ホンダN BOXカスタム G ターボパッケージ(FF/CVT)【試乗記】
「高い」だけのことはある 2012.04.05 試乗記 ホンダN BOXカスタム G ターボパッケージ(FF/CVT)……167万5750円
ホンダ期待の新型軽乗用車「N BOX」。背丈も高けりゃ値段も高い、ターボ付きのトップグレードで、その実力を試した。
“軽”くない仕上がり
“カスタム”は「ホンダN BOX」の上級男物バージョンだ。試乗した“G ターボパッケージ”はさらにその高性能モデル。環境スペックは75%減税から50%減税に落ちるが、ギリギリまで切り詰めたエンジンルームには新開発の658cc3気筒12バルブDOHCターボが載る。
全高1.7mを超す、いわゆるスーパーハイト・クラスの軽ワゴンは、屋根も高いが値段も高い。試乗車のFFで166万円。4WDだと178万円。純正カーナビを付けたら200万超えだ。これに対して、「アルト」や「ミラ」のような屋根も価格も低いさんチームがあり、今の軽は価格的にすっかり二重構造になっている。
しかし、重厚なドアをバフンと閉めて運転席に収まると、N BOXカスタム・ターボは「これが軽!?」的豪華さにあふれている。ドア内張りなどの内装材は、フツーのN BOXよりいちいち上等だ。ダッシュボードに目立つクロムのパーツも安っぽく見えない。AT車を運転するとき、ぼくはついついシフトレバーに手をかける癖があるのだが、このクルマのインパネシフトは作動感も触感もアウディみたいに高級だ。
左右ABピラーの4本柱が縁取る大きな前方視界は、ボクシーきわまるN BOXの大きな魅力だ。これだけ天井が高くても、「空気の重さ」を感じない。無駄に屋根が高い感じはしない。前席空間がうまくデザインされているのもN BOXの美点である。
助手席側Aピラーにはボディー左サイドの視界を補助する「ピタ駐ミラー」が付く。こういう物をカッコよく作るのもホンダらしいが、肝心のミラー鏡面が暗くて残念だ。
走りも余裕たっぷり
興味の焦点は、最高級最高性能N BOX、「カスタム G ターボ」の“走り”だろう。
43psの自然吸気モデルと比べると、64psのこちらはひとくちに「余裕のターボ」である。980kgというヘビーウェイトのせいもあり、ドッカンターボ的速さはない。そうではなく、過給を排気量の肉づけに使って、ひとクラス上のエンジンを載せたかのような余裕を感じさせるのが、カスタム G ターボの身上だ。
発進直後のダッシュなどは、CVTがピューピュー活躍してパワーを紡ぎ出すノンターボモデルのほうがむしろ鋭く感じられた。それだけ量販モデルのノンターボが健闘しているわけだが、追い越し加速と、高速域でのパワーはやはりカスタム G ターボのひとり勝ちである。100km/h時の回転数は、3000rpmと低い。町なかでも“回さなくても走る”から、エンジンやCVTもノンターボより静かである。7段CVTとして使えるパドルシフトは専用装備だ。
さらに足まわりもひとクラス上の余裕を感じさせる。フロアパネルに薄っぺらさがないのはN BOXシリーズに共通の美点だが、このクルマはその中でも最も乗り心地がしっとりしていて高級だ。
タイヤはシリーズで唯一、15インチの165/55を履く。145/80R13のN BOXと比べると、ワインディングロードでのスタビリティーは数等上である。こういうクルマでそういうところをカッ飛ばす人もいないだろうが、もしやるならカスタム G ターボを強くお薦めする。
![]() |
その名に恥じない収納力
約200kmを走り、満タン法で採った燃費は11.6km/リッターだった。別の機会に借りたN BOXの「G Lパッケージ」は13km/リッター台だったから、ハイパワーな分、燃費は落ちる。
というか、どちらも燃費で選ぶ軽ではない。なにしろ「走る空気抵抗」みたいなボディーである。燃費第一でないことは一目瞭然だ。ボディーのサイドパネルも書き割りのように平板で大きいから、横風にも弱い。スーパーハイト軽、そのへんはもちろん心して乗るべし。
そのかわり、N BOXの収容能力はクラストップである。ダイブダウンするリアシートを畳んで最大荷室にすると、27インチのロードレーサーが、立てたままかるく3台は積める。床も低いから、重くて大きいママチャリも積みやすいだろう。
![]() |
一方、人が座る後席は笑っちゃうほど広い。スライド機構はないが、なくたって脚が組める。ただ、見晴らし抜群の前席と違って、リアシートは一段もぐり込んだように低い。頭上の余裕はいくらでもあるのだから、もっと座面を上げればいいのにと思うが、そうしないのはやはり重心を上げたくないからだろうか。
しかし、N BOXはホンダ渾身(こんしん)のスーパーハイト軽である。安くはないが、軽のチープさも見事にない。特にこのカスタム G ターボには、「白ナンバーをぶっとばせ」的な気迫さえ感じる。
高級感があって、運転も楽しい。さすがに高いだけのことはある。カスタムシリーズの顔は鼻をふくらませているみたいでコワイから、フツーのN BOXにもうちょっとお手頃なターボモデルをつくったらいかがでしょう。
![]() |
(文=下野康史/写真=小河原認)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。 -
MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル(前編)
2025.10.19思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル」に試乗。小さなボディーにハイパワーエンジンを押し込み、オープンエアドライブも可能というクルマ好きのツボを押さえたぜいたくなモデルだ。箱根の山道での印象を聞いた。 -
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】
2025.10.18試乗記「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。 -
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】
2025.10.17試乗記「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。