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車名はちがえど中身はいっしょ “OEM車”はなぜ存在しつづけるのか?

2024.10.07 デイリーコラム 佐野 弘宗
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それは「相手先ブランド生産車」

スバルは2024年秋に新型軽自動車の「シフォン トライ」を発売する。

スバルといえば、2012年2月の「サンバートラック」の生産終了をもって、50年以上にわたった軽自動車(以下、軽)の生産から撤退した。それは2005年にスバルと資本業務提携したトヨタによる調査で、スバルの軽事業が(関係者によると、そもそも単独では一度も黒字になったことがないくらいの)赤字構造であることが判明したからだ。実際、軽の生産から撤退したスバルは、業界屈指の高収益体質に改善した。

また、今のスバルは、自社では水平対向エンジンを縦置きするクルマしか生産しておらず(電気自動車の「ソルテラ」はトヨタ工場製)、自社製コンパクトカーももたない。しかし、スバルの正規販売店では、今もスバルブランドの軽やコンパクトカーが売られている。それらはスバルと同じトヨタグループ内のダイハツが開発・生産したクルマだ。

こうした手法は“OEM”と呼ばれる。OEMとは“Original Equipment Manufacturing”の略語だ。製品供給の委託を受けたメーカーが、その相手先のブランドで製品を生産することを意味する。

クルマ業界でのOEMには、いくつかのパターンがある。たとえばトヨタブランドのスポーツカーである「GR86」は、形式上はスバルからトヨタへのOEM供給である。しかし、その商品企画やデザイン、開発内容にまでトヨタが手や口を出しており、実態は“共同開発”と呼んだほうがしっくりくる。

いっぽう、今回の主題であるスバルの軽(やコンパクトカー)の場合、デザインや中身はダイハツ車と寸分たがわず、ブランドや商品名を示すバッジ類がちがうだけだ。冒頭のシフォン トライも、モノはダイハツの「タント ファンクロス」そのまま。ほかのスバルの軽とコンパクトカーも、これと同様である。

2024年秋に正式発表されるスバルの新型軽「シフォン トライ」。「タント ファンクロス」に似ている……どころか、ボディーカラーに至るまで(エンブレムを除き)同じである。
2024年秋に正式発表されるスバルの新型軽「シフォン トライ」。「タント ファンクロス」に似ている……どころか、ボディーカラーに至るまで(エンブレムを除き)同じである。拡大
こちらは「ダイハツ・タント ファンクロス」。「スバル・シフォン トライ」の本家である。
こちらは「ダイハツ・タント ファンクロス」。「スバル・シフォン トライ」の本家である。拡大
2024年6月に発表されたホンダの軽EV「N-VAN e:」。ホンダと日産、三菱との間に戦略的パートナーシップが結ばれた今、このクルマは次期「ミニキャブEV」として三菱にOEM供給されるのではないかとうわさされている。
2024年6月に発表されたホンダの軽EV「N-VAN e:」。ホンダと日産、三菱との間に戦略的パートナーシップが結ばれた今、このクルマは次期「ミニキャブEV」として三菱にOEM供給されるのではないかとうわさされている。拡大
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軽・商用車ではとくに盛ん

こうしたパターンのOEMは一般に“バッジエンジニアリング”と呼ばれる。クルマ業界では古今東西、バッジエンジニアリングの例は少なくない。とくにメーカーどうしが資本関係で複雑に結びつくようになり、クルマの開発コストが高騰を続ける昨今、バッジエンジニアリングは日本でも増加している。

たとえば、トヨタの正規ディーラーで販売される軽もダイハツ、そしてトラックは日野のバッジエンジニアリング車である。日産と三菱も、軽乗用車は自前のアライアンス製だが、軽商用車はスズキのバッジエンジニアリングで調達する。マツダも軽はスズキ、商用車はトヨタやダイハツ、いすゞからバッジエンジニアリングで供給を受けている。

このように、バッジエンジニアリング車は一般的に軽や商用車が多い。この種のクルマはユーザー側が割り切って購入するケースも少なくなく、必要な機能や性能、コスパを達成していれば、個性やデザイン性はあまり求められないからだ。

ただ、もともと自社生産していたクルマをバッジエンジニアリング車に切り替えると、販売台数は大きく落ちるケースがほとんどだ。いかに割り切っているとはいえ、バッジを貼り替えただけのお手軽商品では、どうしても「だったら、元祖のブランドで買うよ」といわれがちだし、販売側も生粋の自社ブランド製品よりは力が入りにくいからだろう。

それでも、メーカーがバッジエンジニアリング車を用意するのはなぜか。ひとつは自身の販売台数や売上高を確保するためもあるが、それなら自社で魅力的な商品を開発・生産するのが本筋である。バッジエンジニアリング車は、少なくとも供給を受けるメーカー側の利益も、ゼロとはいわないが、多くもない。

マツダの軽「フレアワゴン」。そのオリジナルは、スズキの売れっ子「スペーシア」だ。
マツダの軽「フレアワゴン」。そのオリジナルは、スズキの売れっ子「スペーシア」だ。拡大
OEM供給は国内メーカーどうしに限られた話ではない。写真の新型「三菱コルト」は、フランス車「ルノー・ルーテシア」のOEMなのである。
OEM供給は国内メーカーどうしに限られた話ではない。写真の新型「三菱コルト」は、フランス車「ルノー・ルーテシア」のOEMなのである。拡大

決め手になるのはディーラーマン

バッジエンジニアリング最大の役割は、メーカーが正規ディーラーに対する責任を果たすことにある。とくに日本の新車販売店は、特定メーカーと特約店契約を結んだディーラーが大半を占める。そうした正規ディーラーは、少なくとも表向きは他社ブランド商品を販売できない。

スバルは軽生産からの撤退時点で50年以上も軽を売っていた。メーカーのスバルは軽生産をやめて黒字体質に変わったかもしれないが、大量の軽ユーザーを抱えていたスバル正規ディーラーにとって、その買い替え需要をいきなり失うことは、死活問題である。バッジエンジニアリングだろうがなんだろうが、なにかしらの代替商品を用意するのは、正規ディーラーに対するメーカーの最低限の責任だ。

バッジエンジニアリングはあくまで、売る側の都合の産物である。少なくともハードウエア的な観点では「中身は他社製だろうが、スバルの『六連星』エンブレムがついたクルマでないとイヤだ」というゴリゴリのスバリスト以外、今のスバルの軽を買う意味はない。それはほかのバッジエンジニアリング車も同様である。

ただ、ディーラーやディーラーマンの能力に優劣があるのは事実であり、クルマは購入後もディーラーとの付き合いが続く商品だ。バッジエンジニアリング車であろうが、優秀なディーラーで買ったほうが幸せになれる可能性が高い。まあ、本当に優秀なディーラーマンは、ときに他社製品も融通することもあるというが、自社ブランド製品を買ってもらうに越したことはない。

また、あなたがたとえば「アウトバック」や「レヴォーグ」あるいは「WRX」に乗っていて、なにかしらの事情で軽やコンパクトカー、商用車が必要になったとする。そのときに面識のない他社ディーラーに出向くよりは、気心の知れたスバルのディーラーマンにお世話になったほうが、長い目で見れば、いろいろと良いことがあるかもしれない。

こんなことをいうと元も子もないが、バッジエンジニアリングが浸透した最近の軽や商用車では、どのブランドで買ったところで、実質は2~4社からの選択でしかない。ビジネス=商売は、今も昔も、人と人とのつながりが重要である。バッジエンジニアリング車は、クルマ選びではなく人選びか?

(文=佐野弘宗/写真=スバル、ダイハツ工業、スズキ、webCG/編集=関 顕也)

OEMによる製品の融通は、2社間でのこととは限らない。スバルのコンパクトSUV「レックス」(写真)はもともと「ダイハツ・ロッキー」で、トヨタにも「ライズ」の名で提供されている。
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スズキのミニバン「ランディ」。先代モデルは日産からのOEM車だったが、写真の現行型は「トヨタ・ノア」の兄弟車。こうしたブランドのくら替えも行われることがある。
スズキのミニバン「ランディ」。先代モデルは日産からのOEM車だったが、写真の現行型は「トヨタ・ノア」の兄弟車。こうしたブランドのくら替えも行われることがある。拡大
佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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