オペル・アストラワゴン1.8 Sport(FF/4AT)【試乗速報】
実用車、されど地味にあらず 2005.01.26 試乗記 オペル・アストラワゴン1.8 Sport(FF/4AT) ……299万9500円 オペル・アストラは、Cセグメントの強豪がひしめくヨーロッパで好評を博し、販売も好調らしい。日本でもハッチバックに続きステーションワゴンが導入された。『NAVI』編集委員鈴木真人が「実用車」の実力を速報する。ワゴンといえばオペル!?
「ワゴンといえば、オペルが業界をリードし、市場でベストセラーを多く送り続けた分野」なんだそうだ。プレス資料にそう書いてあったのだが、不勉強でよく知らなかった。しかし、確かに「レコルト・キャラバン」、「カデット・キャラバン」という名高いモデルがある(「キャラバン」はオペルがワゴンを指す言葉で、carとvanから作られている)。
「アストラワゴン」は、1993年から99年まで、ヨーロッパ全体のワゴンの中で販売台数が第1位だったそうだ。そして、1997年にヨーロッパで販売されたアストラの44.3%がワゴンなのである。アストラといえばハッチバック、というのは思い込みだったみたいだ。
内装外装に共通するデザイン思想
ハッチバックの全長を少し延ばしてユーティリティを向上させた「コンパクトワゴン」が流行りだが、アストラワゴンは本格的なステーションワゴンである。ホイールベースは2705ミリで、5ドアハッチバックの2615ミリから90ミリ延長されている。荷室容量はVDA方式で500リッター、後席を倒せば最大1590リッターとなり、立派な数字である。カッコだけの「ライフスタイルワゴン」ではない、しっかり荷物を積める実用的なクルマなのだ。
とはいえ、ハッチバック版と同じくワゴンも、先代と比べるとグンとスタイリッシュになった。V字を強調して絞り込まれた形状と水平のラインで構成されたフロントマスクは、シンプルで力強いイメージを作っている。大きな平行四辺形のヘッドランプの意匠は、バンパー下のエア取り込み口の形状で反復され、わかりやすく印象的な顔つきだ。かすかに上昇するショルダーラインと緩やかに下降するルーフラインは、スポーティさを演出するための常套手段である。
インテリアのデザインにも、デザイン思想が貫かれている。無彩色のインストゥルメントパネルには、ボンネットから続く「クリースライン」が中央に延びており、シンメトリーな空間を印象づける。無駄な面やラインを排した、ストイックなデザインだ。
ホイールベースは生かされたが……
長いホイールベースを生かして、後席のスペースは広大だ。ただ、前席の高品質感に比して、後席は仕上げの粗い部分もあった。シートバックに設えられたカップホルダー付きのトレイは、どうにも感触が安っぽい。センターに備えられた灰皿は、回転して収納されるしゃれた仕組みだったが、外すためには指に灰が付くことが避けられない構造だ。また、リアシートのダブルフォールディング機構は、ちょっとしたコツと腕力を必要とするものだった。
ラゲッジスペースは、とても使い勝手がいい。590ミリの低い後端からフラットで広大な荷室が広がり、左右に配置されたレールを使って、ネットや仕切りを装着して収納物に応じてアレンジすることが可能だ。トノカバーはハンドルにふれるだけで巻き取られ、容易に開閉できるようになっている。
受け継がれた美点
今回試乗できたのは、1.8 Sportというグレード。1.8リッター直4エンジンと4段ATを組み合わせた仕様である。ハッチバックモデルと同様、IDS(インタラクティブ・ドライビング・システム)を標準装備する。ABSやESPプラスなどのシャシーシステムを統合制御する機構で、走行状況に応じてサスペンション制御を行うCDC(コンティニュアス・ダンピング・コントロール)を採用しているところが「プラス」たる所以である。
試乗コースとなった箱根ターンパイクは、路側に雪が残り日陰では凍結が心配されるコンディションだったが、素直なハンドリングを楽しむことができた。ただ、マニュアルモードのないATは、やはりワインディングロードでは少々興醒めだった。よりスポーティなドライビングを望むなら、6段MTの「Turbo Sport」を選ぶしかない。
アストラワゴンは、よくできた実用車である。それは、先代から受け継がれた美点だ。今回のモデルチェンジで、そこに新しくスタイリッシュというプラスポイントが加わった。「オペルは地味」というのは、もはや思い込みに過ぎない。抑制されたスタイルを好む人にとっては、この実用性は大きなアピール点になるだろう。
(文=NAVI鈴木真人/写真=峰昌宏/2005年1月)