オペル・アストラワゴン・スポーツ(4AT)【試乗記】
いい意味で驚いた 2002.07.27 試乗記 オペル・アストラワゴン スポーツ(4AT) ……284.0万円 オペルのミドルクラス「アストラワゴン」に、2.2リッター直4と専用サスペンションを搭載した「スポーツ」が追加された。乗ってみて「いい意味で驚いた」という、webCG大川悠エグゼクティブディレクターのインプレッション。アストラの再発見
「これ、意外にいいじゃないか?」、会社のガレージから「アストラワゴン スポーツ」を外に出し、家に向かったとたんにそう思った。
思えばアストラって、結構いいクルマなのである。2002年の春先に乗ったオープンモデル「カブリオ」のデキばえに感心し、「年寄りでも、男2人でも乗れるよさ」を書いた。その時は幌のでき映えも評価したが、その裏にはダイナミック能力がきちんと支えていたという事実がある。
サッカーワールドカップのフランス大会決勝の日に遭遇したのだから、今から4年前だろう。出たばかりのアストラワゴンとハッチバックを連ねて、スイスからイタリアへの旅をしたことがある。その時も、フォルクスワーゲン「ゴルフ」よりもしっとりとしていて、それでいてスポーティな味わいがあることを評価した。
今回、新たに追加されたワゴンスポーツに乗って、「こんなにアストラはいいのか」と再発見した。
確かに数週間前に乗った、ゴルフに上級装備を施した限定車「EX」でも、同じようなことを書いたような気がする。しかし、どうしてもちょっと時間のたったクルマ、なかでも普通の大衆車や小型車には目が届きにくいので、改めて乗ってみるとその完成度に驚くことがある。
アストラも、いい意味で驚いた。
ともかくドイツ近代主義
運転席に座った瞬間思い出したのは、個人的にも社用車としても2台乗ったことがあるBMWの古典的名車、E30の「3シリーズ」だった。今より3代前のモデルで1980年代のバブル時代、「六本木のカローラ」といわれたクルマである。
どうしてE30なのかといえば、内外の大きさ、室内のデザイン感覚(特にドアの内張り)、それに移動感覚も、あの時代のBMWが持つとてもテキパキしていて気持ちがいい、という感じによく似ているのだ。
アストラワゴン スポーツの室内は、ゴルフよりももっと素っ気ない。悪くいえばビジネスライク、よくいえば機能に徹している。品質感云々なんか関係なく、近代主義的デザインで統一されているから、気持ちにイヤな引っかかりがない。
感心したのは、スポーツに装着されるシート。あたかも10年以上前の「レカロLS」のような形をしており、座り心地もあの時代のレカロに似ている。ランバーサポートが効いて、腰痛持ちにはすごくよかった。一方、リアシートは全体的に狭いだけでなく、ダブルフォールディングして荷室を拡大できるワゴンの弊害で、座り心地は平板。親孝行はできない。子供か犬の場所だろう。その代わり、びっくりするほど巨大ではないが、荷室は広く、形が使いやすい。まあテールゲートが国産車よりやや重いのは仕方ない。
ともかくドイツ近代主義、まあ現代風バウハウスといえば聞こえがいいが、実質第一でできている室内、インテリアと同様なデザイン言語でまとめられている外観、ともに「きちんとした機械が好きな人」には好感を抱いてもらえるはずだ。
これはスポーティ
乗って感心したのはエンジンである。このエンジン、中低速トルクの絶対力はともかく、盛り上がりがいい。まわすとかなり気持ちがいい。スポーティというよりは、4本の気筒や、ボアストローク比率がバランスしていて、実用車としては本当に見事な味付けをしている。
エンジンを調べてみたら、GMの「Z22」だと知って「やっぱり」と納得した。
これは確かアメリカで「サターンL」が最初に導入した、21世紀初頭用の「GMグローバル4」で、オペルでは大親分の「オメガ」にも搭載されるユニットである。兄弟分「サーブ」でも使用されているし、どの場合も評判がいい。
その2.2リッターが付いているのだから、アストラとしてはもったいないぐらいである。個人的にスポーティなエンジンを別にすれば、マツダの新しい2.3リッターとともに、4気筒のベストと思う。
1.8リッターとはまったく異なるギアリングの4段ATと、ファイナルギアの適切な配分もあって、エンジンから気持ちのいいトルクをうまく引っぱり出すことができる。ATしか知らなくて、トルクも何もまったく知識のないユーザーが乗ったら特に「ああ、乗りやすい」と感じさせる設定だ。むろん、飛ばそうと思えばかなり頑張れる。
うん、これはまさにスポーティだ。
ということは、乗り心地もまたヤワではない。ダンパーが締め上げられているのがよくわかり、1人で乗るにはやや硬いと感じさせる。だからといって悪い乗り心地ではない。特に首都高速などの目地段差で、かなり気持ちがいい。安心できる乗り心地で、荷室にフルに積み込んでも対応できるのを前提にしているのがわかる。唯一気になったのは、ミシュラン・パイロットHXのロードノイズだ。
電動パワーステアリングは、不自然さをそれほど感じさせなかった。ただしステアリングホイールからの情報は、このクルマが前のタイヤをまわしていることを隠そうとはしない。とはいえ、147psでも充分以上の安定したハンドリングを示す。
ともかく感心した。同時に気の毒にもなった。個人的にはゴルフのワゴンよりも、もっと実利的でリファインされているクルマだと思う。フォード「フォーカスワゴン」ほど格好で訴えないが、いい換えればあれほど軽薄に見えない。
でも、普通の人にはなかなか踏み切れない選択肢であることも知っている。何となく友人に、オペルという自分の選択を説明しにくいのだ。
これはオペル(フォードも)が代々悩んできたことであり、見方によればほとんど解決不能な問題でもある。だから僕たちの立場とすれば、「いいクルマなんだから、自信をもってお買いなさい」というしかない。
(文=大川悠/写真=峰 昌宏/2002年6月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
アウディS6スポーツバックe-tron(4WD)【試乗記】 2025.12.8 アウディの最新電気自動車「A6 e-tron」シリーズのなかでも、サルーンボディーの高性能モデルである「S6スポーツバックe-tron」に試乗。ベーシックな「A6スポーツバックe-tron」とのちがいを、両車を試した佐野弘宗が報告する。
-
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.12.6 マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
ホンダ・プレリュード(前編)
2025.12.14思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「ホンダ・プレリュード」に試乗。ホンダ党にとっては待ち望んだビッグネームの復活であり、長い休眠期間を経て最新のテクノロジーを満載したスポーツクーペへと進化している。山野のジャッジやいかに!? -
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。







