三菱コルト1.3Elegance Version/1.5Sport-X Version(CVT/CVT)【試乗記】
まじめな98年生まれ 2002.11.21 試乗記 三菱コルト1.3Elegance Version/1.5Sport-X Version(CVT/CVT) ……139.5/191.68万円 「まじめまじめまじめCOLT」は、「いわばタイムマシンのようなクルマだ」と『webCG』エグゼクティブディレクターの大川 悠は論じる。平成不況が、これほど長引くとは考えなかった時に開発がはじまった三菱コルト。そのココロとは?98年の頃
「そうか、1998年ってそういう時代だったんだ」。三菱自動車が再起をかけた新型「コルト」に乗りながら、やっと理解した。
乗る前にメーカーの企画担当の方から生い立ちをうかがった。企画のスタートというか、基本コンセプトが見えたのが98年、それからいろいろなことがあって、結局三菱はダイムラークライスラーの傘下に入る。そしてやっといま、新生三菱の象徴としてコルトがデビューしたわけである。
何を言いたいのかというと、今回のコルトは98年という時代の色で塗り尽くされ、クルマとしての基本はダイムラー以前にほとんどすべてが決まっていたということだ。つまりあの時代、三菱が何を考えていたかということが、いま目前に、タイムスリップしたごとく実現化したといえる。
「バブルは札幌までは来ましたが、ここにくるまでに弾けて息絶えました」。雪が吹きすさぶ北海道、旭川市で地元の方から聞いたのは、たしか98年の頃の話である。バブルが弾けて、日本が底なしの不況に向かっている時代だが、それでもそれが4年後の2002年まで続くのはおろか、もっと悪くなっているとは見えなかった頃の話だ。だからあの頃、未来を考えると、ともかく今の場所にしっかり足をつけて、きちんと、まっとうな製品をつくっていくしかない……、つまり「まじめ」にやり直すしかない。それが日本の産業界全体に共通した観測だった。地味でも真面目なものさえつくっていれば、もうすぐ経済が回復したときに、バブルの反省として受け入れられるはずだ、という前向きな姿勢があった。
でも、それからこんなにも長く不況が続くとは思っていなかったし、もっと予測できなかったのは、不況や不景気を裏手にとって、これに乗ったような商品の出現や、あるいは不況を既成事実として冷静に受け止めたうえでの社会的変化である。新しい刺激を盛り込んだり、従来になかった遊びの感覚を取り込んでいくことで、「不況のなかでもなんとか明るくいこうよ」、という開き直りともいえるマーケティングが、それなりに市民権を得るという現在の状況までは見通すことができなかった時代が、98年という時でもある。
ドイツが見いだした三菱の価値
長くなったけれど、新型コルトは、そういう風に本当に地面だけを見ていたあの98年の状況を、そのまま反映しているように思えた。
端的に言うなら、とてもきちんと骨を通して、それこそ真面目に考え、真面目につくったが、それゆえに、どんな時代でも通用するはずのクルマのエモーショナルな魅力、機械の喜びまでは考える余裕がなかったということだ。
その一方、本質だけを大切にした実質価値追求の姿が、おそらくゲルマン的、なかんずくメルセデス的思想に受けたのだろう。だからこそダイムラークライスラーが三菱サポートに乗り出したとき、90%以上完成していたコルトは、彼らのクルマづくりの理想にかなり無理なく接ぎ木できるように見えたのに違いない。こういうエンジニアリング優先主義のプラットフォームなら、彼らの感覚に合っているし、しかも彼らにとって得手とはいえないスモールカーのベースとして最適だろう。そうシュトゥトガルトのエリートたちは判断したと思う。
そんな課程を経て、いまのコルトがある、山中湖周辺で1.3と1.5の2台に乗って、これを確信した。
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期待される自動車像、ただしそれだけ。
これさえ伝えれば、実際の試乗感想は十分だと思うが、一応簡単にまとめておく。
エンジンは1.3、1.5ともきちんと設計されたユニットだが、決してファンでもないし、特に1.3は5000以上はうるさい。トルクは低速でも十分でCVTとのマッチングもかなり詰められている。プレスの多くは小さい方がいいといいたがるだろうが、リポーターは絶対的に余力があるだけでなく、このクルマに欠けがちなエモーショナルな魅力を与えるというだけでも1.5の方を好む。
乗り心地は中低速ではかなりいい。コンパクトというより、ミドクラスのサルーンに近いソフトネスと、かなり静かなロードノイズを示す。ところがある速度以上になり、しかもサスペンションのストロークを要求するような路面になると、途端に荒っぽくなる。明瞭にダンパーやブッシュにお金をかけてない感じなのだ。ヨーロッパ仕様はもっといい(ということは仕入れ価格も高い)ダンパーを採用しているというが、本気でこの競争激甚なクラスで戦うなら、そして三菱のイメージを大切にしたいなら、こういうところに思い切ってお金をかけてもらいたいと思った。
同じ理由から、せっかく電動パワステのできがいいのに、コーナーでもやや荒っぽく扱うとダンピング不足を露呈する。スプリングはソフトだが、ロールをしんなりと受け止めるだけの余力が足まわりにない。でも、普通の人が普通に乗る限りでは、まあ快適なスモールカーだろう。
デザインに関しては、ダイムラークライスラーからオリビエ・ブーリエが来る前、三菱スタジオにいたヨーロッパ人の作品という。必死になって個性を出そうとしたことは理解できるが、フィットが出た後では、やや精彩を欠くし、いろいろテーマごとにトリムが変化する室内も、何となく古くさい。ただしフロントシートのできはセパレートでもベンチでも、このクラスの日本車としては相当いい……。もっともその分、リアシートは平板に過ぎ、親孝行は期待できない。
ともかく「まじめまじめまじめCOLT」のキャッチフレーズどおり、まじめの三乗そのものクルマだった。ということはそれ以上の光るものがない。何がチャームポイントなのか、どこにエモーショナルな魅力があるのか、懸命になって探しても見つからなかった。
でも、顧客にこびたようなかつての「ディアマンテ」や「GTO」に納得できなかったリポーターとしては、こういうまじめな再出発こそ、いまの三菱にとって、一番価値あることだと思う。少なくとも試乗会であった多くの若いエンジニアたちが、昔とはうってちがって真面目かつ意欲的なのを感じただけでもうれしかった。
(文=webCG大川 悠/写真=峰昌宏/2002年11月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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