スマート・ロードスター(2ペダル6MT)【ブリーフテスト】
スマート・ロードスター(2ペダル6MT) 2003.10.08 試乗記 ……255.0万円 総合評価……★★★★ スマート・クーペのホイールベースを伸ばし、スタイリッシュなボディを載せたロードスター&ロードスタークーペ。82psにチューンされたエンジンが、800kg余のボディを押し出し、ドライバーを夢中にさせる。自動車ジャーナリスト森口将之は、われを忘れた!?
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欠点を隠す爽快さ
自分の仕事は、クルマに乗ってその印象を原稿にすることだ。だからステアリングを握るときは、なるべく冷静でいるようにつとめる。ところがごくたまに、乗ったクルマがあまりに楽しすぎて、運転することだけに熱中してしまい、観察することを忘れてしまうことがある。
スマート・ロードスターに初めて乗ったときが、そうだった。思いきり低いドライビングポジション、メリハリのあるターボエンジン、超クロースレシオのトランスミッション、路上を自在に舞うがごときハンドリング。全長3.4mのボディのなかで、完全にわれを忘れている自分がいた。
もちろん欠点はある。なかでも、トランスミッションとブレーキの反応の鈍さは、スポーツカーとしては失格だ。でも、このクルマには、それを打ち消してあまりある爽快さが詰まっていた。小さく、軽く、低いことが、走りにどれだけ有利に働くのか。それを痛感した1台だ。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
スマート・ロードスターは、1999年のフランクフルト・ショーでプロトタイプが発表されたあと、2002年に市販型が登場した。頑強なトリディオン・セーフティセルというボディ構造や、リアに直列3気筒ターボエンジンを積んで後輪を駆動するというパワートレインは、従来のスマートと同じ。しかしホイールベースと全長は伸ばされ、逆に全高を思いきり低くすることで、スポーツカーらしいフォルムをものにしている。
ボディはロードスターとロードスタークーペの2種類がある。トリディオン・セーフティセルとフロントまわり、ドアは共通。リアは、ロードスターがノッチバックスタイル、ロードスタークーペがガラスハッチを備えたファストバックスタイルとなる。
エンジンは両車共通。リアに積まれる直列3気筒ターボは、ニューバージョンのクーペ/カブリオと同様、排気量が598ccから698ccに拡大された。ただしチューニングは専用で、最高出力は61psから82ps、最大トルクは9.7kgmから11.2kgmに、それぞれアップした。シーケンシャルタイプの6段MTは、ファイナルギアが低められた。
(グレード概要)
日本仕様はロードスターとロードスタークーペの2車種。つまり1ボディ1グレードという構成になる。ボディはリアまわりのほか、ルーフも違う。ロードスターは電動キャンバストップつきで、ルーフ両脇のフレームも脱着可能。ロードスタークーペは2分割のデタッチャブルトップが装備される。
ホイールとタイヤも違う。ホイールはデザインのみならず、サイズもロードスターが15インチなのに対し、ロードスタークーペは16インチと変えられる。タイヤはロードスターが185/55R15、ロードスタークーペが205/45R16だ。
インテリアでは、メーターがロードスターがホワイト、ロードスタークーペはブラックとなる。ロードスターの方が、ロードスタークーペより20kg重量が軽いこともポイントだ。
【ドライブフィール】運転すると?
(インパネ+装備)……★★★★
デザインは他のスマートと同じようにカジュアルタッチだが、モノトーンのカラーコーディネイトのおかげもあって、精悍な雰囲気。ドライバー正面のメーターが、扇型の速度計から、速度計と回転計を並べた大小2つの丸形に変わったことも、スポーティな印象を盛り上げる。
シフトレバーのそばにあるイグニッション、マニュアル式エアコンのスイッチはクーペやカブリオなどと共通だが、オーディオは専用デザイン。パワーウィンドウのスイッチは、ドアからセンターコンソールに移された。どれもデザインが行き届いていて、操作するのが楽しい。
キャンバストップの動作はスムーズで、開閉は約10秒で完了する。ルーフ左右のバーの取り外しは手動だが、操作は簡単。風の巻き込みは最小限で、風切り音も抑えられていた。
(前席)……★★★★★
なによりも印象的なのが、ヒップポイントがビックリするほど低いこと。現在販売されているスポーツカーでも1、2を争うほどだ。これだけで気分が高揚してくる。ウィンドウスクリーン越しに見えるフェンダーの峰も、すばらしい演出だ。
シートは簡素なつくりながら、体を包み込むようにタイトにサポートしてくれる。昔のポルシェ911を思わせるフィーリングが心地よい。右ハンドルということで気になるペダル配置は、ブレーキが左にオフセットしていて、左足で踏んだほうが自然な位置だった。
(荷室)……★★
フロントとリアの2ヵ所にラゲッジスペースを持つが、リアは深さが10センチほどしかなく、薄いものしか積めない。フロントはそれに比べると深さがあり、サイズは幅70cm、置き雪60cm、深さは38cm。ボディサイズ相応の大きさで、残念ながらこの項目だけは、ほめることはできない。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
アクセルに足を乗せた瞬間からターボが効き始めるようなシティ・クーペやカブリオレに比べると、こちらはスポーツカーらしいいさぎよさが感じられる。2500rpm以下では思ったように加速しない代わりに、それを越えるとはっきりとトルクが盛り上がり、小さなボディを元気よく加速させる。音は3500rpmあたりで一度こもりぎみになるが、その後4500rpm前後から澄んだサウンドに変わる。3気筒独特の音色だが、それなりに気持ちいい。
トランスミッションは、最近まれにみるほどのクロースレシオ。2速でリミットの6000rpmまで引っ張って3速に上げても、タコメーターの針は5000rpmを指す。真剣に走るとなると、変速作業がかなりいそがしいが、それがまたいい。
ただし変速のレスポンスは、初期のスマートよりはよくなったが、スポーツカーとしてはまだまだスロー。とくにATモードはその傾向が強く、まったく使う気にならなかった。MTモードはシフトレバーのほかに、ステアリング脇のパドルでも操作できるようになったのは便利だ。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
乗り心地は、スマート史上最良だ。ヒョコヒョコした小刻みな揺れはなくなり、フラットになっただけでなく、足の動きもよくなって、しなやかという言葉さえ使えるほどだ。クーペやカブリオより500mm以上長いホイールベース、それほど太くないタイヤのおかげだろう。オープンゆえ、ボディ剛性がクーペほど高くないことも、乗り心地をマイルドにしている理由になっている。
パワーアシストのついたステアリングは、ロックtoロック3.5回転と、それほどクイックではない。しかし、ステアリングに対するクルマの動きの鋭さが、それを帳消しにしている。しかも、前後の重量配分が45:55とイーブンに近く、タイヤサイズも前後共通なので、挙動はFRを思わせる自然さ。速度を上げても前輪が外にふくらむことはなく、逆にブレーキやステアリングを使って後輪をスライドさせ、向きを変えることができた。残念なのはブレーキ。制動力はじゅうぶんだが、タッチがスポンジーで、小気味よい走りに水をさしてしまいがちだった。
(写真=峰昌宏)
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【テストデータ】
報告者:森口将之
テスト日:2003年9月26日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2003年型
テスト車の走行距離:3557km
タイヤ:(前)185/55R15(後)同じ(いずれもブリヂストン B340 )
オプション装備:--
形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4):高速道路(5):山岳路(1)
テスト距離:588.9km
使用燃料:37.4リッター
参考燃費:15.7km/リッター

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車は「シトロエンGS」と「ルノー・アヴァンタイム」。