トヨタ・ソアラ430SCV(5AT)【ブリーフテスト】
トヨタ・ソアラ430SCV(5AT) 2001.12.06 試乗記 ……615.0万円 総合評価……★★★★
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トヨタ製のガイシャ
まずクルマの名前を書き始めたとき、うっかり「レクサス」と間違って入力してしまったが、それも半分は無理もない。そうリポーターに自己弁護させるだけの力を、このクルマは持っている。日本におけるソアラであること以前に、アメリカ市場において「レクサスSC430」の名前で存在することに第1の目標があるクルマなのである。
だから国内では見ても乗っても、明らかにどこか場違いな感じがする。その一種の場違いさこそ、日本の路上での魅力だろう。つまり国内では目標販売台数が月間200台と、ごく希少なクルマたることを狙った意味はそれなりにある。
大きく派手で、電動ルーフの2+2クーペ/コンバーチブルのこのクルマ、トヨタ製のガイシャと思うとすんなり理解できる。
ともかく色がシャンパンゴールド(テスト車、写真は別)、このクルマはどこでも人目を引く。それだけ日本では特異な存在とも言えるが、オープンで都会を走るには、それなりの覚悟が必要だ。自身の身なりからパセンジャーを含めて、一種の演出が要るが、そういう舞台を求めたクルマとしての劇場性に充ちているのが、こういうクルマの価値だろう。
【概要】 どんなクルマ?
(シリーズ概要)
初代ソアラは、1981年、日本の自動車産業が世界一の座の獲得を目前にしていた時生まれたトヨタの高級パーソナルカー。それ以前のトヨタ2000GTを例外として、トヨタとしては初めて200km/hオーバークラスを狙おうとし、同時にプレスティッジカーの世界への仲間入りも願ってつくられた。トヨタとしては初めてデザイナー出身のチーフエンジニアによって手がけられたことも話題になった。
いずれにしても、トヨタが今日に至る世界トップクラスの企業に成長するには、絶対に必要な通過儀礼として生まれたクルマであり、今でも象徴的な意味は大きい。
そしてレクサス(セルシオ)によるアメリカでの高級車市場挑戦に伴い、3代目からソアラは、レクサスブランド中の高級パーソナルカーとして位置づけられる。すなわちこのモデルから、その顔は完全にアメリカマーケットに向き始めた。
実際旗艦のLS(セルシオ)、中堅のGS(ウィンダム)らと並んで、アメリカで見るSC=ソアラもとても存在感があるし、ぴったりと風景に合っている。
その最新版が、2001年4月3日にデビューした4代目ソアラである。全長×全幅×全高=4515X1825X1355mmと、旧型より385mm短く、20mm広く、5mm高くなった「2+2」ボディのウリは、いうまでもなく電動で開閉するハードルーフ。メルセデスのSLKで始まって以来、最新のSLに至るまで、世の中の高級パーソナルカーの定番必須アイテムとなった機能を採用して、新世代ラクシャリー・パーソナルカー・クラブに仲間入りした。もちろん、それに加えてトヨタ=レクサスならではの「エクセス=過剰」と言えるほどの装備を満載している。その徹底した顧客奉仕装置こそ、このクルマの武器である。
(グレード概要)
日本では430SCVなるワングレード。4.3リッターV8DOHC(280ps/5600rpm、43.8kgm/3400rpm)の3UZ-FEユニットと5段SuperECTの組み合わせとなる。電動ルーフ格納時にトランクスペースが狭くなることをカバーする、スペアタイヤ不要のランフラットタイヤはオプション。テスト車には付いていなかった。前後ダブルウイッシュボーンとコイルのサスペンションを備える。
【車内&荷室空間】 乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★★
トヨタ的豪華様式にまとめられたダッシュは、カーナビもオーディオコントローラーも油圧開閉式の木目カバーの中に隠れている。ボーンと3つの円形が突き出した、オリジナル「フェアレディZ」を思わすメーター、覚えきるまでには苦労しそうなほど多数のスイッチなど、ともかく顧客サービスに苦労したデザイン。とはいえ、豪華=上品ではないのは、多分意図的なものだろう。
(前席)……★★★
高級な皮革(アメリカかドイツ製だろう)を使ったシートはパワーの助けを借りるなら、そしてステアリングホイールの電動調整と合わせれば、99%の人間に合うはずだ。ただしルーフを被せているとヘッドルームはミニマムだ。一定速度や一定横加速内での乗り心地やサポートは完璧だが、本気で飛ばすと、体型によってはバックレストのサポートが不足する。ドイツのサーキット、ニュルブルクリンクにミシンを持ち込んで、テストドライバーの要求に合わせて縫い直したホンダNSX(個人的には国産車最高の出来と思う)のシートにはかなわない。
(後席)……★
実用性からするならゼロである。車検上は4座だが、子供でも足を削りたくなる。だから★といえるが、でも無いよりあるだけいいと思えば3つ星となる。この種のクルマとしては十分に広いトランクを持っているとはいえ、やはり室内にものを置きたい。そういう時にはすごく重宝するからだ。
(荷室)……★★★
ランフラットタイヤのモデルではなく、スペースセーバー・スペアタイヤのバージョンでも相応な荷室はある。少なくともフルサイズのゴルフバッグは2セット入る。ただしそうすると電動トップは格納できないから、オープンは無理になる。先代よりもホイールベースや全長を縮めた割には努力している。
【ドライブフィール】 運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
3UZ-FEはノイズやバイブレーション、全域のトルクに関しては言うことはない。セルシオで証明されているように、組み合わされる5ATとともに世界でもっともリファインされたV8である。ただただよどみなく、きれいに、そして相応に静かに吹く。だが、ボディスタイルに相応しくスポーティ……というよりはドラマティックかというと、この面ではやや物足りない。洗練されているが、決してスポーティではない。でも多分、その性格は顧客の好みどおりだろう。メルセデスの一時期の5ATとよく似たレイアウトのシフトゲートは、妙なことにメルセデスほど操作性は良くない。どこかにトヨタが解き明かすことの出来ない秘密をメルセデスは持っているのだろう。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
最初、都内や高速道路で乗っている限り、乗り心地は世界最上の1つと思った。目地段差などの高周波振動の抑え方もいいし、ノイズの遮断も優れている。最初はメーカーが言うように、ボディ剛性は相当高いと感じた。だが、山中のかなり荒れたところに行くと、場合によってはボディ全体が共振するような大きなショックや音が聞こえた。それまでは予想もしなかったような振動が伝わるのだ。オープンボディゆえに仕方がないかもしれないが、そういうときは一瞬興ざめになる。ハンドリングは徹底した安定志向で、軽快ではないが安全だ。もっと飛ばそうとするとトラクションコントロールが絶妙なタイミングで介在する。しかもそれをオフにして走る気を起こすクルマではない。そういう性格を考えるとステアリングはもう少し軽い方が上品だと思う。
【写真=難波ケンジ】
【テストデータ】
報告者:大川 悠
テスト日:2001年11月19日から21日
テスト車の形態:NAVI長期リポート車(写真は別)
テスト車の年式:2001年型
テスト車の走行距離:9521km
タイヤ:(前)245/40ZR18/(後)同じ(いずれもDunlop SPSport 2030)
オプション装備:ソアラ“マークレビンソン”プレミアムサウンドシステム、MDプレーヤー一体AM/FMマルチ電子チューナーラジオ&インダッシュ6連奏CDオートチェンジャー+9スピーカー(15.0万円)
走行形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(5):山岳道(2)
テスト距離:383.6km
使用燃料:54.5リッター
参考燃料:7.0km/リッター

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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