フォード・フォーカスC-MAX(FF/4AT)【試乗速報】
小技はないが、実がある 2006.05.12 試乗記 フォード・フォーカスC-MAX(FF/4AT) ……280.0万円 「フォーカス」をベースにミニバン風味の味付けを施した「C-MAX」。背が高く室内は広く、多彩に使えるシートアレンジを備えたヨーロピアンコンパクトは、フォードらしい実直さによってつくられていた。そこかしこに感じるセンス
フォーカスは新型のハッチバック、ハイパフォーマンス版「ST」に続いて「C-MAX」を投入した。
このお手頃サイズの「ミニバン」は、いろいろな用途に使える多面性をもちながら絶対的には全長4330mmと短く、小型ハッチバック並みの感覚でつかえる便利なクルマだ。室内は広々としており、とてもそんなコンパクトサイズには思えない。といっても、それはよくも悪くも、1825mmと広い車幅のおかげもある。幅広いFF車の泣き所といえようか、回転半径が5.6mとあっては車庫の心配もしなければならない。
C-MAXにはそうした小技は用意されていない。チマチマした考えを捨てて、むしろさらにゆったりと寛げるよう、車内空間の快適化に力を注いでいる。この手のクルマにはシートの取り外しを始め、多彩なシートアレンジが用意されているものだが、C-MAXの象徴的な使い方はたとえばこんな感じだ。リアシートの中央部を畳んで後方に追いやり、両サイドの2脚を斜め後方に下げて、3人分のスペースを2人でゆったりと使おう、というものである。中央部をテーブルにして使うアイディアは古くからあるが、その場合でも乗員のドアからの距離は不変だ。C-MAXはさらに中央寄りに座ることにより、両サイドに空間が広がる。これが側面衝突に対する安心感さえ広げてくれる。
車両重量は1430kgと比較的軽く仕上がっているほうで、2リッター直4DOHCデュラテックエンジンは145ps/6000rpmの最高出力と18.9mkg/4500rpmの最大トルクを発生、4段ATを介して前輪を引っ張る。発進は軽快で中回転域のトルクを生かし、レスポンスよく速度を上げていく。この2リッターエンジンには、「モンデオ」に載って登場したときから好印象をもっている。ATのセレクターレバーはステアリングからすぐ横のセンターダッシュに短く生えるが、その操作性がイイ。流行りにも遅れずマニュアルシフトのプラスマイナスのポジションも持つが、BMWを始めとする数少ない奥に倒すとマイナス、手前に引くとプラスの体感Gに一致する設定になっており、こうしたところにも技術者のセンスを感じる。
ツボを押さえた設計こそフォード
フォードといえば量産メーカーが造りがちな、退屈で大味なものを想像する人は今でも多いかもしれない。が、実際に乗って試してみれば、オヤッと感じる基本設計の確かな部分を味わうことができる。サスペンションジオメトリーなど自動車工学の基礎的なことは、どのメーカーとて先刻承知のはずだが、現実には全部がそうとも限らない。著名ブランドとて、時に首を傾げるような設定も見かける。
生産面の品質やデザイン的な嗜好分野もさることながら、フォードのフォードたる所以は、足まわりの設計などがしっかりしていることだ。それは、モータースポーツにも熱心に参加していて高成績を挙げていることでもわかる。このC-MAXでいえば、発進停止時の姿勢変化が少なく、スーッと水平を維持して動き出し、そして水平に止まりノーズダイブする量もわずかだ。この振る舞いこそ、簡単なようでなかなか得難い特性なのである。シートなども一見するとシンプルではあるが、座面の後傾斜角とか背面への依存率とか、ちゃんと“ツボを心得た”設計がなされている。
最初は見た目の装備に目を奪われても、3日も乗れば飽きてしまうクルマもある。C-MAXは派手なスタンドプレイは見あたらないものの、安心して長く付き合える安らぎのようなものを感じる。フォード車は日本でいう無印良品にたとえられるようなクルマだ。しかも、決して無印ではなく世界屈指の大メーカーの製品である。スッキリ、サッパリした飾らない造形は、アクの強いものの陰に隠れてしまいがちだが、世間一般の見栄っぱりなクルマに飽きた人は、このあたりで日本茶にも似た、渋さの中にも甘みを感じる部分を味わい、乗っていただきたい。
(文=笹目二朗/写真=高橋信宏/2006年5月)

笹目 二朗
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