第2回:撮影NGのGM工場に潜入取材!
〜大型SUV「エスカレード」の製造の真実(桃田健史)
2006.08.01
アメ車に明日はあるのか?
第2回:撮影NGのGM工場に潜入取材!〜大型SUV「エスカレード」の製造の真実
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アメ車は見かけない……といいつつ、「ハマーH2」「キャデラック・エスカレード」などのフルサイズSUVは日本でも目にすることがある。本国アメリカを主戦場とするこれらのモデルの工場は、さぞかし賑わっているのかと思いきや……。通常は撮影NGの製造現場に突撃取材!
■基本的に何を撮ってもOK
なんとも不思議な光景に出くわした。幹線道路の脇、列車線路の上には放置された長い貨物の列。その上に、何やら鉄骨が積み上げられている。近づいて見ると、その鉄骨には「Made in Mexico」の文字が。これこそ、フルサイズSUVの最新型「キャデラック・エスカレード」のプラットフォームなのだ。
テキサス州アーリントン。ここはダラス・フォートウォース国際空港の南部に位置し、MLBテキサスレンジャースの本拠地であるアメリクエストフィールドスタジアム、シックスフラッグス(遊園地)が立ち並ぶ。だが、GMアーリントンファクトリー周辺には、寂れた住宅が軒を連ね、やせ細った犬が大きなアクビをしている。“いかにも工場の街”のイメージが漂っているのだ。
今日は、地元メディアを招待して「キャデラック・エスカレード」「シボレー・タホ」「GMCユーコン」の3車種のアッセンブリー(最終組付け)ライン見学、その後に3車種の試乗会があり、最後に「シボレー・アバランチェ」新車説明会と目一杯のスケジュールが組まれている。フルサイズSUVの販売苦戦真っ只中、GM自らが製造現場の実態をさらけ出し、ユーザーへ信頼回復をアピールする作戦だ。
さらに通常はNGの写真撮影も「基本的に何を撮ってもOK」という大盤振る舞い。見学会参加者全員には、テキサス州・州旗(白地に赤/青&大きな星)をモチーフとした、ど派手なポロシャツが配られた。
車両の製造工程はいたってシンプルだった。メキシコから引っ張られてきたプラットフォームに部品を続々と装着し、ボディと合体して、はい一丁上がり。製造能力は1時間に56台。1日2交代制で1日900台がアーリントンから旅立っていく。
■フルサイズSUVラインにコンパクトカーがやってくる日
それにしても、工場内に人が少ない。産業ロボットが多いという意味ではない。1工程あたりの担当者数が少ないのだ。プラットフォームとエンジン+トランスミッションを組み付ける工程でも、担当者はひとり。ブラブラと吊るされているエンジン+トランスミッションの前方向を持って、長いプラットフォームの後部に見当をつけて、ドッカンと合体するという作業をしている。
それを見て、先日日本出張の際に訪れた三菱ふそう・川崎工場を思い出した。「三菱キャンター」のプラットフォームとパワートレインの合体作業は、4、5人がかりできめ細かく作業していた。
アーリントンファクトリー・ライン見学の後、話を聞いた工場の担当者は作り笑顔ではなく、終始明るい表情だ。
「いやー、これでも結構忙しいンだ。どれもフルモデルチェンジの後だからね。でも、立ち上がり時は良かったンだけど、最近は減ったね」
2006年6月/GM発表の同社米国内月間販売台数は、エスカレード3074台(05年同比▲15.6%)、タホ1万3473台(同▲46.2%)、GMCユーコン6422台(同▲49.0%)だ。販売は厳しい状況と言えよう。
GMが行った早期退職制度募集の結果、アーリントン工場の就業総数3200人(パートタイムを含む)のうちのUAW(米国自動車労組)組合員2700人中975人が工場を去る。当面、人員の補充は考えられていないそうだ。
そう言えば……。先に始まった日産・ルノー/GMの提携交渉では、GM米国内工場での日産車製造も議題にあるという。日産のSUV、フルサイズピックアップトラック製造工場はミシシッピー州キャントン工場。アーリントンから西に約800kmの距離だ。ここアーリントンにも、GM/ワゴナー社長&ルノー/ゴーン社長の大ナタが振るわれるのだろうか。
1990年代、時流に乗ってアメ車の稼ぎ頭となったフルサイズSUV。しかしいま、時流はダウンサイジングへと大きくシフトした。1953年創業のアーリントン工場の組み立てラインに、コンパクトカーが流れる日がくるかもしれない。
(文=桃田健史(IPN)/2006年7月)

桃田 健史
東京生まれ横浜育ち米テキサス州在住。 大学の専攻は機械工学。インディ500 、NASCAR 、 パイクスピークなどのアメリカンレースにドライバーとしての参戦経験を持つ。 現在、日本テレビのIRL番組ピットリポーター、 NASCAR番組解説などを務める。スポーツ新聞、自動車雑誌にも寄稿中。
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第9回:アメ車の味とはなんなのか? 〜日欧のクルマと違う道へ(後編) 2006.12.29 ■古い設計でも十分と考えるフォードGMに続き、フォードの試乗エリアに来てみると、ウェイティングの人があとを絶たない。そう、皆、「シェルビーGT500」(5.4リッターV8、500ps)にどうしても乗りたいのだ。それほど“シェルビー効果”は、典型的なアメリカ人に有効なのだ。その乗り味を一言で表現すると「意外と、普通」。エンジンONでV8がドロドロすることもないし、低速走行でサスがガシガシ、ゴツゴツもしない。「なんだか拍子抜けしちゃう」ほど、普段のドライブに向いている。アクセル全開で、イートン製ルーツ式3枚歯スーパーチャージャーが「ウギュワァーン!」と叫ぶ。だが、遮音性が意外と高く、うるさいと思う音量・音質ではない。直線でフルスロットル。リアサスがじーんわりと沈みこみ、ズッシーンと加速する。コーナーに進入。トラクションコントロールをONにしたまま、この手のクルマとしては中程度の重さとなるパワステを切る。ステアリングを切ったぶんだけクルマ全体が曲がるような安心感があるのだが、ステアリングギア比が意外とスローで、結構な角度まで切りたす必要があった。ロール量は、乗り心地と比例して大きいが、「この先、どっかにブッ飛っンでいっちゃうのか!?」というような不安はない。ちなみにトラクションコントロールOFFで同じコーナーを攻めてみると、意外や意外、コントローラブルだった。このボディスタイルからすると、スナップオーバー(いきなりグワーンとリアが振り回される現象)を想像してしまうのだが……。日系自動車メーカー開発者たちはよく「こんな古い基本設計のリアサスでいいのか?」といっている。しかし、シェルビーGT500の目指す「大パワーを万人向きに楽しく&乗りやすく」は、十分満たされている。なお、系統は違うが、期待のミドサイズSUV「エッジ」でも同様に、マイルド系ズッシリ乗り味は表現されていた。
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第8回:アメ車の味とはなんなのか? 〜日欧のクルマと違う道へ(前編) 2006.12.28 毎年恒例、米国メディア団体のMPG(Motor Press Guild)主催のトラックデー。日米欧韓各自動車メーカーが最新型車両を持ち込み、サーキットと一般路で走行体験をさせてくれるビッグイベントだ。今回集まったのはおよそ130台。アメ車たちは他国モデルのなかに埋もれず、個性を出していたのだろうか?■アメ車の個性をハイパフォーマンスモデルで試す皆さんはこんなことを思ったことはないだろうか。「クルマの技術って、メーカーによってそんなに違いがあるの? どのメーカーだって、最新コンピュータ技術を導入しているし、生産技術は上がっているし、他社関連の情報だってウェブ上に溢れかえっている。だいたい、比較車両としてどのメーカーも競合車は購入してバラバラにして詳細解析しているのだから、同じ価格帯のクルマならどこのメーカーも似たようなクルマになるでしょ……」確かに一理ある。ところが、現実には各社モデルには技術的な差がある。その差を背景として、各車の“味”も変わってくる。特に、乗り味、走り味の差は大きい。その原因は、購買コスト&製造コストとの兼ね合い、開発責任者のこだわりやエゴ、実験担当部署の重鎮との社内的なしがらみ、開発担当役員の“鶴の一声”……など様々だ。ではそうした差は、アメ車と日欧韓車、いかに違うのか。今回の「トラックデー」で、約50台のステアリングホイールを握ったが、そのなかでも各社が力を入れ、アメ車の色が濃く出ているハイパフォーマンスモデルに絞って、乗り味、走り味を比較してみたい。場所はウイロースプリングス・ロングコース(1周約3km)。ここでは200km/hオーバーの高速コーナリングから、ハードブレーキングまでチェックできるほか、近場の一般道でも乗り心地などを試すことができる。
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第7回:アフターマーケットでの成功を狙って〜米ビッグ3のビジネス舞台裏〜(後編)(桃田健史) 2006.11.15 ■会場はレトロな雰囲気スターがいない。これが、今年のSEMAショー全体を見ての率直な感想だ。SEMAショーではここ数年、「ハマーH2」「クライスラー300C」や、ホンダ系プライベーター主導のジャパニーズ暴走族、などアメリカの社会背景を映し出してきたクルマたちが華やいでいた。だが今回は、次世代のスターの姿が全く見えてこなかった。毎年キャッチコピーや『Car/Truck of the Show』というテーマを祭り上げて、ショー全体の雰囲気作りを行っているSEMAショーの今年のテーマは『American Musclecar』。会場正面玄関には歴代の「フォード・マスタング」「ダッジ・チャージャー/チャレンジャー」「シボレー・カマロ/コルベット」など、V8ドロドロなアメリカン魂たちがレッドカーペットの上で整然と構えていた。ということで、会場内のあちこちにも60年代のレトロな雰囲気が蔓延していた。アメリカングラフィティ世代の初老のカーファンたちは「いやー、昔のアメリカはほんと、楽しかったわいなぁ……」とノンビリとした足取り。
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