ローバー75(5AT)/MG TF(5MT)【海外試乗記】
エンスージアスティックな努力 2003.07.18 試乗記 ローバー75(5AT)/MG TF(5MT) ……398.0/325.0万円 あまりの赤字の垂れ流しに、親会社のBMWに見切りをつけられ、フォードに拾われたランドローバーとも切り離されて、2000年に捨て子同然になったローバー。しかしこのたび、英国の由緒正しいメーカーが日本に帰ってくる。 約2年前まで『CG』長期テストで「ローバー75」に乗っていた『webCG』エグゼクティブディレクターの大川悠が、英国で最新のMGローバーに乗った。
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ローバーが日本に帰ってくる
75に乗り込んだ瞬間、懐かしかった。昔(といってもたった2年前だけど)とまったく変わっていない世界が室内に広がっていたのだ。単に懐かしいだけでなく、うれしかった。ローバーは結局ジョン・タワーズが率いる投資家グループ、「フィニックス・ホールディングス」社に、哀れにもたったの10ポンド(約2000円)で売られたのだが、同時にフィニックスは8億ポンドに上る負債も抱え込んでスタートすることになった。それが2000年春。
以来、イギリスを中心にヨーロッパではローバー時代の75や、ツアラーと呼ばれるワゴン版、小型の25や45を売ってきた。それだけでなく、ローバーと同時にMG、オースティン、モーリス、ウーズレーなどのブランド名も手に入れたから、75ベースのMG版たるZTや、旧MGFを改善したMGTFなども開発。BMWがミニ用に確保したオックスフォードの工場を追われ、バーミンガム近郊のロングブリッジ工場でこれらを懸命になって作ってきた。
日本のユーザーはほとんど3年近く見捨てられた(?)格好だったが、このたび、わが国でロータスやTVRなどを扱っているオートトレーディングルフトジャパンを主体にMGローバー日本が設立され、2003年7月下旬から再び日本市場に帰ってくる。そのための先行取材として、イギリスで何台かのMGローバーに乗った。
変わっていなかった75
というわけで、75はまったく変わっていなかった。いやむしろ以前よりも洗練されたように思えた。もともととてもいいクルマである。適度なサイズの優美なボディスタイリング、昔のイギリス車の伝統を色濃く残したウッドと革のインテリア、それだけが魅力なのではない。
むしろこのクルマの価値は、外観に劣らず上品な乗り味で、なおかつちょっとスポーティな感覚も持ち合わせていることである。なにしろタイヤは195/65-15などという、今では古典的なサイズだから、乗り心地はいい。振動騒音の遮断は、普段乗っているジャガーXよりはるかに上を行っている(もっともXは4WDだから、この点は不利だ)。前輪駆動特有のいやなステアリングフィールも大分和らげられている。
Kシリーズ系の2.5リッターV6、177psのエンジンはJATCOの5ATと組み合わされており、レスポンスはいいし、かなりスポーティな味わいもある。
つまり75は、適度に上品で快適、それでいながらどこかスポーティな感覚も持っているというクルマなのだ。まさに英国のアッパーミドルカーの伝統を、そのまま21世紀にまで持ち込みつつ、かといって決して時代遅れでも後ろ向きでもないクルマだ。やはり4年前に発見したこのクルマの価値が、依然として変わっていないことを確認した。
ワゴン版のツアラーもいい。特にレンジローバーのように、リアゲートだけでなく、リアウィンドウ単体でも開閉できるのは、ガレージ一杯に駐車したときなど、非常に便利だ。
本格的なMGTF
MG版は、かつての名ブランドのイメージを復活させるべく、スポーティサルーンとして仕立てられた。だから昔のマグネットZAやZBから続くZT(ワゴンはZT-T)の呼称を与えられている。
こちらのタイヤは245/45-18と一気に大きく太くなるし、サスペンション設定もずっと硬い。それにベントレーやジャガーのRなどにも似た餅網式グリルを持つ。
リポーターとしては、この硬い乗り心地は何となくこのクルマに似合わないと思えたし、ステアリングはよりダイレクトになる反面、トルクステアも強くなっていると感じた。が、でもイギリスではアルファ・イーターとして設定されているから、これはこれでいいのだろう。実際、MG版を購入した客の80%がいわゆる「コンクェスト・マーケット」から、つまり競合他社からの乗り換えだという。
一方、これまた伝統の名前になったMGTFは、以前のF時代より格段に改善された。これは乗り心地には多少貢献しても、スポーティなハンドリングの弊害になっていたハイドラガスをやめて、通常のコイルにしたことが効いている。ステアリングは電動パワー式だが、全然違和感はない。これでやっと本格的なライトウェイトスポーツカーに生まれ変わった、と感じた。
無論、今後のMGローバーが安泰というわけではない。8億ポンドの負債は、2002年の時点で1億ポンドにまで減っているし、中国のコングロマリットたるチャイナ・ブリリアンス社の自動車部門との提携で、資本投資も受けている。また将来に向けて一種のミドル級スーパースポーツたる365psの4.6リッターV8付きのコンセプトカー「MG XパワーSV」を出し、そのエンジンをMG版に載せようと言う計画もある。
……と書いていくと、将来は明るく見えるが、本格的に新車を開発しようとしたら、膨大な投資が必要になるし、エンジンも05年からのユーロ4に合致させなくてはならない。まだまだ楽観できる状況ではない。
それでも、現地で会った人たちはとても明るかった。そしてうれしかったのは、長年にわたってローバーで働いている人が多かったことだ。今は、彼らのエンスージアスティックな努力を前向きに期待したいと思う。
(文=webCG大川 悠/写真=MGローバー日本/2003年7月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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