トヨタ・ヴォクシー ハイブリッドV 7人乗り(FF/CVT)
主役は遅れてやってきた 2014.06.10 試乗記 ありそうでなかった、「ノア/ヴォクシー」のハイブリッドモデル。先ほど新たに加わったハイブリッド仕様は、ベストセラーミニバンの“足どり”をどう変える? ヴォクシー ハイブリッドの最上級グレード「V」に試乗した。今までなかった不思議
軽自動車とともにニッポンの景色の一部と言えるほどに浸透したミニバン。今では大きいのも小さいのもあるが、ちょっと前までミニバンといえば、全幅5ナンバー枠目いっぱいサイズがほとんどだった。そのクラスは今でも激戦区。「日産セレナ」「ホンダ・ステップワゴン」そして「トヨタ・ノア/ヴォクシー」が激しい競争を繰り広げる。
ここのところ(ノア/ヴォクシーを1モデルと数えると)3モデルの中ではセレナに勢いがある。現行型の途中で、回生したエネルギーをためこむバッテリーを追加した「Sハイブリッド」モデルを追加するなどし、息の長いヒットを続ける。そこに待ったをかけるべく、今回ノア/ヴォクシーがモデルチェンジした。最大のトピックはハイブリッドモデルの追加。考えてみれば、パイオニアであるトヨタの売れ筋ミニバンにハイブリッドがなかったことが不思議だ。何はともあれ、ヴォクシーのハイブリッドで東京~箱根を往復した。
このクラスのミニバンは5ナンバー枠目いっぱいで作られているので、シルエットはほぼ箱。デザインといえば顔つきくらいか。ノアとヴォクシーのうち、ノアは優しい顔つき、ヴォクシーは厳(いか)つい顔つきというのが歴代に通じる特徴で、それは新型でも踏襲された。歴代、なぜかだいたいヴォクシーのほうが売れるんだよなぁ。
もはや熟成の域へ
「プリウス」と同じエンジン、型式は違えど同じスペックのモーターが載る。要するにプリウスのパワートレインを最適化したものがヴォクシー ハイブリッドに載ったということ。その結果、JC08モード燃費は23.8km/リッターとなった。非ハイブリッドモデルが16.0km/リッターだからおよそ5割増し。ライバルと見比べると、セレナSハイブリッドが16.0km/リッター、ステップワゴンが14.8km/リッターだから、少なくともカタログ上は大きなアドバンテージを得た。
モーターで発進し、途中でエンジンがかかって、減速~停止時にエンジンが止まる。一連の動きはトヨタのハイブリッド車に共通するものだ。動力性能は必要にして十分。実用的なトルクに富んでいるから多人数乗車、荷物満載でもそれなりに走るはずだ。走行中、度々繰り返されるエンジン始動の際、始動音には気付くものの、振動は気にならないレベル。トヨタ・ハイブリッド・システムは熟成しきった感がある。90年代の終わりに“エンジンがかかってないのに走りだした&まだ走ってるのにエンジンが止まった”という事象を初体験して感動したものだが、それも今では当たり前になり、新たな刺激を求めてしまう。初体験とはなんでもそういうものなのかもしれない。
走行中、特定の条件がそろうと、クルマ全体がプルプルというかワナワナというか、あまり心地よくない振動がフロアあたりで発生した。速度を変えたり異なる路面でチェックしたり、再現しようといろいろシチュエーションを変えてみたものの、どういう場合にブルブルするのかはっきりとはわからなかった。われわれが感じたのは、3人乗車で小田原厚木道路を流れに沿ったスピードで走っている時だった。走りの面で気になったのはそれくらいで、気に入った点も特にない。実用ミニバンなんだから安全で経済的ならそれでよいと思う。
シートレイアウトに一家言あり
新型のシートの大きな特徴は、3列目を跳ね上げた時に、7人乗り仕様に採用される左右独立した2列目シートを、後ろへ大きくスライドできることだ。通常、7人乗り仕様の2列目シートは、後ろへ大きくスライドさせようにも跳ね上げられた3列目が干渉してしまって難しい。そこで、左右の2列目を中央に寄せ、くっついた状態にできるようにした。これによって、後ろへ大きくスライドさせても跳ね上げられた3列目に干渉しない。これを実現するため、3列目をこれまでより高い位置に、そしてリアクオーターガラスにくっつかんばかりに目いっぱい跳ね上げるよう、リンクが工夫されている。
最も後ろまでスライドさせた2列目に座ってみると、運転席とは途方もなく離れている。だからどうした? と言う人もいるだろうが、アウトドアフィールドに停め、左右のスライドドアを開け放ち、親は車内でくつろぎ、子供は車内外をいったりきたり……といったにぎやかなシーンが思い浮かばないわけでもない。
また、これまで、ミニバンの3列目シートは床下格納タイプのほうがスマートでよいと考えていたが、ヴォクシーのラゲッジ床面の低さ、3列目を跳ね上げてできるラゲッジ空間そのものの広さ、それに床下にも収納スペースがあるのを見て、跳ね上げタイプがなくならないのもわかる気がした。7~8人が狭いと感じることなく乗車できるし、その状態でも荷物がそこそこ入る。反対に3列目を畳んで2列目も前へやればとんでもない空間が広がる。その中間にいく通りもあるシートアレンジによって、貨客の配分は自由自在だ。
フルハイブリッド車にもかかわらず、かさばる駆動用バッテリーをフロントシート下に配置したため、シートアレンジや荷室容量が非ハイブリッド車と変わらないのは立派。スペアタイヤは標準装備されず、修理キットが備わる。この手のクルマのユーザーはパンク=ロードサービスを呼ぶという前提だろう。
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“ストライクゾーン”がよくわかっている
このクルマをクルマ好きが心奪われる“Car”として論じるのはナンセンスだ。だれもこのクルマに走りの楽しさなんて求めていない。車内に楽しい会話が山ほどあるのだから。家族に必要なパーソナル移動手段として見れば、燃費がよくって車内は広く、シートアレンジも多彩だ。
実際の売れ行きを見れば、多くの人がこのクルマを理解し、高く評価していることがわかる。ヴォクシーの2014年4月の販売台数は9271台で3位。トヨタ・プリウスを上回った。顔違いのノアは5412台で7位。足すと1万4683台で、実質、「トヨタ・アクア」を抜いて同月2位に踊り出る。
どうしてたいていノアよりヴォクシーのほうが売れるんだろうかと考えていて、なんとなくある新書の指摘と関連があるのではないかと思った。
近頃話題の『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書、原田曜平著)。この本では、地元愛が強く、イオンやEXILEを好む層を“マイルドヤンキー”と名付け、消費欲が強く、日本の政治、経済に一定の影響力をもつ彼らこそ新保守層の正体だと分析しているのだが、その層がEXILEを聴きながらイオンへどのクルマで向かうかを考えた時、真っ先にヴォクシーが思い浮かんだ。
より厳つい顔をしたヴォクシーのほうがノアより売れるのは、この国のマイルドヤンキーの多さを物語っているのかもしれない。そして、その層にストライクを投げさせたらトヨタの右に出るメーカーはない。
(文=塩見 智。父。塩見 智。/写真=小河原認)
テスト車のデータ
トヨタ・ヴォクシー ハイブリッドV 7人乗り
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4695×1695×1825mm
ホイールベース:2850mm
車重:1620kg
駆動方式:FF
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:99ps(73kW)/5200rpm
エンジン最大トルク:14.5kgm(142Nm)/4000rpm
モーター最高出力:82ps(60kW)
モーター最大トルク:21.1kgm(207Nm)
タイヤ:(前)195/65R15 91S/(後)195/65R15 91S(グッドイヤー・デュラグリップ)
燃費:23.8km/リッター(JC08モード)
価格:305万4857円/テスト車=316万2857円
オプション装備:ワンタッチスイッチ付きパワースライドドア デュアル(両側)(5万9400円)/SRSサイドエアバッグ(運転席・助手席)+SRSカーテンシールドエアバッグ(フロント・セカンド・サードシート)(4万8600円)
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:915km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:357.1km
使用燃料:23.6リッター
参考燃費:15.1km/リッター(満タン法)/15.7km/リッター(車載燃費計計測値)

塩見 智
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