フェラーリ849テスタロッサ(4WD/8AT)
チャレンジャーが乗るべき駿馬 2026.02.03 試乗記 フェラーリの新型スーパースポーツ「849テスタロッサ」は、スペシャルモデル「F80」に通じるデザインをまとい、歴史的な車名が与えられている。期待高まる、その走りは? スペインで試乗した西川 淳の第一報。乗り込みから驚きがある
「このモデルがテスタロッサと名乗っていいかどうか。君には判断する権利があるよ」
なじみの広報マンからそう言って送り出された。もちろんそのつもりだ。
目の前にあるのは4コートの特別なイエローカラーをまとった849テスタロッサだった。セビリアの街なかからモンテブランコサーキットまでの道すがら筆者の所有する1986年式「テスタロッサ」について彼と情報共有を済ましていたから冒頭のようなやりとりにいたった。
もちろん先代と最新型とのあいだに、パワートレインやデザインモチーフといった誰もが認識できるような共通点など見当たらない。それでもあえてその名を冠する意味を問えば、往年の「500TR(テスタ・ロッサ)」が「500モンディアル」から、先代のテスタロッサが「ベルリネッタボクサー」から、それぞれ基本骨格を変えずにモデルチェンジした際、パフォーマンス面において挑戦的な進化を後継車に期したという精神的な共通点、と哲学的である。ちなみに500TRは4気筒FR、テスタロッサは12気筒リアミドであった。
ドアを開ける。実車に触れる機会があればぜひ、ドアの断面を見てほしい。まるでアート作品のようだ。マラネッロが特許を持つアルミニウム成形技術によるもので、大胆なトンネル形状が美しい。
ステアリングホイールには「アマルフィ」と同様に赤いエンジンスターターボタンが復活し、各操作系には凸凹がついてずいぶんと扱いやすくなった。とはいえメーターパネルの一部をモニターとして操作するという作業は(特に運転中には)依然としてストレスが残る。アナログメーターへの回帰アイデアも含め、そろそろ全面的に改良してほしいところ……。
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ナチュラル&フレンドリー
マラネッロ産馬の“試し駆け”なのだから、「赤いボタンを押すとV8エンジンが勢いよくいなないた」などと書き出したいところだが、849はPHEVである。ちょっととぼけた電子音が「スタートできるぞ」という合図。
まずは静々と走りだそうじゃないか。筆者は“無音で駆ける跳ね馬”が実は嫌いではない。早朝や深夜でなくとも、人の多い市街地に入ったならば爆音など要らない派だ。エンジンサウンドはもちろん大好きだけれど、他人の爆音などごめんこうむる。だから自分も人前ではできれば静かに走りたい。今どき街なかで爆音をまき散らすドライバーに出会うと「出ていってくれ~」とどやしつけてやりたくなるのだ。ああ~ああ~街だというのに派手なサウンド出して~。人気のないところで「勝手に楽しみやがれ」と言いたい。
走りだしてすぐに「SF90」との違いを感知した。マシンとの一体感がはっきりと高まって、とても乗りやすく感じる。乗り心地もよく、アクセルやブレーキのタッチも極めて自然で、コントロールしやすい。特に回生の働くブレーキのフィールがよかった。「ローマ」からアマルフィへの進化とそれはよく似る。SF90よりもパフォーマンスが上がったというのに、走りだしてからのなじみが早い。
V8エンジンとのミックスもスムーズで、それゆえかえってモーターの存在感が薄まっている。モーターの最高出力は3基合わせて220PSもあって、電動走行ではそれなりの速さを見せるというのに、エンジンがかかった途端、黒子に徹した。特にフロントアクスルからのモーターの気配が見事に消されていて感心した。
“洗練の極み”に戸惑う
だからといっておとなしい馬だと思い込んだらケガをする。右足を踏み込んだ途端、この駿馬(しゅんめ)は剽悍(ひょうかん)になる。“振り落とされるかも”という恐怖感におそわれ、慌てて右足を緩めた。公道でRACEモードなどもってのほか、というべきで、私のようにWETモード評論家を志すか、せめてSPORTで我慢して丁寧なアクセルワークを心がけていただきたい。
V8エンジンの存在感を楽しみつつ、クルージング程度のドライブを楽しむ。SF90に比べて車体がよりタイトに感じた。浮ついた印象もなく、引き締まっている。ドライバーエンゲージメントは間違いなく向上していると思う。
不満がないわけじゃない。アマルフィと同様に、今回もF154エンジンのサウンドチューニングにはずいぶんとこだわって仕上げたようだ。けれども4000rpm前後でもう少しドラマチックな音もしくは振動が欲しいところ。ふるえるような何か、だ。あまりにもスムーズすぎて、踏まない限りドキドキしない。それだけ完成度が上がっているともいえるけれど。
いたずらにパフォーマンススペックを上げるのではなく(実際、SF90のスペックでもすでに相当すごかった)、ハイブリッドパワートレインを磨き上げ、エアロダイナミクスを煮詰めることで、全域でバランスよく性能を引き上げた、と商品企画担当者が言っていた。まったくそのとおりだと思う。ロードカーとしての完成度の高さという点で、いまフェラーリは、スーパーカークラスに限らず群を抜く存在だといっていい。
テストデーの午前中いっぱいを使って200kmほど一般道での走りを楽しんだ。「296GTB」で走ったことのあるルートだったが、あの時ほど一生懸命走れたとは言い難い。やはり849のポテンシャルは公道では完全なるオーバースペックである。ゆっくり走らせて、よくできた乗用車として楽しむほかない。
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飽きずに長く楽しめる
それじゃもったいない、というわけで、午後からはサーキットドライブが用意されていた。テストカーはもちろん「アセットフィオラノ」。先導するのは同じクルマに乗ったプロドライバーで、レース経験も豊富な猛者ばかり。彼らは助手席に人を乗せている。ウェイトハンディだ。クルマ3台分くらいの距離を保ってついてこい! と言われて走りだしてみれば、1周目の途中から急に速度が上がって、あっという間に車間距離が10台分近くにまで広がった。
慌てて追いすがる。RACEモード、変速はオート。これがうまい。シフトダウンはほぼ完璧。シフトアップも上々で、見る見る先導車に近づく。SF90の記憶に比べるとマシンの安定感がすこぶるつき。汗をかかずともラップタイムを上げていけた。
近づかれると、前は速くなるものだ。必死に食らいつく。「F80」譲りの予測準備制御「FIVE(Ferrari Integrated Vehicle Estimator)」が効いているのだろう。自分が思うよりもうまく、そして速やかに車体がラインをトレースする感覚があった。CTオフにでもしない限り、後輪が滑り出すようなことはマレだ。一度だけ大きなS字で心地よくリアが出た程度で、それこそ必死で追いつかんとするオーバースピード気味の顛末(てんまつ)であった。
849テスタロッサはどんなティフォシ向けだろうか。派手なスタイルは若い世代にウケるだろう。ポテンシャルの高さは折り紙付きで、ベテランをも必ず魅了する。けれどもその乗りやすさや完成度の高さを考えると、経験の浅いドライバーがチョイスしてもじっくりと腕を磨いていけると思う。849の持つ跳ね馬ロードカー史上最強クラスのパフォーマンスを使いこなせるようになるまで飽きずに楽しんでいけるという点で、これから高みを目指す若いドライバーによりふさわしいと思った。マシンだけじゃない。ドライバーにもチャレンジ精神を求める。それでこそ“テスタロッサ”の証拠であろう。
(文=西川 淳/写真=フェラーリ/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
フェラーリ849テスタロッサ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4718×1999×1225mm
ホイールベース:2650mm
車重:1570kg(※オプション選択車両の乾燥重量)
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:830PS(610kW)/7500rpm
エンジン最大トルク:842N・m(85.9kgf・m)/6500rpm
モーター最高出力:220PS(※3基合計の値)
システム最高出力:1050PS
タイヤ:(前)265/35ZR20/(後)325/30ZR20(ピレリPゼロR)
燃費:9.3リッター/100km(約10.5km/リッター、WLTP複合モード)
価格:6465万円/テスト車=--円 ※日本国内における価格
オプション装備:--
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション/トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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