フォード・フィエスタST【試乗記】
コンパクトの皮の下 2005.05.18 試乗記 フォード・フィエスタST フォード「ST」シリーズの最後を飾る、欧州フォードの末っ子「フィエスタST」。発売間近の新型コンパクトスポーツに、『NAVI』副編集長青木禎之がサーキットで試乗した。特別モデル第3弾!
「フォード・フィエスタST」の日本での販売が間もなく始まる。
フィエスタSTは、欧州フォードがリリースしたホットハッチ。「トヨタ・ヴィッツ」級の小柄なボディに、150psを発生する2リッター直4ツインカムを載せ、5段MTを組み合わせる。日本では、1.6リッター(100ps)の5ドア版フィエスタ(4AT)しか輸入されていなかったから、スポーティな3ドア・フィエスタが欲しい向きには、嬉しいニュースになろう。
ちなみに、フィエスタSTの“ST”は、「Sport Technologies」の略。フォード車のハイパフォーマンス版を開発していた部門「SVE(Special Vehicle Engineering)」と、コンペティションカーを手がけていた「フォード・レーシング」が、2003年5月に「フォード・チームRS」として統合され、今後、STを冠するラインナップを築いていくこととなった。
フィエスタSTは、WRC(世界ラリー選手権)のイメージを投影した“コーナリングマシン”「フォーカスST170」、大人が楽しめる高性能GT「モンデオST220」に続くスペシャルなブルーオーバルと、フォードは説明する。
さらにスペシャルな日本市場向けフィエスタSTが、「STコンペティション」である。派手なストライプがボディを縦断し、足もとには、ノーマルSTの16インチ(タイヤサイズは、195/45R16)に替え、ヨーロッパでのオプションホイールたる17インチ(205/40R17)が奢られる。
スポーティな装い
フィエスタSTのボディサイズは、全長×全幅×全高=3920×1680×1445mm。ホイールベースは、2485mm。ライバルと目される「ルノー・ルーテシアルノースポール2.0」(278万2500円)や「フォルクスワーゲン・ポロGTI」……はもう売っていないので、「プジョー206RC」(308万7000円)のいずれよりも、わずかに大きい。
英国での価格は約1万4000ポンドというから、日本での値段は、ルノースポール2.0といい勝負になろう。
エラの張ったフロントスポイラー、丸型フォグランプ、サイドスカート、フロントとデザインを合わせたリアバンパー、そしてルーフエンドスポイラーで、実用ハッチがスポーティを装う。ホイールは、1.6リッターモデルより2インチ(!)アップした16インチ。
ドアを開ければ、ザックリしたファブリックとレザーを組み合わせたスポーツシートが頼もしい。足もとには3枚のアルミペダルが、左手にはシルバーのシフトノブが渋く輝き、「AT免許じゃあ、乗れないゼ」とつぶやいている。フッフッフ……。
大人な印象
フロントの2リッターエンジンは、「モンデオ」(やニューフォーカス)でも用いられる「デュラテック」ユニット。87.5×83.1mmのボア×ストロークは、同じくフォードの2リッター「ゼテック」よりショートストローク。
フィエスタSTのそれは、可変吸気システムを得、背圧を抑えたエグゾーストマニフォルド&スポーツ触媒の恩恵で、モンデオの145psより5psアップの150psを、同じ6000rpmで発生する。19.4kgm/4500rpmの最大トルクは変わらない。
2200−6150rpmの幅広い範囲で最大トルクの90%以上を生み出すトルキーなエンジンで、1130kgのボディを低回転域からグイグイと力強く引っ張っていく。0-100km/h加速は、8.4秒とカタログに記される。
5スピードのギアボックスは、ファイナルのみならず、各ギアのレシオも選び直された贅沢なものである。ストローク短く、フィールもよい。
サスペンションは強化され、ジオメトリーも見直された。フロントブレーキは、フォーカス用のものが大型化され、アンチスピンデバイスたるESPが標準で装備される。
ドライブフィールは、全体に大人な印象である。じっくり基本に忠実に、慎重にブレーキング、荷重を前に移して丁寧にコーナリング、着実にタイムを削っていきたい、という真面目なスポーツ好きドライバーに向くと思う。コンパクトハッチの皮をかぶった本格スポーツハッチ、とゴロは悪いがそんな感じか。
室内が広く、日常での実用性も高い。そんなトコロも大人だ。
(文=NAVI青木禎之/写真=峰昌宏/2005年5月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
ルノー・カングー(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.6 「ルノー・カングー」のマイナーチェンジモデルが日本に上陸。最も象徴的なのはラインナップの整理によって無塗装の黒いバンパーが選べなくなったことだ。これを喪失とみるか、あるいは洗練とみるか。カングーの立ち位置も時代とともに移り変わっていく。
-
BMW R12 G/S GSスポーツ(6MT)【試乗記】 2025.10.4 ビッグオフのパイオニアであるBMWが世に問うた、フラットツインの新型オフローダー「R12 G/S」。ファンを泣かせるレトロデザインで話題を集める一台だが、いざ走らせれば、オンロードで爽快で、オフロードでは最高に楽しいマシンに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツGLE450d 4MATICスポーツ コア(ISG)(4WD/9AT)【試乗記】 2025.10.1 「メルセデス・ベンツGLE」の3リッターディーゼルモデルに、仕様を吟味して価格を抑えた新グレード「GLE450d 4MATICスポーツ コア」が登場。お値段1379万円の“お値打ち仕様”に納得感はあるか? 実車に触れ、他のグレードと比較して考えた。
-
MINIカントリーマンD(FF/7AT)【試乗記】 2025.9.30 大きなボディーと伝統の名称復活に違和感を覚えつつも、モダンで機能的なファミリーカーとしてみればその実力は申し分ない「MINIカントリーマン」。ラインナップでひときわ注目されるディーゼルエンジン搭載モデルに試乗し、人気の秘密を探った。
-
NEW
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】
2025.10.8試乗記量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。 -
NEW
走りも見た目も大きく進化した最新の「ルーテシア」を試す
2025.10.8走りも楽しむならルノーのフルハイブリッドE-TECH<AD>ルノーの人気ハッチバック「ルーテシア」の最新モデルが日本に上陸。もちろん内外装の大胆な変化にも注目だが、評判のハイブリッドパワートレインにも改良の手が入り、走りの質感と燃費の両面で進化を遂げているのだ。箱根の山道でも楽しめる。それがルノーのハイブリッドである。 -
NEW
新型日産リーフB7 X/リーフAUTECH/リーフB7 G用品装着車
2025.10.8画像・写真いよいよ発表された新型「日産リーフ」。そのラインナップより、スタンダードな「B7 X」グレードや、上質でスポーティーな純正カスタマイズモデル「AUTECH」、そして純正アクセサリーを装着した「B7 G」を写真で紹介する。 -
NEW
新型日産リーフB7 G
2025.10.8画像・写真量産BEVのパイオニアこと「日産リーフ」がいよいよフルモデルチェンジ。航続距離702km、150kWの充電出力に対応……と、当代屈指の性能を持つ新型がデビューした。中身も外見もまったく異なる3代目の詳細な姿を、写真で紹介する。 -
NEW
第87回:激論! IAAモビリティー(後編) ―もうアイデアは尽き果てた? カーデザイン界を覆う閉塞感の正体―
2025.10.8カーデザイン曼荼羅ドイツで開催された欧州最大規模の自動車ショー「IAAモビリティー2025」。クルマの未来を指し示す祭典のはずなのに、どのクルマも「……なんか見たことある」と感じてしまうのはなぜか? 各車のデザインに漠然と覚えた閉塞(へいそく)感の正体を、有識者とともに考えた。 -
NEW
ハンドメイドでコツコツと 「Gクラス」はかくしてつくられる
2025.10.8デイリーコラム「メルセデス・ベンツGクラス」の生産を手がけるマグナ・シュタイヤーの工場を見学。Gクラスといえば、いまだに生産工程の多くが手作業なことで知られるが、それはなぜだろうか。“孤高のオフローダー”には、なにか人の手でしかなしえない特殊な技術が使われているのだろうか。