第28回:禁断の果実
2017.02.07 カーマニア人間国宝への道その快音、管楽器のごとし
ディーゼルに快音はあるのか!? ということで、「マセラティ・ギブリ ディーゼル」のサウンドを大絶賛している当連載だが、それに関して読者さまから、「あれもスピーカーから出している音ではないでしょうか?」という問い合わせをいただいた。
ギブリ ディーゼルのサウンドは、「マセラティ・アクティブ・サウンド・テクノロジー」というシステムにより発せられている。テールパイプの脇に取り付けられたふたつのサウンドアクチュエーターが、エンジンの最も特徴的な音色を強調しているとのこと。具体的な構造は不明ながら(スイマセン)、「プジョー308 BlueHDi」のように、車内のスピーカーからだけ出している音ではないことは確かだ。
実際のところ、車内に響くサウンドもAMGのV8サウンドのようで甘美だったが、車外に出て聴くブリッピングは、さらにド迫力だった。テールパイプ横のアクチュエーターが楽器のごとくサウンドを発しつつ、その一部を車内に引き込むパイプが設けられているのか? 「レクサスLFA」みたいに。あのサウンドはフェラーリを超えていた(マジ)。LFAの助手席に乗ってくれた東大卒の才媛は、「管楽器の中にいるようでした」とコメントをくれた。さすが東大。アレに近いのか?
完全にスピーカーから発せられる疑似サウンドだと、さすがに「これはギミック」と割り切るしかないが、一応実際に出ている音なので、私としては全面的に肯定したい。
ちなみにイギリスでは、ギブリの販売台数の9割以上をディーゼルが占めているという! マジですか! 日本じゃあんまり売れてないみたいですけどね。ディーラー営業マン氏によると、やっぱマセラティを買いに来るお客さまの脳内には、ディーゼルという選択肢がまだないらしいです。さもありなん。
ジャイアント・インパクト第2弾
で、今回書くのは、ギブリ ディーゼルのような高いクルマではなく、「4気筒のお手ごろディーゼルに突出して素晴らしいモノはないのか?」というテーマだった。
ある。いや「あった」。それは2年半前、私がイタリアで借りたレンタカーである。
もともと当連載は、8年ほど前ヨーロッパを走り回ったレンタカー「フォード・フォーカス1.6ディーゼル」に大衝撃を受けた”ジャイアント・インパクト”から始まっているが、2年半前のレンタカーは、まさにジャイアント・インパクト第2弾であった。
それは、「フォルクスワーゲン・ゴルフヴァリアントTDI(5段MT)」。1.6リッター/90psのディーゼルターボ(ユーロ5対応)。レンタカーらしく当時のディーゼルのボトムモデルだが、これはつまり、例の不正ディーゼルエンジン搭載車だった!
一昨年、世界を震撼(しんかん)させたフォルクスワーゲン(以下VW)のディーゼル不正事件。問題のディーゼルは日本には輸入されていないこともあり、それがいったいどんなドライブフィールかを記したリポートは、日本ではお目にかかれない。しかし私はそのクルマに1週間乗り続けていた。なんというラッキー。
で、どうだったのか。
とてつもなく良かった。
まず、静粛性が驚くほど高く、マツダのスカイアクティブD並みだった。車外で聞いても結構静かで、こんなディーゼル、マツダ以外にあったのか!? と思いましたよ。もちろん走っても静か。「BMW 320d」よりもエンジンそのものとしては静か! VWのボトムモデルなのに! この静かさは不正とは関係ないと思うのでまったく謎です。
良すぎる! 不正ディーゼル車
さらに驚くべきは、そのエンジンレスポンスの鋭さと軽さだった。ヒュンヒュン回って回転落ちも速い。まるでガソリンエンジンそのもの! なのにトルクは超分厚くてディーゼルそのもの! 3人&荷物満載で2000km走り回って燃費は19km/リッター! まさかこんなとんでもないブツが欧州では売られていたとは! たったの90psなんて信じられん! 驚天動地の実用性能!
いったいどーなってんだ! と私は強いショックを受けましたよ。日本に戻ってVW広報に「どーしてあんなにいーんですか!?」と聞いたけど、返ってきた答えは「わかりません」。日本の広報も、日本未導入のディーゼル、それもボトムモデルについてなんか全然知りませんでした。
なんであんなによかったのか。理由は「不正ソフトを使っていたから」ということが、昨年明らかになったわけなんですね。
VWの不正ディーゼルのすばらしさ(日本語がヘンですね)については、スカイアクティブD生みの親であるマツダの人見光夫常務も証言している。スカイアクティブD誕生当時、アメリカでVWのディーゼル(不正モデル)に試乗し、「こんなに元気に走るんじゃ、ウチのはまだアメリカには出せないな」と判断したそうです。
なぜVWのインチキディーゼルがそんなに元気だったのか。これは推測だが、実走行ではEGR(排ガス還元装置)の量を減らすなどしていたのだろう。つまり現代のディーゼルターボエンジンは、排ガスのことを無視すればメッチャ活発に気持ちよくできるということ。アウディのディーゼルレーシングカーがルマンで勝ちまくった理由がよくわかる。
といっても、VWのインチキディーゼルを日本で入手するのは極めて困難。つーか乗っちゃいけませんですね。
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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