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【スペック】全長×全幅×全高=4134×1810×1301mm/ホイールベース=2430mm/車重=1610kg/駆動方式=FR/5.5リッターV8DOHC32バルブ(422ps/6800rpm、55.1kgm/4500rpm)(欧州仕様車)

メルセデス・ベンツSLK55 AMG(FR/7AT)【海外試乗記】

豪快な理性派 2011.12.08 試乗記 西川 淳 メルセデス・ベンツSLK55 AMG(FR/7AT)

「メルセデス・ベンツSLK」の高性能版「SLK55 AMG」が新エンジンをひっさげて、生まれ変わった。ファンとエコの両立が図られたという新型の乗り味を、サンフランシスコから報告する。
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「下」からエコ化

われわれ日本人からすると、欧州メーカーは、“新しいエコカー技術”の採用には、とても慎重そうにみえる。最近になってヨーロピアンブランドから続々とハイブリッド車が出始めてきたけれど、正直、「いまさら何? ハイブリッドなんて要らないって言ってたじゃん?」と多くの人が思ったはずだ。

けれども彼らとて、決してのんきに構えてきたわけではなくい。根本的な取り組み姿勢、例えば環境問題に対する視点がマクロ的かミクロ的かといったような、ビジネスとしての考え方が大きく違っていたにすぎない。

欧州勢は、CO2削減でより多くの“結果”を残せる領域(ディーゼルエンジンはその際たる例だ)から順を追って成果を求めた。果樹のてっぺんになる実は大きくて美しく見えるものだが、多くの人に栄養を与えるためには下から順に、多少不細工でも甘く熟した実を丹念に摘み取っていこう、というわけである。

「上」(=先端技術の実用化)から行くのか、「下」(=既存技術の洗練)から行くのか、その結果の是非についての判断は、ひとまず留保しておく。とにかく、そんなわけだから、欧州メーカーは、右手で先進技術をアピールしながらも、左手で既存の内燃機関をいっそう効率化することに心血を注いでいる。特に、むやみな低燃費化だけではビジネスの成立しない、真の“プレミアム領域”をどうするかは手腕が問われるところだ。
新しい「SLK55 AMG」には、その回答がいくつか詰まっていた。


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パワートレインを燃費重視の制御とする「エコモード」が備わった。
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3世代目「SLK」の高性能版たる「SLK55 AMG」。
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気筒休止システムを採用

名機の誉れ高いM156およびM159ユニット、つまりAMGオリジナル設計の特製6.2リッター自然吸気V8エンジンは、現行世代のCクラスAMG(M156)と「SLS AMG」(M159)でその役目を終えることがすでに発表されている。もう終わりなの? と思うなかれ、ビジネス(すなわち台数)的には大成功を収めた。

代わって今、AMGの主力エンジンとなったのは、M157と呼ばれる5.5リッター直噴V8ツインターボエンジンだ。現在、「S」「CL」「CLS」「E」の各63系モデルに積まれており、つい先だって「ML63 AMG」も発表された。

新型SLK55に搭載されるM152ユニットは、このM157から過給機を取り払ったもの、すなわち自然吸気の5.5リッター直噴V8エンジン、と考えていい。けれどもそこには、単にターボを取り払っただけではない、数々の効率化の工夫が施されていた。

もちろん、ガソリン直噴ユニットをはじめ、エネルギー回生やスタート&ストップシステム(アイドリングストップ機構)といった効率化システムはそのまま引き継ぐ。そして、自然吸気エンジンとしても、(プレミアムブランドたらしめる)高出力と(社会的要請に応える)低燃費を両立するために、AMGが新たに加えた技術が、「AMGシリンダーマネジメント」と呼ばれる気筒休止システムだ。低負荷時(800〜3600回転)において、2番、3番、5番、8番のシリンダーがシャットオフされる。一度、チャレンジ(失敗)した技術も、継続的に、さらに慎重に開発を続け、ここぞというタイミングで出してきたのだ。

結果、SLK55 AMGは、V8ハイパフォーマンスカーとしては異例の好燃費と低CO2排出(燃費が8.4リッター/100km<=11.0km/リッター>、CO2排出量は195g/km)を達成したという。 

ダウンサイジング化された5.5リッターV8に、ターボチャージャーが組み合わされたM157ユニット。燃費性能は先代比で約3割向上しているという。
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プレミアムの演出に妥協ナシ

気筒休止は、トランスミッションの「C(コンフォート)」モードで有効となる。「C」に加えて「S(スポーツ)」と「M(マニュアル)」モードを備えたトランスミッションはといえば、「AMGスピードシフトPLUS 7Gトロニック」である。

ここで「おや?」と思った方はかなりのAMGファンだ。そう、SLK55 AMGには好評を博している7段MCTではなく、トルコンオートマチックが採用されたのだ。7Gトロニックが積めるなら、同じ大きさの7段MCTを搭載できないわけがない。しかもSLKは2シーターのコンパクトスポーツカーである。なぜあえてトルコン式ATが選ばれたのか。

答えは、やはり気筒休止システムとの連携にあった。8→4、または4→8へ移行する際の振動やノイズの対策にはアイドリングストップ以上に気を遣ったという。AMGクラスともなれば「少しくらいの不快感はエコのため」などといって許されるはずもない。エコも性能も快適も、すべて“丸く”収めたい。その結果、4気筒時にパワートレインをバランスよく回すためのマスダンパーを追加し、トルコンで制御した方が“プレミアム”な走りを実現しやすい、ということになった。それともうひとつ、SLK55 AMGの想定ユーザー層は他のどのAMGモデルよりも広く多様だ。北アメリカの女性ユーザーも多い。ギアチェンジがカンカン決まるMCTより、よりなめらかなフィーリングのトルコンが好まれるというマーケティング結果も重要視したという。

そのほか、注目すべき新装備としては、AMG初となる、フラップ切り換え式エキゾーストシステムや、トルクベクタリングブレーキなどが挙げられる。もちろん、ベースとなったSLKクラスに採用された「マジックスカイコントロールパノラミックバリオルーフ」なども、装備品としてラインナップされている。

魅惑のV8サウンド

試乗車には、「AMGハンドリングパッケージ」が装備されていた。ノーマルの「SLK55 AMG」よりも硬めのサスペンションセッティングが施され、LSD、フロントコンポジットブレーキ、パフォーマンスステアリングが追加で装着される。

サンフランシスコの市街地をスタートし、以前からずっと、あちこちで工事が行われている道を走り抜けると、さすがに車体は跳ね気味で乗り心地も硬く感じる。バタつくことはないが、フラットな板のようであり、ちょっと「ポルシェ911」に似た風味だ。走行モードは「ECO8」となっており、すなわち8気筒状態であることを示している。坂と一時停止の多いサンフランシスコの街中では、さすがにアイドリングストップの繰り返しが胃の奥に響く。機能をオフにするとECO表示が消える。

郊外に出てから、再びオンにして走っていると、エンジンサウンドが急に「ボーッ」と低くなった。表示は「ECO4」。つまり、4気筒になったのだ。スロットルペダルを軽く踏み込む限り、割としっかりしたトルクで走る。4気筒状態でも230Nm(23.5kgm)確保されているから、十分といえば十分である。

けれども、3600回転を軽く超えるような踏み方をすると、ものの30ミリセカンドで8気筒に変わる。そのショックはごくわずか。感じようと思わなければわからない。

フラップ式となったエキゾーストシステムのおかげで、低回転域ではネコが喉をならすような心地いい響きが続く。「これはこれでアリだよなぁ」なんて思いながら一層踏み込んでいくと、フラップが15度、30度、そして最大50度まで開き、盛大なエキゾーストノートを響かせた。音質は、「SLS AMG」と同様にアメリカ人好みのV8ノートではあるが、これまでのAMGサウンドの中では最も乾いた響きのある音質だった。

ラグナセカへ向かう途中でワインディングを試す。ここは一昨年、SLS AMGでも楽しんだ道。やはりこういうシチュエーションが、SLK55 AMGという“魚”にとっての“水”だ。トルクベクタリングブレーキのおかげか、面白いようにノーズが内を向く。コーナリング中はまるで初代SLKのように小さく自由自在。そして、脱出時にはオシリに目いっぱいの力を込めて……。

この豪快なエキゾーストノートの誘惑にはかなわない。けれどもエコへの理性も……。そんな向きが大勢いることをAMGはよ〜くご存じ、というわけだった。 

(文=西川淳/写真=メルセデス・ベンツ日本)


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スピードメーター脇のマルチインフォメーションディスプレーの一角に、起動中のシリンダー数を示す表示が設けられた。
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西川 淳

西川 淳

永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。

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