【スペック】全長×全幅×全高=4170×1710×1480mm/ホイールベース=2615mm/車重=1240kg/駆動方式=FF/2リッター直4DOHC16バルブ(173ps/7000rpm、19.9kgm/5500rpm)/車両本体価格=300.0万円(テスト車=同じ)

フォード・フォーカスST170(6MT)【試乗記】

フォーカス販売の牽引役 2003.07.30 試乗記 河村 康彦 フォード・フォーカスST170(6MT) ……300.0万円 エンジンに“スペシャルヘッド”が奢られ、最高出力173psにチューンされた2リッターツインカムを積む「フォーカスST170」。6段MTが組み合わされたスペシャルモデルに乗った自動車ジャーナリスト河村康彦は、ST170のパフォーマンスとライドコンフォートのバランスに満足するも……。
自動車ジャーナリストの河村康彦氏。

自動車ジャーナリストの河村康彦氏。
    
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ST170自慢のパワーユニットは、吸排気効率向上のため、大型の吸/排気ポート&バルブを拡大した「ハイフローアルミシリンダーヘッド」や、連続可変バルブタイミング機構「VVT」を採用。インテークマニフォルドは、管長が変化する「可変デュアルステートインテークマニフォルド」を搭載する。

ST170自慢のパワーユニットは、吸排気効率向上のため、大型の吸/排気ポート&バルブを拡大した「ハイフローアルミシリンダーヘッド」や、連続可変バルブタイミング機構「VVT」を採用。インテークマニフォルドは、管長が変化する「可変デュアルステートインテークマニフォルド」を搭載する。
    
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フツーのルックス

「フォード・フォーカス」のハイパフォーマンスモデル「ST170」の開発を手がけたのは、「SVE(Special Vehicle Engineering)」こと欧州フォードの“特殊車両開発部門”である。“トクシュなシャリョー”というと、まるで戦車のようなクルマ(?)か、あるいは素人では乗りこなせそうにないコンペティティブなモデルを連想するかもしれない。が、そんな先入観を抱いていると、目前に現れたクルマのルックスが、あっけないほどにフツーに感じられるはずだ。
「215/45-17」というシューズのサイズも、いまとなってはフツーだし、専用装備のルーフスポイラーは何とも控えめなデザイン。うっかりすると、このクルマのボディの特徴が、そんなディテール面より「3ドアであること」にあるのを、うっかり見逃しそう。

ヨーロッパではすでに昨2002年春に発売済みで、かの地では、5ドアハッチやワゴンにも“ST170”が設定される。しかし日本では、既存のバリエーションに対するスポーティ度の高さを明確にアピールするために、あえてシリーズ中唯一の3ドアハッチバック・ボディが導入されたのだ。
かくして、ルックスがちっとも“特殊車両”には見えないST170において最も“特殊”なのは、そのエンジンということになる。

全体的な意匠はフツーのフォーカスと同じだが、シルバーフェイスメーターパネルや、油温&油圧計を装備。レバー類は本革巻だ。

全体的な意匠はフツーのフォーカスと同じだが、シルバーフェイスメーターパネルや、油温&油圧計を装備。レバー類は本革巻だ。
    
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フォード・フォーカスST170(6MT)【試乗記】の画像 拡大


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あと1割アップ?

“デュラテックST”と名づけられた2リッター4気筒DOHCエンジンは、「新開発のアルミ製シリンダーヘッドを採用」したST170の専用品。アクセル全開時には、7000rpmで最高出力173ps、5500rpmで最大トルク19.9kgmを発する。組み合わされるのは、ゲトラク社製の6速MTだ。
「通常とは違う、異なるファイナルレシオをもつ2つのレイシャフトを採用したことで、3〜6速までのギア比を非常に接近させたことが大きな特徴」と語るのは、フォードのバーナード・スティープルス氏。わずか100台程度の日本導入モデルのために、わざわざ来日した。1966年からフォード社に勤務し、クラシックカー3台にバイクを9台を所有する、なかなかエンスーな方である。氏が所属するのは、欧州フォードのハイパフォーマンス・モデルやコンペティション・マシンを開発する「チームRS」だ。ちなみに、パワートレイン系のスペシャリストである彼は、BMWのSMGやアルファロメオのセレスピードのような2ペダルMTについて、「もちろん興味はあるが、ダウンシフト側の制御に関してまだ問題を感じる」という。

スティープルス氏は、「ST170のエンジンでは、トップエンドのパワーとともに、ストリートユースでのトルクの太さも重視しました」と述べる。実際、フォーカスST170の心臓は、アイドリング+αの回転数から、すでに十分実用的なトルク感を味わわせてくれる。やや重いクラッチと高めのアイドリング回転数にハイパフォーマンスカーらしさが垣間見えるが、かように穏やかなエンジン特性ゆえ、このままATと組み合わせても良好なマッチングが取れそうだ。もっともフォードは、「ST170にAT仕様を設定する考えはない」と断言するが。

節度感が強く、まずまずなフィーリングの持ち主であるゲトラク製6MTは、たしかに3速以上がかなりクロースしている。バランサーつきユニットのごとく滑らなエンジンは、7200rpmのレッドラインまでパワフルにまわり切る。ただし、正直にいうと、日本での使用状況では、ファイナル・ギアレシオをもうすこし下げるか、エンジンの排気量をあと1割ほどアップしてもらうと、「さらにベター」という印象を受けた。各ギアをレッドラインまで引っ張ると、現状では1速65km/h、2速105km/h、3速145km/h……と、スピードが増してゆく。

シートは、RECARO製ハーフレザースポーツバケットシートを装着。チルト機構は運転席のみ、シート前端にあるスイッチで動かす電動式となる。

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ST170だけでなく

オリジナルの車体構造に、特に補強等は加えていないというST170のボディ。それゆえ、剛性感は“並”といった感じだ。乗り心地は日常ユース用として「まったくリーズナブル」という印象。
トラクション能力は、現状レベルのパワー/トルクであれば何ら問題なく足りている。「山道をちょっと飛ばす」程度であればトラクションコントロール機能や、もちろん乱れた挙動を安定させる「ESP」はほとんど介入しない。ブレーキの、剛性感に富んだタッチは好印象だ。
ちなみに、日本初上陸の3ドアボディの使い勝手だが、後退したBピラーのせいで、シートベルトの装着に難儀をするのが、5ドアと比較したときの大きなウイークポイントといえる。ただし、居住性やラゲッジスペースは変わらない。リアシートの不等分割可倒機能も、当然、採用される。

フォード・フォーカスST170の価格は、ちょうど300.0万円。日本の“特殊車両”であれば、「三菱ランサーエボリューション」や「スバル・インプレッサWRX STi」とほぼ横並びとなるオネダンだ。

この価格をどのように考えるかは、買う側の人それぞれ。一方、販売側にとって重要なのは、このモデルを「いかに日本でのフォードの業績アップに結び付けて行くか」だろう。300.0万円級のクルマを年間約100台販売するために、本国からエンジニアを来日させ、試乗会を大々的に開催したのでは、単純に考えたらモトは取れないはずだ。
ST170に課せられた役割は、「フォーカス全体の販売牽引役」である。しかし“より力強く牽引する”効果を考えると、チューンドNAモデルたるST170だけでなく、さらに過激な“特殊車両”「フォーカスRS」(ターボエンジン搭載/215ps)の導入も、視野に入れるべきだったと思う。

(文=河村康彦/写真=清水健太/2003年6月)

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