第328回:フツーのマンマの、フツーの「パンダ」
2013.12.27 マッキナ あらモーダ!パンダ人気はダントツ!
イタリアにおける2013年1月から11月までの新車登録台数トップスリーを見ると、3位は「ランチア・イプシロン」の4万2884台、2位は「フィアット・プント」の6万292台だ。そしてダントツのトップは「フィアット・パンダ」の9万4828台である。
今イタリアでは、経済の低迷、未曽有の燃料代高騰、そして厳しい税務調査の影響で、高級車からコンパクトカーに乗り換える人が増えている。2013年10月に22%へと引き上げられた付加価値税も、コンパクトカーへのシフトを後押ししている。
パンダに関していえば、昔も今もイタリアの国民車的存在であることは、これまでも幾度か記したとおりだ。
今回ここに紹介するジョヴァンナさん(70代)も、パンダオーナーである。マンマ(お母さん)として2人の子どもを育てあげ、今は娘の店を手伝っている。
パンダに至るまで
ただしジョヴァンナさんの場合、生粋のパンディスタ(パンダ乗り)というわけではなかった。若い頃銀行員だったというジョヴァンナさんが免許を取ったのは、1959年のことだった。
「結婚して間もなく、建築家だった旦那と、『免許を取るなら、一緒に取りに行きましょうよ』っていうことになったの。街の自動車学校まで、二人して毎日自転車で通ったわよ」と話すジョヴァンナさん。
教習車はアウトビアンキの「ビアンキーナ」だった。「フィアット500」をベースに造られた“小さな高級車”だ。
夫妻は、最初のクルマに教習で慣れたビアンキーナを選んで購入した。同車のサイズは全長わずか3mちょっと、全幅もおよそ1.3mだ。それゆえ「小さくて、そりゃあ便利だったわよ」とジョヴァンナさんは振り返る。
しかしその後、彼女は同じ欧州製コンパクトカーの中でも、「ルノー4」、シトロエン、イタリア生産のMINIである「イノチェンティ・ミニマイナー」といったモデルを乗り継いだ。
「ミニマイナーは、バリバリのスポーツ仕様だったわよ」と笑う。これだから、イタリアのおばちゃんとクルマの話をするのは楽しい。なぜビアンキーナのあとは外国車ばかりだったのか? と聞けば、
「そりゃあの頃は、他国のクルマのほうが、品質的によかったもの」と即座に答えが返ってきた。
ところが、6年前にジョヴァンナさんのご主人が亡くなったときのことだ。ご主人名義で乗っていた「フォード・フィエスタ」を相続の対象として名義変更するのはイタリアの制度上かなり面倒だったので、それを手放すことにした。
しかし毎週末に過ごす山小屋は、住まいから30km近く離れた田舎だ。クルマがないとたどり着けない。そこで、地元のフィアット販売店で急きょパンダを手に入れた。1.3リッターのマルチジェットディーゼル仕様だった。価格は1万6000ユーロだったという。
カーグラフィックのグラビアよりも
かくも、ほとんど偶然手に入れたパンダだったが、キビキビ走るうえ、「燃費はいいし、モノがたくさん載るし、大満足よ」とジョヴァンナさんは語る。
さまざまなメーカーのクルマに乗ってきたジョヴァンナさんも十分満足できる価値を、パンダは備えていた、というわけだ。
近年イタリアンブランドに戻るイタリア人ユーザーが増えているのは、冒頭のような財布的事情だけでなく、その品質向上も背景にあることは間違いない。それは同時に、クルマが売れない中でもフィアット系ブランド、換言すれば国産車がシェア27.19%(2013年11月)を維持する原動力になっている。
後ろのパンバー部分が少しはげているので聞けば、「少し前にうっかりぶつけてしまったのよ」という。「塗装代に400ユーロかかっちゃったのはちょっと痛かったわね。でも、このパンダに6年間で6万kmも乗ったわ」と言って、ジョヴァンナさんは、ふくよかな体をドライバーズシートに滑り込ませた。
見ると、リアシートの足元にカリフラワーが転がっている。忘れているといけないのでボクが指摘すると、ジョヴァンナさんは「車内が涼しいから、今日スーパーで買ってきたまま置いといたのよ」と言い、ワッハッハッと豪快に笑った。
日本のおしゃれスポットに雑誌『CAR GRAPHIC』のグラビアのごとくたたずんでいるパンダもいいが、ジョヴァンナさんの愛車のように生活のにおいがプンプン漂っているパンダも、これまたそそられるではないか。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
最終回:人それぞれに「最後のアルファ・ロメオ」 2026.8.27 イタリア・シエナで開催された「アルファ・ロメオ・スパイダー/GTV」のささやかなオーナーミーティングを、地元在住の大矢アキオが取材。あなたにとって最後で最高のアルファ・ロメオは、いつの世代のどのモデルですか?
-
第975回:ホンダ&スバルのTシャツがイタリアを席巻中 2026.8.20 イタリアで、ホンダやスバルをモチーフにした“日本車Tシャツ”が人気に。自動車をモチーフにしたアパレルの世界で、日本車や日本のブランドがもてはやされる理由とは? 素直に喜べないその背景を、現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第974回:「民生用」と「軍用」をまたぐクルマたち――ルノーの最新戦術車両に思う 2026.8.13 ルノーのクロスオーバーSUV「ラファール」がまさかの軍用車に? ルノーと軍需との第1次大戦にまでさかのぼるつながりと、彼らが今ふたたび防衛産業と距離を詰め始めた理由、世界的に見られる軍用と民生用の垣根を超えたクルマの歴史を、大矢アキオが解説する。
-
第973回:静かになりすぎたクルマと「聴かせて、聴かせて隊」に思うこと 2026.8.6 最近イタリアでよく見かけるという、道行くスポーツカーやスーパーカーのドライバーに、豪快なエキゾーストサウンドをせがむ若者の姿。彼らの存在は静かになりすぎた四輪車に対するアンチテーゼか? 現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第972回:黒船来襲も! イタリア自動車販売店は戦国時代 2026.7.30 イタリアで急速に進む、自動車販売店の統廃合と巨大グループの伸長。その背景にはどんな理由があり、私たちにどんな変化をもたらすのか? 現地在住の大矢アキオが、変わりゆく自動車販売のあり方を考察するとともに、消えゆく街かど自動車文化に思いをはせた。
-
NEW
日産キックスX e-4ORCE(前編)
2026.10.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産キックス」に試乗。デザインが新しいのはもちろんのこと、まさに下ろしたての最新のパワートレインを搭載。日産の大きな期待を背負ったコンパクトSUVである。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】
2026.10.17試乗記三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。 -
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。 -
スズキの未来を徹底検証! 技術戦略説明会から“10年先のスズキの姿”を夢想する
2026.10.16デイリーコラム年間生産500万台で、Dセグメントまでカバーする巨大メーカーに!? スズキが発表した「10年先を見据えた技術戦略2026」を徹底検証。技術開発に製品開発、インドを核としたグローバル戦略などの中身を通して、「10年先のスズキの姿」を予想した。 -
賢い選択 ――キャデラック「LYRIQ」フラットプランのすゝめ――
2026.10.15投資家も太鼓判! 「キャデラック・リリック」×フラットプランという最適解<AD>クルマが変わり、時代も変われば“持ち方”だって変化する? お金のプロである投資家が、「キャデラック・リリック」の残価保証型リースを勧める理由とは? 夢の「2台持ち」をかなえる、最新電気自動車の賢い選び方を考えた。