メルセデス・ベンツSLK200ブルーエフィシェンシー スポーツ(FR/7AT)【試乗記】
オトナのためのスポーツカー 2011.09.25 試乗記 メルセデス・ベンツSLK200ブルーエフィシェンシー スポーツ(FR/7AT)……561万4000円
メルセデス・ベンツのコンパクトオープン「SLK」が3代目に進化。「スポーツ」を名乗るエントリーグレードを駆って、その実力を確かめた。
がらりとイメージチェンジ
3代目「メルセデス・ベンツSLK」は男らしくなった。初代も2代目も、なんとなく女性的だった。メルセデス・スポーツカーの末っ子であることを意識しすぎていたのかも知れない。
Das Beste oder nichts. (最善か無か)
メルセデスは昨年、創業者ゴットリープ・ダイムラーのこの言葉を企業スローガンとして復活させた。このことに象徴されるように、メルセデス・ベンツは考え方を改めたのだ。市場にこびるのではなく、市場を啓蒙(けいもう)する、というように。
新型「SLK」の造形は、栄光の50年代の「190SL」(ということはつまり「300SL」)を意識したという。同時に、現代版300SLというべきスーパースポーツたる「SLS AMG」、あるいは革新的メルセデスの成功作である「CLS」とも視覚的なつながりを作り出しているという。
巨大なラジエターグリルとその中央に掲げられたスリー・ポインテッド・スター。速度の2乗で壁となる大気に挑む、屹立(きつりつ)したそれこそが新型SLKに込められたメッセージなのだ。それはつまりこうである。
「われこそはメルセデス・ベンツなり!」
「自動車の創造主にして世界最古の自動車メーカー、自動車の帝王なり!」
新型SLKの日本仕様は、いまのところ1.8リッター直4ターボの「200」と3.5リッターV6の「350」に大別される。ここで紹介するのは、200に設定された入門用モデルの「スポーツ」で、お値段なんと525万円。装備を簡素にすることで(といっても目立つのはレザーシートやパワーシートの省略程度だけれど)、200の580万円から55万円引きを実現した、いわゆる戦略車種なのである。
メルセデスの最新トランスフォーマーの戦略モデル、その成り立ちはというと……。
隙のないスペック
基本的に3代目SLKは、先代のプラットフォームを使いつつ、チューニング技術によって完成度をいっそう高めたモデルといえる。その手法は、同時期にマイナーチェンジを受けた「Cクラス」と共通している。ご存じのとおり、SLKはCクラスベースのクーペロードスターなのである。
したがって、3代目SLK、R172型は2代目のR171型よりひとまわり立派で男らしくて大きく見えるけれど、実際は全長4145×全幅1845×全高1305mmと、3cmほど長く幅広くなったに過ぎない。2430mmのホイールベースは同一だし、1550/1570mmの前後トレッドもそれぞれ3cm広がっているだけである。
パワートレインは「C200ブルーエフィシェンシー」用の1.8リッター直4直噴ターボ+7段オートマチックをそのまま使っている。最高出力184ps/5250rpm、最大トルク27.5kgm/1800-4600rpmという数値も同一なら、7Gトロニックのギア比もファイナルまで含めて同一だ。スポーツカーの名誉のために付け加えれば、車重は4ドアセダンの1500kgから1440kgへと、おとな一人分軽くなっている。
「SLK200ブルーエフィシェンシー スポーツ」は、馬力荷重7.8kg/ps、最高速度237km/h、0-100km/h加速7秒である。ライバルの「BMW Z4」の「23i」が2.5リッター直6で、最高速239km/h、0-100km/h加速7.3秒。後出しのSLK200が優れているのは当然としても、現代の小型スポーツカーとして第一級の性能を持っていることは疑いようがない。同じパワートレインを搭載する4ドアセダンのC200よりも当然速く、先代SLK200よりももちろん速い。しかも、先代SLK比、燃費は25%も改善しているという。これぞ現代の自動車技術の誇るべきポイントだろう。
インテリアはSLS AMGを思わせる円形のベンチレーションが新鮮だ。さあ、バリオルーフを開けて、箱根のワインディングロードに飛び出してみよう。
クルマとして熟れている
3代目SLKの200ブルーエフィシェンシー スポーツは、初めてステアリングを握って走り出したときから、まるで10年も連れ添っていたみたいになんの違和感もなくドライブできる。
スポーツカーとして、いや自動車としての熟成度が上がっているのだ。ターンパイクの上りではいささかパワーが足りない、と思わないでもないけれど、ほとんどの状況において7Gトロニックがそれを補い、不満を抱かせない。
バリオルーフそれ自体は先代の改良型で、3代目SLKがどうにも2代目のマイナーチェンジ版ぽく見えるのは、ロングノーズ、ショートデッキのプロポーションと丸みを帯びたルーフラインがそっくり同じだからなのだけれど、そうだとしても3代目に至る過程で注がれたエンジニアのパッションとテクノロジーは、フルモデルチェンジと主張するに十分以上のものがあるのではないか。と試乗後、筆者は思うのだった。
オープン時の風の巻き込みの少なさは大したものである。「エアガイド」と名付けられた透明アクリル樹脂製の風防がロールオーバーバーの後ろに付いていて、これがじつに効果的にリアからの巻き込みを防いでくれる。乗員は快適かつ平和にオープンを味わえる。なにより、ネットをつけたり外したり、あるいは立てたり寝かせたり、の作業がいらないところが大いによろしい。
前3リンク、後ろマルチリンクの機械式サスペンションは、ほとんどの路面ですばらしいロードホールディングを披露する。硬すぎず、柔らかすぎず、そのうえボディの姿勢変化はほとんどない。つねにフラットに保たれる。あえて弱点を指摘すれば、なにかの拍子にピッチングが始まると容易に収まらないこと。これは17インチタイヤがランフラットであることに起因しているらしい。ま、原因がわかっているのだから解決は容易だろう。
エンジンの排気音はよくチューニングされており、回しきったときには野太い、乾いた、いい音色を聞かせてくれる。機械式の可変ステアリングは、100度以上切るとクイックになり、俊敏さをアピールする。芦ノ湖スカイラインのような操舵(そうだ)角の大きいコーナーの連続だと、違和感があることもあったけれど、デイリーユースの小型スポーツカーとして、魅力的な1台であるという判定はいささかも揺るがない。「ボクスター」ではスポーツカーすぎる、「Z4」では派手すぎる、と感じる大人、あるいは大人のフリをしたい若者はコレだ。
Das Beste oder nichts.
見習いたいもんですなぁ。
(文=今尾直樹/写真=峰昌宏)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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