクトスイッチが備わる。前:後=60:40の「ノーマル」、同50:50の「グラベル」、そして60:40~30:70の可変仕様となる「トラック」の3モードから選択が可能だ。今回の取材では、当日の朝まで残っていた雨により路面がウエットだったおかげで、その違いがより鮮明に感じられた。
常時前輪寄りにトルクを配分するノーマルモードは、クルマを常に安定志向に保つ。グラベルモードでも似たような挙動を示すものの、濡れた路面ではノーマルが一番安心できた。逆にトラックモードはコーナーでの鼻先の入りが軽やかで、ノーズがスッと内側に向く。その反面、前後にトルセンLSDを備えるGRカローラは駆動力の伝達が素早いため、コーナー途中でスロットルを強めに開けると、多めにトルクが配分された後輪がズルっと滑る。もちろん、すぐに前輪重視へと配分が変わるため大カウンターステア大会にはならないものの、前後のトルク配分を変えるだけでこんなにも挙動が変わるのだと実感した。
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求む、可変ダンパー
ハンドリングは4WDということが大きく影響しているかもしれないが、俊敏に動くことよりもクルマを常に安定させようとする挙動を見せる。前述したステアリング特性とも相まって、安心してコーナーへステアリングを切り込んでいける。4WDモードをノーマルにしておけば、たとえウエットであっても、路面の状況とタイヤのグリップを常に天秤(てんびん)にかけながら走るという緊張感はない。
サスペンションは、この手のホットハッチとしてはかなり硬め。競技で使うなら足まわりの交換も不可欠なはずだから、もう少し公道使用に配慮したフレンドリーな仕立てでもよいのではと思わなくもなかったが、野性味を与えたかったという開発者の意図をくむと、このくらい辛口にする必要があったのだろう。また、より正確にその印象を記せば、硬いというより路面の凹凸を余すことなく正確にトレースしている感じ。2世代前のスポーツモデルのように、ガツンガツンと体に堪(こた)える尖(とが)った入力はなく、路面の上下動に対してクルマが瞬時に追従するといった感覚だ。とはいえ、できることなら次世代では可変ダンパーを装着してほしいと願うのは私だけではないだろう(笑)。
ホットハッチは実用車以上競技車両未満に仕立てるのが通常だが、GRカローラはちょっと、いやけっこう競技車両の領域まで踏み込んだクルマだ。そういった意味では、先日、惜しまれつつその生産を終了したメガーヌR.S.に似ている。彼らもリソースに余力ができたら、そのすべてを速く走ることにつぎ込んでいた。メガーヌR.S.なき今、それに代わる硬派なホットハッチの筆頭がこのGRカローラだ。いろいろと覚悟は必要かもしれないが、その先に得られるものは大きい。
(文=新井一樹/写真=向後一宏/編集=堀田剛資/車両協力=トヨタ自動車)
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テスト車のデータ
トヨタGRカローラRZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4410×1850×1480mm
ホイールベース:2640mm
車重:1510kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.6リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:304PS(224kW)/6500rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/3250-4600rpm
タイヤ:(前)235/40R18 91W/(後)235/40R18 91W(ヨコハマ・アドバン エイペックスV601)
燃費:10.4km/リッター(WLTCモード)
価格:598万円/テスト車=665万7600円
オプション装備:ボディーカラー<プレシャスメタル>(5万5000円)/スポーツパッケージ<専用セミバケットフロントシート[スライド&リクライニング、GRマーク付き]+ウルトラスエード巻き3本スポークステアリングホイール[鋳物ブラック塗装、GRエンブレム・センターマーカー付き]+ウルトラスエード巻きシフトノブ[アルマイトレッド塗装]+シフトレバーブーツ[ウルトラスエード、レッドステッチ付き]+手動パーキングブレーキ[ウルトラスエード巻きグリップ]+パーキングブレーキレバーブーツ[ウルトラスエード、レッドステッチ付き]+ELR付き3点式レッドシートベルト[プリテンショナー&フォースリミッター機構付き≪フロント≫]>(25万3000円)/9スピーカー<JBLプレミアムサウンドシステム>+ディスプレイオーディオ<コネクティッドナビ対応>Plus 【ナビ】コネクティッドナビ対応<車載ナビ有>+FM多重VICS 【オーディオ・ビジュアル】8インチHDディスプレイ、AM/FMチューナー<ワイドFM対応>、TV<フルセグ>、USB入力<動画・音楽再生/給電[Type-C]> 【スマートフォン連携】Apple CarPlay対応、Android Auto対応、Miracast対応 【T-Connect】マイカーサーチ、ヘルプネット、eケア、マイセッティングなど 【その他】Bluetooth対応+アクティブサウンドコントロール+ETC2.0ユニット<VICS機能付き>+ドライブレコーダー<前方+簡易後方録画>+デジタルキー+おくだけ充電(24万8600円)/サブラジエーター(7万7000円)
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:3006km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(5)/山岳路(2)
テスト距離:348.3km
使用燃料:--リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:10.4km/リッター(車載燃費計計測値)

新井 一樹
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