ホンダN-BOXカスタム ターボ(FF/CVT)
独走のトップランナー 2023.12.11 試乗記 フルモデルチェンジした「ホンダN-BOXカスタム ターボ」に試乗。キープコンセプトの見た目はあまり代わり映えしないが、中身は大きく進化していた。なかでも高速走行時の安定性はピカイチ。ファーストカーとしても推せるその走りを報告する。新型登場直後に堂々の1位
N-BOXは初代の途中から現在までの8年以上にわたって、軽自動車(以下、軽)で不動のベストセラーであるだけでなく、白ナンバーの登録車も含めて、事実上は日本で一番売れているクルマであり、もはや“国民車”と呼びたくなるほどの存在である。
通算3代目となる新型はこの2023年10月6日の発売だったが、その直前の、2代目最末期といえる同年9月でも2万0686台を売り上げた。これは登録車の「トヨタ・ヤリス」をもしたがえた国内販売1位の台数である。これを聞いて「自社登録とか、なにかウラがあるのでは?」といぶかしがる向きもあるだろう。その真偽は分からないが、N-BOXがモデルチェンジも関係なく売れていること自体はホント……と深く実感させられる出来事に遭遇した。
さる9月30日に筆者は、ホンダ正規ディーラーである「ホンダカーズ」の都内某店をたずねた。この日はいわゆる本年度上半期の最終日で、しかも土曜日。ご想像のとおり、朝から半期の追い込みとばかりの納車ラッシュだったのだが、この日納車される10台前後のうち半数近くがN-BOXだったのだ。新型は発売前なので、もちろんすべて従来型である。お見かけしたところ、N-BOXが納車されるお客さんは年配夫婦から家族連れまで多種多様で、当たり前だが、みなさん自身の愛車として入手したようにしか見えなかった。
商談時にはおそらく「従来型なら、お値引き頑張ります」とか「新型といっても、あまり代わり映えしないみたいです」といったセールストークがあったと思われる。それにしたって、この台数とは「とりあえずN-BOXにしておけば間違いない」的な信頼感が絶大なのだろう。ちなみに新型がメインとなったはずの翌10月のN-BOXの販売台数は2万2943台で、やっぱり国内1位。フルモデルチェンジという一大イベントがあってもさして変わらず、平常運転っぽいところが逆にすごみを感じさせる。
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大きく変わったインテリア
前出ホンダカーズ販売員の言葉どおり(?)、新型は一見、大きめのマイナーチェンジとしか思えない。先代で新開発されたプラットフォームやパワートレインなどの大物メカはキャリーオーバーだし、ホイールベース含めてディメンションも寸分変わりない。実際は顔つきも基本造形も別物で、バックドアはハンドル(とナンバープレート)の位置を下げて開閉操作性を向上させているが、全体的なたたずまいは変わらない。渡辺敏史さんの記事(参照)によると先代と同形状の主要ガラス類やルーフパネルも、この“変わらなさ”の大きな理由だろう。
いっぽう、インテリアは激変している。メーターの液晶化や空調口の移動でダッシュボードが低くフラットになり、視界と車両感覚は先代に輪をかけてよくなった。運転席からワイパーの一部が見えるのも意図的で、右側のそれが車両センターを直感しやすくしている。「ピタ駐ミラー」も“合わせカガミ”の新構造で、障害物の位置が分かりやすくなった。
さらに、先代にあった「助手席スーパースライドシート」仕様が廃止されたのも大きい。同仕様は助手席を前方ギリギリに追いやった前後ウオークスルーが売りだったが、売り上げは芳しくなかったとか。今回はその犠牲になっていたグローブボックスが一気に拡大して、車検証や取説を入れてもまだ余裕たっぷりな大容量は軽ではめずらしい。
室内空間も変えようがない……と思ったら、後席肩まわりが片側だけで55mmも広がっているのには驚いた。2023年1月20日以降の新型車からポール側突基準が強化されて、全幅1.5m以下(≒軽)のみ衝突速度が甘めの26km/hだったのが、上級と同じ32km/hにアップした。新型N-BOXも上屋構造の設計変更が必要となり、「それを機に以前からあたためていた構造のアイデアを使った(開発担当氏)」という。実際、後席壁面の収納スペースもあからさまに大きくなってもいる。
これらはすべてフルモデルチェンジならではの進化である。
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ロードホールディングが別物
パワトレやシャシーの味わい部分はほぼすべてリセッティングと熟成の領域というが、進化は著しい。今回試乗したターボエンジンの電動ウェイストゲートはいまだに軽唯一だし、アルミ製フロントナックルや「フィット」と同サイズのダンパーピストンなど、軽としてはぜいたく設計なのが、N-BOXそもそもの自慢である。6年前の2代目がきずいたリード幅はいまだ十二分ということか。
アクセル操作ひとつで以心伝心の加減速が可能なところも、さすがというほかない。市街地でのフットブレーキ頻度の低さは、最近のホンダCVT車に共通する美点といっていい。先代N-BOX以降、同じNシリーズだけでなくフィットや「ヴェゼル」「フリード」「シビック」などで培ってきたノウハウがいい意味で凝縮された感じである。
アシまわりにいたっては、自然吸気エンジン車はバネもダンパーもタイヤも先代とすべて同じで、ターボ車でも前後ダンパーの減衰力を再調整しただけという。今回の試乗車が、先代よりリアに良くも悪くもベタッとした安定感が増して、後席の乗り心地も柔らかに感じられるのは、そのおかげかもしれない。
もちろん、ほかにも上屋を含めた車体剛性バランスも変わっているのだが、いずれにしても、これだけの変更で直進性とロードホールディングが別物のように進化しているのは、まるでキツネにつままれたかのようだ。今回の試乗ではちょうど高速を走っているときに、猛烈な横風に見舞われたりもした。新型も四角四面スタイルは変わらないので、上屋はときにドキッとするほど盛大にあおられたのだが、4本のタイヤだけは路面にヒタリと吸いついたままで、明確な修正舵も必要とせず直進してくれたのだ。
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唯一の残念ポイントは?
開発陣によると、この直進性と安定感のキモは最終組立工場にあるという。先代のサスペンションは空車状態の車高で締結されていたが、実際に走るときは最低1人は乗車するので、そこから微妙に車高が下がる。すると、当然ながら、サス各部のブッシュにはわずかにネジり方向に力がかかり、空車時に最適化された前輪のトー角もわずかに開く。
もちろん、ブッシュ≒軸受けは引っかからず回転するように設計されているし、トー角などのアライメントも荷重変化を見越した設定になっている。……なってはいるのだが、生産ライン上で実走行時の車高(その加減は企業秘密)を再現しながら、サスを組みつけてトー角を合わせた新型は、それはもう先代に乗った経験がある人ならだれもが気づくくらいに、まっすぐ走り、アシがしなやかに動く。いやはや、クルマづくりとはかくも奥深い!
もはや弱点皆無といいたくなる新型N-BOXにあえてツッコミを入れるとすれば、フィットなどと同じく単眼カメラ(と近距離用超音波センサー)だけで構成される「ホンダセンシング」だろうか。最新広角カメラを使い、駐車時用などでの近距離ブレーキも追加されるなど、機能そのものは増加している。
しかし、日産系の「プロパイロット」や新型「スペーシア」で初登場したスズキの「デュアルセンサーブレーキサポートII」といったミリ波レーダー併用型と比較すると、アダプティブクルーズコントロール(ACC)での高速追従走行マナーが、少したどたどしいのは否定できない。前記のシャシー効果もあって、新型N-BOXのACC走行は、左右方向の車線キープ能力がすこぶる優秀である。だから、なおさら前後方向のマナーが“雑”に感じられてしまうのだ。
「軽でACC走行なんてしないよ」という反論もあろうが、いよいよ国民車の自覚が芽生えてきた新型N-BOXは、ファーストカーとして家族旅行から遠方への帰省まで使えることを大きな開発テーマとしたという。驚くほど静かになった高速ロードノイズもそのためだ。となれば、こちらの期待も「アコード」や「オデッセイ」に匹敵するフラッグシップレベルになるのも当然……なのか?
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ホンダN-BOXカスタム ターボ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1790mm
ホイールベース:2520mm
車重:940kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64PS(47kW)/6000rpm
最大トルク:104N・m(10.6kgf・m)/2600rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:20.3km/リッター(WLTCモード)
価格:204万9300円/テスト車=244万0400円
オプション装備:ボディーカラー<プレミアムサンライトホワイト・パール>(5万5000円)/マルチビューカメラシステム(7万3200円) ※以下、販売店オプション 9インチHonda CONNECTディスプレイ(23万5400円)/フロアマット(2万7500円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:2158km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(5)/山岳路(4)
テスト距離:340.8km
使用燃料:23.0リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:14.8km/リッター(満タン法)/15.3km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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