スマート・ロードスタークーペ(2ペダル6MT)【ブリーフテスト】
スマート・ロードスタークーペ(2ペダル6MT) 2004.06.05 試乗記 ……291.9万円 総合評価……★★★★ タマゴ型から一変、ペタンと低い姿勢を採る新種のスマート、「ロードスター」と「ロードスタークーペ」。ロードスタークーペとは、ドーム付き露天風呂か、というツッコミはさておいて、『webCG』コンテンツエディターのアオキが乗った。個人的な感想は……。
![]() |
スマートな贅沢
「スマート」ブランド・フルラインナップ化の尖兵。タマゴ型「クーペ」改め「フォーツー」より長くなったホイールベースに、強化した3気筒ターボをリアに積む。
バックヤードビルダーの現代語訳というか、1950、60年代のフレンチスポーツを思わせるスタイルは、エンスージアスティックな魅力にあふれる。が、「RX-8」も「ランエボ」も「インプレッサ」にも匹敵するプライスタグに、赤貧エンスーは涙あふれる(ちょっと大袈裟)。
タイトな室内。低い視点。運転楽しく、コーナリングではRR(リアエンジン・リアドライブ)らしいオシリの重さがドライバーをドキドキさせるものの、破綻をきたすほどの爆発力はない動力性能。ESPも付いている。念のため。
一方、いまひとつシャキっとしないステアリングフィール、街乗りでは硬すぎるストローク感ないサスペンション、俊敏とはいいかねる2ペダルMT「ソフタッチ」、が不満点。
「もうちょっとパワーを!」とか「普通のマニュアルギアボックスはないのか?」なんて言わない、リッチなジェントルマンのためのスポーツカー。スマートなオトナのオモチャ。
![]() |
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
1999年のフランクフルトショーで「スマート・ロードスター」のプロトタイプが発表され、2002年に「ロードスター」と「ロードスタークーペ」の市販型が登場した。頑強なトリディオン・セーフティセルというボディ構造や、リアに直列3気筒ターボエンジンを積んで後輪を駆動するというパワートレインは、従来のスマートと同じ。しかしホイールベースと全長は伸ばされ、逆に全高を思いきり低くすることで、スポーツカーらしいフォルムをものにした。
ロードスターとロードスタークーペのボディは、トリディオン・セーフティセルとフロントまわり、ドアは共通。リアは、ロードスターがノッチバックスタイル、ロードスタークーペがガラスハッチを備えたファストバックとなる。
エンジンは両車共通。リアに積まれる直列3気筒ターボは、ニューバージョンの「フォーツー・クーペ/カブリオ」と同様、排気量が598ccから698ccに拡大された。ただしチューニングは専用で、最高出力は61psから82ps、最大トルクは9.7kgmから11.2kgmに、それぞれアップした。シーケンシャルタイプの6段MTは、クーペよりクロース化され、ファイナルが低められたスペシャルなギアレシオをもつ。
(グレード概要)
日本仕様はロードスターとロードスタークーペの2車種。いずれも1グレード。ボディは、リアまわりのほか、ルーフも違う。ロードスタークーペは2分割のデタッチャブルトップ、ロードスターは電動キャンバストップ付きで、ルーフ両脇のフレームも脱着可能だ。
ホイールとタイヤも違う。ホイールはデザインのみならず、サイズもロードスターが15インチなのに対し、ロードスタークーペは16インチにアップ。タイヤはロードスターが185/55R15、ロードスタークーペが205/45R16と、よりスポーティな設定だ。
インテリアでは、ロードスタークーペのメーターがブラック、ロードスターがホワイトとなる。車重は、ガラスを多用するロードスタークーペの方が、ロードスターより20kg重い。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
スマート・シティクーペのようなポップな魅力はだいぶ薄れたが、それでも楽しげなインパネまわり。インストゥルメントパネルから生えた丸いメーター類は、ファニーなだけでなく、見やすい。センター上部の「水温計」「過給圧計」は、ドライバーに向けて頭を回すことができる(セットオプション)。ミラーは手動だが、手を伸ばせば助手席側にもすぐ届く。かつての“質実剛健”の名残か? 灰皿の下には、「カップホルダー」「CD差し」などの用途に使える板状の薄いパネルが4枚用意される。
ロードスタークーペに、エアコン、デフロスターはもちろん、シートヒーターまで備わるのは、ルーフを2分割して外せば、このクルマがタルガトップ調のオープンモデルになるから。
(前席)……★★★★
ごく低い位置にペタッと座り、脚を前に投げ出す“レーシィ”なドライビングポジション。シートはしんなり沈むクッションを備え、座り心地はいい。網状になった背もたれも楽しい。見た目で、スパルタンなホールド性を追求していないのが、このクルマらしい。そのうえ、いざとなれば、ちゃんと上体を支えてくれる。
助手席は、シティクーペ同様、前に倒せばテーブルになり、また、荷室の奥行きを増やすこともできる。
(荷室)……★★
オモチャのような(存在の)クルマゆえ、荷室は申し訳程度かと思いきや、フロントに、意外と大きなラゲッジルームをもつ。バッテリーにけられてはいるが、ほどほどの使い勝手はありそう。深さ30-37cm、奥行き57cm、幅45-65cm。ふたりの小旅行くらいなら……。
リアのハッチは、センターコンソール、またはキーのボタンを押せば、キャッチがはずれて、ダンパーの力で自動的に開く。荷室の高さは25-40cm、床面の幅106cm、奥行き80cm。キャビンとの仕切りがないので、こちらはあくまでオケージョナル。手持ちのカバンを放り込むくらいか。ラゲッジネット、ラゲッジストッパーなどがオプションリストに載る。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
スマートの3気筒は、わずか60kgほどの軽合金製ツインスパークユニット。82psと11.2kgmと、立派なアウトプットを発生。フィールの面では、メルセデスの手がける(ほぼ)軽ターボ・インタークーラー付き。加速時には、スロットルペダルを抜くたび、タービンのプレッシャーを抜くエアの音が響くのが、ちょっとウレシイ。街なかでは、十二分に機敏な動きができる。
電制クラッチをもつ2ペダル式6MTは、シティクーペよりクロースしたギア比が与えられ、スポーツカーらしい加速に貢献する。ただしギアチェンジの間が大きく、たとえば「AUTO」モードにしても、乗員の上体が前後に揺れる。シフトアップする(であろう)直前にスロットルペダルを踏む力を抜くか、いっそのことマニュアルモードにしてしまえば、ギアを変えるタイミングを予想でき、“主観的には”多少なりともスムーズな運転が期待できるが……。パドルシフトも備えるが、もちろん、根本的な解決には至らない。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
「205/45R16」のスポーティなタイヤに、ストローク感のない足まわり。乗り心地は、総じて硬い。特にリアからの突き上げが厳しいので、長時間の悪路はツラい。
一方、ハイスピードクルージングでの安定性はオドロクばかり。RRながら、フロントのリフトも気になるほどではない。さすが、最高速度180km/hを豪語するだけはある!?
ステアリングフィールにいまひとつ隔靴掻痒感(?)がある。つまりダイレクトな感覚に欠けるうえ、ステアリングギアがキャラクターに似合わず、遅め。リアエンジンのクルマを、あまり過激に振りまわしてくれるな、というメルセデスの親心か。
それでも、ことさら峠に行かずとも、街なかでもドライブは楽しい。低い視線がスポーティ。コンパクトでスタイリッシュなクルマを運転している興奮もある。タイトコーナーを行くときなどに、リアが振りまわされる感あり。まったく個人的な、感傷的な感想だが、ちょっと「アルピーヌA110」に似てるかも。
(写真=高橋信宏/2004年6月)
【テストデータ】
報告者:webCG青木禎之
テスト日:2004年1月21-22日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2003年型
テスト車の走行距離:5894km
タイヤ:(前)205/45R16 83H/(後)同じ(いずれもブリヂストンB340)
オプション装備:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行形態:市街地(4):高速道路(6)
テスト距離:227.0km
使用燃料:16.4リッター
参考燃費:13.8km/リッター

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。