第12戦イタリアGP「孤高の53点リード」【F1 2013 続報】
2013.09.09 自動車ニュース ![]() |
【F1 2013 続報】第12戦イタリアGP「孤高の53点リード」
2013年9月8日、イタリアのモンツァ・サーキットで行われたF1世界選手権第12戦イタリアGP。週末を通じてライバルを凌駕(りょうが)したのがレッドブルとセバスチャン・ベッテルだった。フェラーリのお膝元でポール・トゥ・ウィンを達成し、今年の勝率を5割まで高めたチャンピオンは、4連覇達成の条件を着々と整えている。
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■チャンピオンチームの“空席”を射止めたのは……
イタリアGPを目前に控えた9月2日、2014年シーズンの注目のシートがひとつ埋まった。今季限りでF1を去るマーク・ウェバーの後釜が、同郷の若手ダニエル・リチャルドに決定したのだ。
イギリスGPでのウェバー引退発表から、レッドブルで来季セバスチャン・ベッテルと組むドライバー探しがスタート。ロータスのキミ・ライコネンという大物の名前もあがり、実際に交渉は進められたというが、最終的には姉妹チームであるトロロッソで2年を過ごした24歳のオーストラリア人ドライバーがチャンピオンチームのシートを射止めた。
ベッテル&ライコネンのチャンピオンコンビは魅力的ではあるものの、ドライバーにかかる契約金が高額になるのに加え、いくらライコネンが政治に無関心とはいえチーム内のバランスも考慮しなければならなくなる。また34歳と既にキャリア終盤に差し掛かっているライコネンと比較すると、20代半ばで成長の伸び代も十分に感じられるフレッシュなリチャルドを起用し、有望なドライバーに長期にわたってチームの未来を託すこともできる。現在4連覇に向けてまい進中のベッテルだが、レッドブルとの契約は2015年末までで、チームとしてはその後の“保険”が欲しいところでもある。
過去2年、非力なトロロッソのマシンを駆り、最高位はレース7位、予選では5位と善戦しているリチャルド。最近ではドイツ、ハンガリーでQ3進出を果たしており、ポテンシャルの片りんをうかがわせている。王者レッドブルという「Aチーム」への昇格により、今後の活躍がますます楽しみになったことはいうまでもない。
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■地元で必勝を期するアロンソ&フェラーリ
11戦を終え、ポイントリーダーのベッテルに46点ものギャップを築かれているランキング2位のフェルナンド・アロンソは、フェラーリのお膝元で是が非でも勝利したいところだった。
ローダウンフォース仕様で戦う超高速モンツァはもともとスクーデリアが得意とするコース。昨年はアンチロールバーの不備さえなければ予選でポールポジションを狙えたはずで、レースでは10番グリッドから挽回し3位でチェッカードフラッグを受けた。
5月のスペインGPから遠ざかる表彰台の頂点に、ここイタリアで立ちたいアロンソ。タイトル獲得のためには残り8戦でおよそ2勝分(1勝=25点)のポイントを取り返さなければならず、この時点で時間的な余裕はない。またここ2、3レースの戦績次第では、今季型マシンを諦め、レギュレーションが大幅に変わる2014年シーズンに開発の照準を合わせるという決断も下さなければならない。フェラーリには必勝が義務づけられているようなものだった。
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■ベッテル、今季4度目のポールポジション
4本のストレートで330km/hを超え、平均240km/hで駆け抜けるモンツァ。1周の77%でエンジン全開というGP最速コースでは、意外にも近年ポールシッターの勝率が非常に高い。2000年代に入ってからの13レース中、予選1位のドライバーが勝つこと10回。長い直線や2つのDRSゾーンがあるものの、オーバーテイクが容易かといえば決してそうではないのだ。
勝利に最も近いポールポジションを決める予選Q3は、ベッテルとレッドブルの独壇場となった。金曜、土曜のフリー走行で2度トップタイムを記録し、さらにQ1、Q2でも最速だったベッテルは、余裕すら感じさせるアタックで今季4度目の予選P1を獲得。0.213秒差でウェバーが2番手につけ、レッドブル2台が最前列に並んだ。
もともとモンツァを苦手とし、表彰台は2011年にベッテルが優勝した1回のみというレッドブルに蹴散らされた格好のライバル勢は、チャンピオンチームの速さに2週間前のベッテル圧勝という“悪夢”を思い出したに違いないだろう。
そしてポイントリーダーのベッテルは、挑戦者たちが予選でことごとく失敗してくれたことに感謝したであろう。フェラーリ勢は、昨年同様に2台がスリップストリームで引っ張り合いタイムを少しでも縮める作戦に出たものの、車間距離の調整がうまくいかず、フェリッペ・マッサ4位、アロンソは5位に沈んだ。さらにドライバーズランキング3位のルイス・ハミルトン、同4位のキミ・ライコネンはそろってまさかのQ2敗退でそれぞれ12位、11位からの厳しいスタートとなった。
ザウバーのニコ・ヒュルケンベルグが驚きの3番グリッド。チーム財政が芳しくない中で希望を抱かせるグリッドからレースに望む。メルセデスのニコ・ロズベルグ6位、リチャルド7位、後半戦にきて調子を上げてきているマクラーレンはセルジオ・ペレス8位、ジェンソン・バトンが9位につけ、トロロッソのジャン=エリック・ベルニュが10番グリッドを得た。
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■アロンソ、5番手からの追い上げ
日曜日、レッドブルの優位を脅かす要素は天候ぐらいしか考えられなかったが、雨はレースを避けるようにして降り、53周の決勝は終始ドライ。しかしこのチャンピオンチームがまったくのトラブルフリーで1-3フィニッシュを飾ったわけではなかった。
スタートでトップを守ったベッテルは、急減速して飛び込む第1シケイン手前でタイヤスモークをあげ、フラットスポットによるタイヤ性能劣化という心配の種をつくってしまった。オープニングラップで1.1秒のギャップを築き、様子見も兼ねてか、7周目までにジワジワと3.1秒の差をつくったが、宿敵アロンソの追い上げで王者は本領を発揮し始めた。
アロンソはスタートで5番手から4位に上がり、3周目にはウェバーから3位の座を奪うと、好発進で2位に躍り出ていた僚友マッサに“譲ってもらい”8周目にはベッテル追撃にかかった。だが首位ベッテルは途端にファステストラップを連発し差は拡大、力の差を見せつけられてしまった。
ミディアムとハードという硬めのタイヤが持ち込まれた今回は1ストップが主流となり、リーダーのベッテルは24周目、アロンソは28周目にミディアムからハードにタイヤ交換。各車がピットストップを終えると、1位ベッテルの10秒後方に2位アロンソがつき、そしてマッサをアンダーカットすることに成功したウェバーが3位に上がっていた。
終盤、アロンソの背後に迫ったウェバーだったが、なかなか抜くことはできず、結局3位でチェッカードフラッグを受けた。レッドブルのギアボックスが不調となり、無線でショートシフトを命じられていたのだ。これは首位をひた走るベッテルも同様で、10秒以上あったリードタイムは最終的に5.4秒まで目減りしていた。もちろん、勝利するには十分なマージンだった。
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■孤高の53点リード
予選での失敗から2位まで挽回したアロンソ。ベッテル&レッドブルという高く大きな壁を前に完敗したフェラーリのエースだったが、タイトルを争う他のライバルに比べたら幸運に恵まれていたといえるだろう。
予選11位のライコネンは、スタート直後のシケインで前を走るマクラーレンのペレスに追突してしまい、1周を終えてピットインし最下位に脱落。他車より1回多い2ストップ作戦に変更せざるを得なかった。
また12番グリッドのハミルトンには、12周目にタイヤのスローパンクチャーが発覚。ライコネン同様に2ストップというハンディキャップを負わされてしまった。
惜しむらくは、ライコネンもハミルトンも、ファステストラップを更新しながらハイペースで周回を重ねていたこと。そのポテンシャルを予選、決勝で遺憾なく発揮できていたら、ハミルトン9位、ライコネン11位という寂しい結果には終わらなかっただろう。
イタリアGP後のベッテルのリードは46点から53点に拡大。ランキング2位から追うアロンソにしても、期待をかけたモンツァで負けたことにより、いよいよ後がなくなってきた。さらにランキング3位のハミルトンは81点ものビハインドを背負ったことになり、レース後にタイトル争いからの脱落を宣言。直後に撤回しているが苦しい状況に変わりはない。ライコネンに至っては2戦連続の無得点で88点もの差をつけられてしまった。
孤高の53点リードでヨーロッパ・ラウンドを終え、残るフライアウェイ7戦に突入するベッテル。来るシンガポールGPは、昨年2勝目を挙げタイトル争奪戦で息を吹き返した場所でもある。今年は既に6勝、勝率は5割に達しており、4連覇をもくろむベッテルが圧倒的に有利な立場にいることは、誰が見ても明らかだろう。
すっかりおなじみとなった、アジアの小島でのナイトレースは、9月22日に行われる。
(文=bg)