スズキ・スペーシア カスタムTS(FF/CVT)
クールだけれどやりくり上手 2013.07.04 試乗記 軽ハイトワゴン「スペーシア」の派生車種「スペーシア カスタム」は、クールな外観やインテリアだけでなく、走りにもこだわりがあった。ルックス以外にも細かな違い
2013年6月12日、スズキの新型軽自動車「スペーシア カスタム」が発表された。新型車といっても、名前からわかる通り3月に登場した「スペーシア」の派生車種。「スペーシア」は、ルーフをホワイトに塗る2トーンルーフ仕様をラインナップするなど、ポップでかわいい印象を与えた。いっぽうの「スペーシア カスタム」は、CMに「オレ・タチ・カルタス。」以来の舘ひろしを起用したことからもわかるように、男っぽいモデルだ。
新型車試乗会の会場で2台を並べて見比べると、その違いがよくわかる。「スペーシア カスタム」は、LEDポジションランプを内蔵したヘッドランプによって目元が凛々(りり)しくなり、光の加減でシルバーにもスケルトンにも見えるフロントグリルによって口元も引き締まった。目つきが鋭くてあまり笑わない男性を思わせる外観から、「石原軍団」というフレーズが頭に浮かぶ。
ツヤツヤした黒と、鈍く光るシルバーを組み合わせたインテリアもクールだ。ただしティッシュを箱ごと収納できる2つの物入れなど、親切装備は「スペーシア」から受け継がれている。
ルックス以外にも細かな違いがある。「スペーシア」の場合はFF(前輪駆動)の自然吸気エンジンのフロントブレーキがディスクブレーキであるのに対して、「スペーシア カスタム」のフロントブレーキはすべての仕様が通気式ディスクブレーキになる。「スペーシア カスタム」のほうが、より“走り”を意識していることがわかる。
足まわりのセッティングは基本的には両車共通。ただし、「スペーシア カスタム」のターボモデルは、「スペーシア」には設定されていない15インチタイヤが標準装備となる。この15インチ仕様の足まわりだけは、「スペーシア」とは異なる独自のセッティングになっている。
ということで、今回は15インチタイヤを履く「スペーシア カスタムTS」のFF仕様を中心に試乗した。64psを発生するターボエンジンを搭載したこのモデル、乗ってみてかなり驚いた。
動力性能と燃費性能を両立
まず感心したのは、15インチタイヤ(サイズは165/55R15)をしっかり履きこなしていること。標準の14インチ(サイズは155/65R14)より薄いタイヤになることから、多少は路面からのショックを覚悟してスタートした。けれども路面から不快なショックが伝わることはなく、むしろステアリングホイールのしっかりとした手応えが好ましい。
太くて薄いタイヤをただ付けただけでなく、丁寧にチューニングしたことをうかがわせる。
高速道路に入ると、印象はさらによくなる。速度を上げるほどに乗り心地は上下動の少ないフラットなものとなり、前述したようにステアリングホイールの手応えは信頼できるものだから、自信を持ってドライブできる。
軽自動車業界では1700mmを超すと「トールワゴン」と呼ぶそうだが、全高は1735mmの「スペーシア カスタム」は立派な背高モデル。それでも高速道路で合流するポイントにある、らせん状のコーナーでもグラッと傾いたりしないから安心だ。試乗当日は穏やかな天気だったこともあったけれど、横風にフラつくこともなかった。
市街地から高速まで、あらゆる場面でターボエンジンの力強さがありがたい。「スペーシア カスタム」の自然吸気エンジンも、それだけしか知らないのであれば不満は感じない。けれどもターボを経験すると、発進加速の余裕、中間加速の滑らかさ、高速での静かさなど、「買うならこっち」と思わせる。ちなみに自然吸気エンジン仕様とターボモデルの価格差は、11万円ちょっと。
このターボエンジンのウリは、ゆとりある動力性能と燃費性能を両立していることだ。FFの自然吸気エンジンモデルのJC08モード燃費が27.8km/リッターであるのに対して、FFのターボモデルも26.0km/リッターと遜色のない値を記録している。
「走る・曲がる・止まる」がしっかりしている
今回の短い試乗時間では燃費は計測できなかったけれど、「スペーシア」と共通の回生ブレーキシステムはなかなか興味深いのでおさらいをしておきたい。
ブレーキを踏むと、減速するエネルギーで発電機を回して発電、生まれた電気をリチウムイオン電池とアイドリングストップシステム専用の鉛バッテリーに充電する。
リチウムイオン電池に蓄えた電力で電装部品を動かすことで、これまで発電のために燃やしていたガソリンを節約できる。アイドリングシステム専用の鉛バッテリーに蓄えた電力によって停止時に頻繁にアイドリングをストップし、これまたガソリンをセーブする。
このアイドリングストップシステムは停車中だけでなく、減速時に13km/h以下になるとエンジンを止める。外観は骨っぽいけれど中身は「もったいない」の思想が徹底したやりくり上手なのだ。
試乗当日はまずまずの好天でエアコンは常時オンだったけれど、アイドリングストップ時に風がぬるくなるような不満は感じなかった。
試乗を終えて、後席に座ってみるとその広さに驚く。名は体を表すというか、このクルマがアピールしたいのは「スペース」だということをあらためて感じる。
ただし軽自動車が群雄割拠するいま、ただ広いだけだったらそれほど存在感はなかっただろう。
「走る・曲がる・止まる」という基本がしっかりしていることに加えて、広さと燃費性能が備わっている点がこのクルマの魅力だ。さらには豊富な物入れやサンシェードなど、「おもてなし」装備も充実している。CDを省くことなどで税込み7万3500円という手頃な価格を実現した、オプションのカーナビゲーションシステムの使い勝手も良好。セカンドカーとしてだけではなく、ファーストカーとしての役割も十分に果たすと思われる。アジア圏に向けて輸出するのも面白そうだ。
(文=サトータケシ/写真=田村弥)
テスト車のデータ
スズキ・スペーシア カスタムTS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1735mm
ホイールベース:2425mm
車重:900kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64ps(47kW)/6000rpm
最大トルク:9.7kgm(95Nm)/3000rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:26.0km/リッター(JC08モード)
価格:162万7500円/テスト車=172万2000円
オプション装備:スマートフォン連携ナビゲーション(7万3500円)/車体色<スチールシルバーメタリック>(2万1000円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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