第83回:日本に残る「氷河の足跡」、木曽駒ヶ岳(その5:木曽山脈の隆起は、今も継続している)(矢貫隆)
2006.08.04 クルマで登山第83回:日本に残る「氷河の足跡」、木曽駒ヶ岳その5:木曽山脈の隆起は、今も継続している(矢貫隆)
■2500万年かけて現在のヒマラヤができた
ユーラシアプレートは大陸プレート、太平洋プレートやフィリピン海プレートは海洋プレート。
いくつもあるプレートの境界は、互いに遠ざかる「発散型」と衝突しあう「衝突型」の2つのタイプに分けられるのだそうだ。
発散型の境界は裂け目に地球内部からマグマが上がってきてそこを埋めていく。
一方、衝突型のプレートが衝突した結果がどうなるか、前述の小泉先生は『登山と自然の科学Q&A』で次のように書いている。
「海洋プレートと大陸プレートが衝突すると、海洋プレートは大陸プレートよりも重いため、大陸プレートの下に斜めにもぐり込んでいく。そして両者の境界には、この沈み込みによって細長い窪みが生ずる。これが海溝である。東北日本ではこの型の典型例がみられ、大陸プレートである北アメリカプレートの下に、海洋プレートである太平洋プレートがもぐり込み、その境界に日本海溝ができている」
「なぜ山ができたのかという疑問の答えまで、まだ長い話が続きそうですね」
いや、そうでもない。プレートの動きの基本的な話を押さえておけば後の話はわかりやすいはずだ。
インド大陸がユーラシア大陸に衝突したのは4500万年前。小泉教授は「花崗岩からなる大陸地殻は軽くて厚いため大きな浮力を持ち、衝突しても一方が他方の下に沈み込むということは起こりにくい」と書いているが、ここではそれが起こった。
インド大陸がユーラシアプレートの下にもぐり込んで地殻の厚さを倍にしたというのである。
「このため水に浮いた板が2枚重ねになったような形になり、巨大な浮力が生じた。8000メートル級という大山脈とチベット高原ができあがったのは、この浮力のおかげである」(『登山と自然の科学Q&A』)
「一気に盛り上がってヒマラヤができあがったんでしょうか?」
学者による最近の研究によると、ヒマラヤは約2000万年前には現在の高さになったということだから、差し引きすると2500万年かけて現在のヒマラヤができたということになる。
「地球時間の壮大な物語ですねェ……。で、日本の山は、木曽駒ヶ岳は、どうしてできあがってきたんでしょう? 妻が言うんです。話は簡潔明瞭にって」
要するに、ヒマラヤを造った北に向かう大陸の移動が東に向いたってことらしい。そのため、日本列島は大陸から圧力を受け、反対側からは太平洋プレートやフィリピン海プレートに押されている。
それだけではない。
たとえば500万年前には丹沢山塊が、50万年前には伊豆半島が本州に衝突してきた。伊豆半島の衝突は今も進行中だそうだ。
「伊豆諸島が次々に衝突してきているわけですね」
そうらしい。
「日本列島、かわいそう」
ほんまやな。
「身につまされます」
何で?
「妻が……」
衝突してくるのか!?
「……」
新たに衝突してきた妻は、いや、山塊は、その前に衝突した山塊を内陸に押しやっていた。と、こうした一連の圧力が山脈を隆起させたのである。
「木曽駒ヶ岳も?」
そう。木曽山脈の隆起は50万年前に始まって、今も継続している。
(つづく)
(文=矢貫隆/2006年7月)
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矢貫 隆
1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。現在『CAR GRAPHIC』誌で「矢貫 隆のニッポンジドウシャ奇譚」を連載中。『自殺―生き残りの証言』(文春文庫)、『刑場に消ゆ』(文藝春秋)、『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。
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