メルセデスベンツSLK200コンプレッサー(5AT)/SLK350(7AT)【海外試乗記】
打倒ピュアスポーツ 2004.03.25 試乗記 メルセデスベンツSLK200コンプレッサー(5AT)/SLK350(7AT) 電動格納式ハードトップを備える、メルセデスベンツの2座オープン「SLK」。約8年ぶりにフルモデルチェンジした新型に、自動車ジャーナリストの河村康彦が、スペインで乗った。“プチ”SLRマクラーレン!?
1996年に颯爽と登場した、初代「メルセデスベンツSLK」。カジュアルなルックスや、クーペとオープンを両立するリトラクタブル式ハードトップ「バリオルーフ」の採用など、メルセデスベンツらしからぬ(?)小洒落たモデルは、発売以来世界で30万台以上をリリースするヒット作となった。
しかし、時代は移り、「ダイハツ・コペン」や「プジョー206CC」「307CC」など、リトラクタブル式ルーフを備えるクルマは、軽自動車にまで普及が進んだ。もはやそれだけではめずらしくない状況である。
ダイムラークライスラーが新世代SLKに採った作戦は、スポーツ度の大幅向上だ。快適性に富むクーペと、圧倒的な開放感が味わえるオープンボディの同居という、従来の特長はそのまま。さらに、「ポルシェ・ボクスター」や「BMW Z4」など、ピュアスポーツに匹敵する性能を加えたのである。
その志は、スタイリングに表われている。プロポーションはご覧のように、従来よりはるかに躍動感に富んでスポーティだ。長く伸びたF1ノーズ(!)と後退したキャビン、シャープなウェッジシェイプの組み合わせは、まるで「“プチ”SLRマクラーレン」(!?)といったノリである。
![]() |
![]() |
![]() |
スポーティ&開放的
インテリアもやはり、グンとスポーティに振られた。
メカニカルなシルバーにペイントされた、2つの短いシリンダー状チューブ内に、速度計とタコメーターが収められる。いずれもドライバーに向けられた、ドライバー・オリエンテッドなレイアウトだ。ナビゲーションシステム用のモニターが、比較的高い位置に置かれたところに、設計時期の新しさが感じられる。
ただし、スポーティな演出が施されたセンターパネル部に、電話用のテンキーはじめ多数のスイッチが散在するのは、昨今のメルセデスベンツの悪しき慣習といえる。デザイナーは「誰もが使える操作系を目指した」というが、最新トヨタ車のナビゲーション用リモコンやアウディの「MMI(マルチ・メディア・インターフェイス)」に較べると、旧態依然とした印象が拭えない。
ニューSLKで嬉しかったのは、オープン時の開放感がとても高いことだ。
オープン時、ルーフをトランクに格納するリトラクタブルの機構上、ルーフの長さは短くしたい。多くの場合、Aピラー&ウインドシールドの傾斜を強めてフロントスクリーン上端をリアに近づけ、ルーフ長を切りつめるのが普通である。しかしそれでは、Aピラーがもたらす圧迫感が増し、フロントスクリーン上端が頭上へ被さり、オープン時の開放感が損なわれてしまう。
しかし、新型SLKのウインドシールドの傾斜はさほどのものではない。サンバイザーもウインドウフレームからはみ出さない専用設計と、開放感をスポイルしないのがいい。
新型SLKが売りものにする「世界初!」のアイテム、「エアスカーフ」なるネック・レベルのヒーターも面白い。ヘッドレストに温風吹き出し口を内蔵する、オープンカー向きのアイディア商品だ。が、使い勝手に難アリ。ぼくの場合、温風吹き出し口の位置が少々高過ぎて、ともすれば“イヤースカーフ”になったのが惜しい。
オープン時に風の巻き込みを防止する「ウインドストッパー」は、相変らずメッシュの“ストッキング・タイプ”。樹脂やガラス製にすると、モニターの画像が反射し、さらにルームミラーにまで映り込むなど、問題があるのかもしれない。それにしても、見た目にもうすこしスマートな方法はないものだろうか……。
スポーツカーと呼ぶに相応しい
国際試乗会の場では、1.8リッター直4DOHC16バルブに、ルーツタイプのスーパーチャージャーを組み合わせたエンジンを積む「SLK200コンプレッサー」と、オールニューの3.5リッターV6DOHC24バルブを搭載した「SLK350」のスポーツパッケージ仕様を試した。
後者は、272psのV6に7段AT「7G-ギアトロニック」が組み合わされたこともあり、より力強い加速を全域で味わわせてくれる。従来通りの5段AT仕様となる200コンプレッサーでも、0-100km/h加速が8.3秒、最高速は226km/hだから、スポーツカーと呼ぶに相応しい実力が備わる。
フットワークテイストは、微舵操作に対する応答性が従来より確実に高まり、スポーティな身のこなしを狙ったチューンが施されたことを、実感した。ただし、“スポーツサス”に18インチシューズを組み合わせたSLK350のテスト車は、やや「やり過ぎ」。しなやかさがかなりの部分で失われ、速度が増しても、本来のSLKが備えると思われるフラット感が得られなかった。
今回の国際試乗会には、残念ながらテストカーは用意されなかったが、5.5リッターV8エンジンを搭載し、0-100km/hを4.9秒で駆け抜けるという「SLK55AMG」も、同時に発表された。“打倒ボクスター”“打倒Z4”の思いが実感できる新しいSLK。2004年内に、日本の道を走り出しそうである。
(文=河村康彦/写真=ダイムラークライスラー/2004年3月)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
-
BMW M235 xDriveグランクーペ(4WD/7AT)【試乗記】 2025.9.15 フルモデルチェンジによってF74の開発コードを得た新型「BMW 2シリーズ グランクーペ」。ラインナップのなかでハイパフォーマンスモデルに位置づけられる「M235 xDrive」を郊外に連れ出し、アップデートされた第2世代の仕上がりと、その走りを確かめた。
-
スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.13 「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが登場。前後のバンパーデザインなどの目に見える部分はもちろんのこと、見えないところも大きく変えてくるのが最新のスズキ流アップデートだ。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”【試乗記】 2025.9.12 レースやラリーで鍛えられた4WDスポーツ「トヨタGRヤリス」が、2025年モデルに進化。強化されたシャシーや新しいパワートレイン制御、新設定のエアロパーツは、その走りにどのような変化をもたらしたのか? クローズドコースで遠慮なく確かめた。
-
トヨタ・カローラ クロスZ(4WD/CVT)【試乗記】 2025.9.10 「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジモデルが登場。一目で分かるのはデザイン変更だが、真に注目すべきはその乗り味の進化だ。特に初期型オーナーは「まさかここまで」と驚くに違いない。最上級グレード「Z」の4WDモデルを試す。
-
ホンダ・レブル250 SエディションE-Clutch(6MT)【レビュー】 2025.9.9 クラッチ操作はバイクにお任せ! ホンダ自慢の「E-Clutch」を搭載した「レブル250」に試乗。和製クルーザーの不動の人気モデルは、先進の自動クラッチシステムを得て、どんなマシンに進化したのか? まさに「鬼に金棒」な一台の走りを報告する。
-
NEW
スズキeビターラ
2025.9.17画像・写真スズキの電動化戦略の嚆矢(こうし)となる、新型電気自動車(BEV)「eビターラ」。小柄でありながら力強いデザインが特徴で、またBセグメントのBEVとしては貴重な4WDの設定もポイントだ。日本発表会の会場から、その詳細な姿を写真で紹介する。 -
NEW
第844回:「ホンダらしさ」はここで生まれる ホンダの四輪開発拠点を見学
2025.9.17エディターから一言栃木県にあるホンダの四輪開発センターに潜入。屋内全天候型全方位衝突実験施設と四輪ダイナミクス性能評価用のドライビングシミュレーターで、現代の自動車開発の最先端と、ホンダらしいクルマが生まれる現場を体験した。 -
NEW
アウディSQ6 e-tron(4WD)【試乗記】
2025.9.17試乗記最高出力517PSの、電気で走るハイパフォーマンスSUV「アウディSQ6 e-tron」に試乗。電気自動車(BEV)版のアウディSモデルは、どのようなマシンに仕上がっており、また既存のSとはどう違うのか? 電動時代の高性能スポーツモデルの在り方に思いをはせた。 -
NEW
第85回:ステランティスの3兄弟を総括する(その3) ―「ジープ・アベンジャー」にただよう“コレジャナイ感”の正体―
2025.9.17カーデザイン曼荼羅ステランティスの将来を占う、コンパクトSUV 3兄弟のデザインを大考察! 最終回のお題は「ジープ・アベンジャー」だ。3兄弟のなかでもとくに影が薄いと言わざるを得ない一台だが、それはなぜか? ただよう“コレジャナイ感”の正体とは? 有識者と考えた。 -
NEW
トランプも真っ青の最高税率40% 日本に輸入車関税があった時代
2025.9.17デイリーコラムトランプ大統領の就任以来、世間を騒がせている関税だが、かつては日本も輸入車に関税を課していた。しかも小型車では最高40%という高い税率だったのだ。当時の具体的な車両価格や輸入車関税撤廃(1978年)までの一連を紹介する。 -
内燃機関を持たないEVに必要な「冷やす技術」とは何か?
2025.9.16あの多田哲哉のクルマQ&Aエンジンが搭載されていない電気自動車でも、冷却のメカニズムが必要なのはなぜか? どんなところをどのような仕組みで冷やすのか、元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんに聞いた。