三菱コルト・ラリーアート Version-R(FF/5MT)【試乗記】
実は、まじめなんです 2006.10.24 試乗記 三菱コルト・ラリーアート Version-R(FF/5MT) ……230万4750円 三菱のコンパクトカー「コルト」のスポーティグレードである「ラリーアート・バージョンR」MTモデルで、ホットハッチの鍛えられた走りを味わった。ワルっぽい変貌
オーバーフェンダーにはくっきりとブラック塗装が施され、前後バンパーも黒で存在感を際立たせる。エンジンフード上にエアインテークが大きく開き、リアにはスポイラーが装着される。
このクルマの目指すものが非常にわかりやすく表現された外観だ。これ見よがし、といってもいいほど、スポーツモデルであることをアピールしている。コルトがデビューしたときに「まじめ まじめ まじめ」というキャッチフレーズを使っていたことを思うと、劇的なほどのワルっぽい変貌ぶりだ。
室内を見ると、これはワルというよりも、何というか、戦隊ヒーローものチックなセンスのデコレーションだ。コンソールのパネル、エアの吹き出し口のリングがメタリックなレッドになっていて、少々気恥ずかしく居心地が悪い。
オトナにはちょっとつらいんじゃないかと思ったら、これは標準の仕様ではなくて、レカロシートを選ぶと自動的に付いてくるものなのだった。レカロ好きがみんなこのインテリアを好むとも限らないように思うのだが。
とにかく、ほとんど死語になりかけていた「ホットハッチ」という言葉を全身で体現しているモデルであることはよくわかる。もともとデキのいいコンパクトカーであるコルトに強力なターボエンジンを搭載し、ボディ剛性を上げてサスペンションも強化して、走りに特化し、「ラリーアート」を名乗らせたのだ。とはいえ、従来はなぜかCVTモデルしかなかったのだが、新たにゲトラグ製5段MTを備えたモデルを追加し、パワートレインから内外装まで大きく手を入れて「バージョンR」となったわけである。今回は、5MTモデルに試乗した。
古典的なダイレクト感
ギアを1速に入れようとクラッチを踏んだ瞬間に、懐かしい感覚を味わった。まず、重い。チューニングが施されているとはいえ超ハイパワーとはいえないエンジンであり、昨今の軽いクラッチに慣れていたせいもあって、予期していない重さだったのだ。
そして、スプリングの反力がそのままつま先に伝わるようなダイレクト感も古典的で、ちょっとうれしくなる。響いてくるエンジンの鼓動は重くくぐもっていて、やり過ぎなほどその気まんまんな風情を漂わせている。
従来よりピークパワーが7馬力向上したエンジンは、低回転でもトルクが不足することはないものの、ターボエンジンであることははっきりと意識させられる。
1速に入れてアクセルを踏むとグッと盛り上がるトルクを感じるや否や2速にシフトアップしなくてはならず、3速までは瞬く間だ。ギアチェンジを急がされる感じはあざといとも言えるが、ホットハッチというのにはそんな演出が似合う。
ローダウンされたサスペンション、205/45R16のタイヤはダテではなく、コーナリング時の接地感は頼もしいものがある。ゴツいオーバーフェンダーは、スタイルだけではなく走りにも貢献しているのだ。
クルマ自身が低く低くと欲しているように感じられるのは、いかにも三菱車である。車高は1535ミリと低くはなく、ロールはそれなりに大きいが、不安感はない。ABSはもちろん、MTモデルにはASC(アクティブスタビリティコントロール)が装着されていることも、当然とはいえありがたい。
走りを支えるボディ剛性
山道での元気な走りっぷりはうれしいのだが、町中ではどうも分が悪い。心地よかったエンジン音は単にノイズとして耳についてくるし、しなやかさに欠ける乗り心地がだんだん煩わしくなってくる。そうなると、派手な外観が気恥ずかしくなってくるのだ。
このクルマが決して日常の穏やかなシーンにとどまるものではないことを、思い知らされる。ランエボほどではないにせよ、硬派なスポーツモデルを作ろうという開発者の意図が伝わってくる。
三菱では、このバージョンRに関して、ボディ剛性の強化に努めたことを強調している。スポット溶接の増し打ち、サスペンション取り付け部の剛性アップ、ハッチバック開口部の補強などでねじれ剛性を約30パーセント向上させたというのだ。走りを支える基礎の部分について、地道な開発努力を行ったということだ。ワルっぽい外観に似合わず、中身にはまじめさが詰まっているらしい。
正直言って、個人的には年齢的にこのワルぶった佇まいや先鋭なスポーティさはちょっとしんどかった。でも、ホットハッチが今もまだ生き残っていることを確認できたのは、うれしい驚きである。クルマを操る歓びを知るには、恰好のモデルだと思う。特に若い人にとって、ワルぶるには地道でまじめな努力が必要であることを、身をもって教えてくれるクルマだ。
(文=別冊単行本編集部・鈴木真人/写真=峰昌宏/2006年10月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。 -
NEW
あの多田哲哉の自動車放談――ロータス・エメヤR編
2025.12.3webCG Movies往年のピュアスポーツカーとはまるでイメージの異なる、新生ロータスの意欲作「エメヤR」。電動化時代のハイパフォーマンスモデルを、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんはどう見るのか、動画でリポートします。 -
タイで見てきた聞いてきた 新型「トヨタ・ハイラックス」の真相
2025.12.3デイリーコラムトヨタが2025年11月10日に新型「ハイラックス」を発表した。タイで生産されるのはこれまでどおりだが、新型は開発の拠点もタイに移されているのが特徴だ。現地のモーターショーで実車を見物し、開発関係者に話を聞いてきた。 -
第94回:ジャパンモビリティショー大総括!(その3) ―刮目せよ! これが日本のカーデザインの最前線だ―
2025.12.3カーデザイン曼荼羅100万人以上の来場者を集め、晴れやかに終幕した「ジャパンモビリティショー2025」。しかし、ショーの本質である“展示”そのものを観察すると、これは本当に成功だったのか? カーデザインの識者とともに、モビリティーの祭典を(3回目にしてホントに)総括する! -
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】
2025.12.3試乗記「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。


































