「“ノーズの低いクルマ”は、もはや無理なのか?」
2012.01.14 クルマ生活Q&A ボディ「“ノーズの低いクルマ”は、もはや無理なのか?」
私はスポーツカー的な「低く、長く、幅広いクルマ」が好きなのですが、最近は「低く」の部分に引っかかるクルマが多くて困ります。なぜならノーズの前端が分厚いクルマが増え、どれもこれもいまいちカッコよく見えないからです。分厚いノーズは歩行者保護の観点から有効とも聞いていますが、これは何とかならないものでしょうか? ひょっとしたら、歩行者保護うんぬんは単なるエクスキューズにすぎず、真相は大きなライトやフロントグリルによって、クルマの個性を際立たせようとしている自動車メーカーの営業戦略なのでしょうか?
この質問を自動車メーカーなどで働いているデザイナーやスタイリストにぶつけたら、彼らは怒るか、あるいは泣いてしまうかもしれません。というのは冗談ですが、ノーズが低く、カッコいいクルマを作りたいと誰よりも強く思っているのは、おそらく彼らでしょう。ですが、質問にあるように歩行者に衝突した際の、特に頭部を保護する基準によって、衝撃を和らげるためエンジンなどとボンネットの間にクラッシャブルゾーン(空間)を設けなければならないため、ノーズを昔のように低くすることはむずかしいのです。
高級車だったら、衝突の瞬間にボンネット後端が持ち上がるポップアップフードを採用するとか、ノーズを長くして前端を下げるとか、まれな例ですがエンジンをドライサンプにして搭載位置を下げるなどしてクラッシャブルゾーンを確保することもできますが、寸法やコストの制約が厳しい小型車ではそうもいきません。
なお、おわかりとは思いますが、ミドシップやリアエンジンのスポーツカーが従来と同じく低いノーズを維持しているのは、当然ながら前にエンジンがないのでクラッシャブルゾーンが確保できるからです。
余談ですが、与えられた条件(保安基準)は同じでも、ノーズが分厚く見えるクルマと、それなりに低く見えるクルマがあることにお気づきだと思います。厚い、高いノーズを視覚的に薄く、低く見せるのもデザイン次第であり、デザイナーやスタイリストの力量にかかっているのです。

松本 英雄
自動車テクノロジーライター。1992年~97年に当時のチームいすゞ(いすゞ自動車のワークスラリーチーム)テクニカル部門のアドバイザーとして、パリ・ダカール参加用車両の開発、製作にたずさわる。著書に『カー機能障害は治る』『通のツール箱』『クルマが長持ちする7つの習慣』(二玄社)がある。