レクサス本気の「ドライビングレッスン」体験記(前編)
はじまりから刺激的 2013.09.12 LEXUS AMAZING EXPERIENCE“驚き”がキーワード
面白い、アヤしい、不可解、そう来たかぁ……。最近のレクサスの活動を見ていると、頭の中に「!」や「?」がいくつも点滅する。
例えば本年5月のカンヌ映画祭では、「LEXUS SHORT FILMS(レクサス・ショートフィルム)」と銘打って5作の短編映画のワールドプレミアを開催した。これが映画監督にレクサスのテレビCMやプロモーションビデオを撮影させるというのなら、ありそうな話である。けれども「レクサス・ショートフィルム」は違った。
クエンティン・タランティーノを発掘したことで知られるアメリカの大物映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインが見つけた5人の若手映画監督に自由に映画を撮らせるというのが「LEXUS SHORT FILMS」の中身である。
レクサスはスポンサーとして制作をサポートするものの、ストーリーはクルマとは関係がない。ショートフィルムを撮るにあたって唯一の“縛り”は、「Life is amazing.」を描写するということだけだったという。
10月に第1回を開催する「五感で感じる阿蘇・九州Experienceツアー」も、いままでの自動車メーカーでは考えられなかった新機軸だ。
これは、レクサス車で九州の風光明媚(めいび)な景勝地を巡るツーリングと、サーキットドライブを組み合わせた新しい自動車旅行の提案。阿蘇や湯布院のラグジュアリーなホテルや旅館に宿泊し、大分オートポリスでは現役のSUPER GTドライバーにアドバイスを受けながら、「LFA」や「IS F CCS-R(Circuit Club Sport Racer=サーキットでのスポーツ走行のために開発した特別仕様)」を自ら運転してサーキット走行ができる。
ほかにも、デザイン・アワードや食のイベントを開催したり、青山にレクサスブランドの体験スペース「INTERSECT BY LEXUS」をオープンしたりと、その動きは実にアクティブだ。
ここでレクサスがやろうとしていることは、「AMAZING=驚き」をキーワードに、「体験」や「感動」を提供しようとしていること。いいクルマを作ってお客さんを喜ばすように努めるのは当然として、その次のステージにチャレンジしているのだ。
「ピンとこない」という方も、正直なところ多いだろうと思う。ここで、音楽業界を例にとると、レクサスのやろうとしていることがおわかりいただけるのではないだろうか。
限られた人の、タダならぬ体験
かつてのミュージシャンは、レコードやCDの売り上げ(印税収入)で生活していた。けれどもいま、音源は『YouTube』などネット上で無料(タダ)で手に入れるものになってしまった。そこでミュージシャンの主な収入源は、物販収入も含めたライブやフェスに移行しつつある。つまりミュージシャンの仕事は、レコードやCDというモノを売ることから、「体験」や「感動」を売ることに変わったのだ。音源は、「体験」や「感動」を売るための販促ツールなのだ。
もちろんクルマと音楽は違うし、今後もクルマがタダで手に入ることはないだろう。けれどもモノが飽和状態になった時代の流れとして、「体験」や「感動」を売ることの意味が大きくなることは間違いない。
「体験」と「感動」を提供するレクサスの新しい取り組みのひとつが、「LEXUS AMAZING EXPERIENCE」という看板を掲げた「ドライビングレッスン」である。
今回体験受講した内容を2回に分けて報告するけれど、結論から先に言えば、よくある「ユーザー向け安全運転講習会」とはまったくレベルが異なっていた。本気でスポーツドライビングに向き合いたい方や上手になりたい方のための、“ガチ”の内容だった。参加費は10万5000円と決して安くはないけれど、朝から晩まで、へとへとになるまで走ったことを思えば、決して高くはない。倍率10倍からの抽選という狭き門をくぐり抜けて一緒にレッスンを受けた24名のクラスメートたちも、同じような感想を口にしていた。
“ガチ”と並ぶ、このイベントのもうひとつのキーワードは、“おもてなし”だと感じた。いくつものメニューが、慌ただしくもなく、間延びすることもなく、ちょうどいいタイミングで進行していくのだ。インストラクター各氏の言動からも、参加者をできるだけ自由に走らせてあげたいという気持ちが感じられた。
レッスン会場である富士スピードウェイに到着し、ベース基地となる富士レクサスカレッジのエントランスに入ると、スタッフがにこやかに出迎えてくれる。必要な書類に記入し、ヘルメットのサイズを合わせると、「いよいよ始まる」という緊張感が高まる。
「疲れるくらい追い込みます」
まずはブリーフィングが行われ、第1回となるドライビングレッスンのメニューや講師陣の紹介があった。内容をこまごまと記すより、プリンシパルを務めるレーシングドライバー木下隆之さんのあいさつをお読みいただいたほうが、このイベントの性格をご理解いただけるだろう。
「運転やクルマの奥深さ、楽しさを体験して驚いていただくことがこのレッスンの目的です。先導車に付いて走るような甘いものではなく、ショートコース、本コースをレクサスのLFAやIS F CCS-Rで全開走行していただきます。かなり中身は濃く、ちょっと疲れるところまで追い込むようにメニューを構成したので、楽しみにしてください。LFAもならしが済んで、9500(rpm)まできっちり回ります」
木下さんのほか、SUPER GTのGT500クラスに参戦している石浦宏明さんなど、講師陣はいずれも現役トップドライバー。まずはウオーミングアップということで、「ブレーキングエクスペリエンス」からプログラムはスタートした。
これは、フル加速して80km/h程度に達したところでフルブレーキングする練習と、同じくフルブレーキングの状態でレーンチェンジする練習。路面はウエットになっている。と、文字にすると単純そうだが、これがなかなか奥深い。
床が抜けそうになるまでアクセルペダルを踏み込むと、「レクサスIS350」は猛然と加速する。ブレーキングポイントで、ペダルを蹴飛ばすほど強烈にブレーキング。ガガガとABSを作動させながら強力なストッピングパワーがさく裂! 想像よりはるかに短い制動距離で、安定した姿勢でIS350は停止した。何かあったら、現代のクルマはとにかく思いきりブレーキを踏めばいいのだ。一度経験すれば体で理解できるけれど、知らなければここまで強くブレーキは踏めない。
続いて、ブレーキペダルがヒン曲がるほど強くブレーキングしながらステアリングホイールを切る練習。操舵(そうだ)に気を取られると、どうしてもブレーキを踏む力が弱まってしまい、制動距離が伸びる。ここでも、これでもか! と強くブレーキペダルを踏み込むのがポイントだ。
当初は、左にステアリングホイールを切るルールだったけれど、受講者が慣れてきたところで、ブレーキング直前でインストラクターが「右!」「左!」と操舵する方向を無線で指示する方式に変更。さらに難易度は増した。
クラスメートたちは異口同音に「この練習は一般道じゃできない」「ブレーキってこんなに利くのか」という感想を述べた。リポーターも同感で、VDIM(車両姿勢統合制御システム)の効果を肌で知った。フルブレーキングしながらハンドル操作しても、レクサスIS350は、何事もなかったかのようにぴたりと静止するのだ。
そして、このあたりでウオーミングアップは終了。舞台をショートサーキットへと移し、いよいよプログラムはハードになる。
(文=サトータケシ/写真=荒川正幸)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。