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ケータハム・セブン160(FR/5MT)

“軽さ”こそがすべて 2014.06.24 試乗記 下野 康史 スズキ製のパワートレインを搭載した“黄色ナンバー”の「ケータハム・セブン160」に試乗。車両重量490kg(!)というスーパーライトな最新モデルに、ライトウェイトスポーツの本分を見た。

かつてないコンパクト感

「スーパーセブン160」で高速道路を走っているとき、前方で事故があった。路上に破片が散乱している。それを注意しながらよけて進むと、渋滞で完全に止まった。フト、横を見ると、道路脇のフェンスが少し開いていた。このクルマなら入っていける。ETCが付いていないのがかえって幸いだ。左折して高速道路から出ると、そこはあぜ道のような狭い一本道で、やがて行き止まりになった。ヤバイ。でも、下に降りるハシゴがある。クルマをショルダーバッグのように肩から下げていけば大丈夫だ……。

そんな夢をスーパーセブン160に乗って帰った晩に見た。昔からすごく現実的で具体的な夢を見るタチなのだ。低い地上高に気を使ったこと、高速道路が集中工事で渋滞していたこと、発表以来、貸し出しの予約が引きも切らず、試乗車にはまだETC車載機が付いていなかったこと、半日乗っただけで、いまだかつてスーパーセブンに感じたことがないコンパクト感を覚えたこと、といった事実がその夢にもちゃんと入っていた。

“160”は軽登録のスーパーセブンである。ボディー全長はもともと枠内だが、フェンダーやタイヤを細くして軽の全幅枠に収め、エンジンをはじめとするランニングコンポーネンツはスズキの軽自動車用を調達した。部品は50セットずつコンテナに詰めて静岡県のスズキ磐田工場からケータハムへ送られる。まさかの日英合作スーパーセブンである。

スズキ製のエンジンを搭載した「ケータハム・セブン160」。排気量660cc、全長×全幅×全高=3100×1470×1090mmということで、“黄色ナンバー”で走らせることができる。
スズキ製のエンジンを搭載した「ケータハム・セブン160」。排気量660cc、全長×全幅×全高=3100×1470×1090mmということで、“黄色ナンバー”で走らせることができる。
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必要な計器やスイッチ類をならべただけの極めてシンプルなインパネまわり。ウインカーは中央のトグルスイッチで、ワイパーはその上のスイッチで操作する。
必要な計器やスイッチ類をならべただけの極めてシンプルなインパネまわり。ウインカーは中央のトグルスイッチで、ワイパーはその上のスイッチで操作する。
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乗車スペースは極めてタイト。ドライバーはサイドシルとセンターコンソールに手をついて乗り込み、ダッシュボードの下に足を差し込みながら腰を下ろさなければいけない。
乗車スペースは極めてタイト。ドライバーはサイドシルとセンターコンソールに手をついて乗り込み、ダッシュボードの下に足を差し込みながら腰を下ろさなければいけない。
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ケータハム セブン の中古車

軽とは思えぬ動力性能

160に搭載されるエンジンは、スズキの軽に広く使われている“K6A”。後輪を駆動する縦置きレイアウトだから、基本、「ジムニー」の658cc 3気筒ターボといっていい。
それをベースにECUとインタークーラーをケータハムオリジナルに換えた結果、64psから大幅アップの80psを得ている。エッ、64psって、軽自動車の最高出力の上限では? と思われるかもしれないが、軽の規格はボディーサイズとエンジン排気量のみである。64psはあくまで国産メーカーの自主規制値。輸入車のスーパーセブンではなんら問題にならなかったという。

軽のエンジンといっても、2割増強の80ps。しかもネイキッドスポーツカー、スーパーセブンの真骨頂は“軽量”である。160の車重はたったの490kg。0-100km/h=6.9秒というカタログ値を持ち出すまでもなく、動力性能におよそ不満はない。
軽くスタートをきっても十分速いし、ローで4000rpmも回せば、交通の流れを置き去りにできる。パワーだけでなく、マナーも含めて、薄いアルミフードの中身が軽のエンジンとは思えない。知らなければ、たかだか658ccとも、3気筒とも言い当てられないはずだ。つまり、まごうかたなき「スーパーセブンのエンジン」になり得ている。

いや、ひとつだけ軽ユニットであることを実感したことがある。燃費だ。約310kmを走って、21.1km/リッターという経済性を記録したのである。ハイオク仕様になるのは残念だが、これはおそらく最も燃費のいいガイシャだろう。

490kgという車重の軽さもあって、動力性能に不足はなし。0-100km/h加速は6.9秒、最高速は160km/hと公表される。
490kgという車重の軽さもあって、動力性能に不足はなし。0-100km/h加速は6.9秒、最高速は160km/hと公表される。
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エンジンは0.66リッター直3ターボの「K6A」。ケータハム独自のチューニングにより、80psに最高出力を高めている。
エンジンは0.66リッター直3ターボの「K6A」。ケータハム独自のチューニングにより、80psに最高出力を高めている。
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トランスミッションは「ジムニー」と共通の5段MT。ゴリゴリとした手応えと、ショートストロークが特徴。
トランスミッションは「ジムニー」と共通の5段MT。ゴリゴリとした手応えと、ショートストロークが特徴。
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まごうかたなき「セブン」の走り

14インチの鉄チンホイールに履くタイヤは、前後とも155/65。160のひとつ上、「セブン250」の185/60と比べても、だいぶかぼそい。さらにリアサスペンションはダブルウィッシュボーンではなく、コイルスプリングでつったリジッド。軽ワンボックス「エブリイ」用のリアアクスルを使う。

だが、その操縦性はやはりまごうかたなきスーパーセブンである。細いタイヤと固定軸の組み合わせだから、限界はそう高くない。しかしそう高くない限界付近を“楽しめる”のがすばらしい。タイトコーナーを攻めると、回転差の帳尻が合わなくなった内側後輪からたまにスキール音が出る。そんな音を聴くのも久しぶりだ。

ステアリングはエアバッグなしのモモ。28cmと超小径のせいもあって、反応はクイックだ。けれども、操舵(そうだ)してから利くまでにわずかなディレイがある。それは後ろ乗りでロングノーズというスーパーセブンの特徴なのだが、タイヤの細い160はそのタイムラグが大きい。「舵が、遅れて、きくよ」(いっこく堂の声色で)という感じ。“軽自動車化”のネガを挙げるとすれば、唯一そのあたりだろうか。

上りのワインディングロードでも80psは十分である。エンジンはよく粘り、3速に入れっぱなしで快走できる。ギアを1段落とせば、急な上り坂でもバイクのように軽々とスピードを上げる。異次元のライトウェイトを実感する瞬間だ。

タイヤサイズは前後とも155/65R14。イギリスのタイヤメーカー、エイヴォンの「ZT5」を純正装着している。
タイヤサイズは前後とも155/65R14。イギリスのタイヤメーカー、エイヴォンの「ZT5」を純正装着している。
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ブレーキは前がディスク式(ソリッド)、後ろがドラム式の組み合わせ。ノンアシストなので、しっかりとペダルを踏みつける必要がある。
ブレーキは前がディスク式(ソリッド)、後ろがドラム式の組み合わせ。ノンアシストなので、しっかりとペダルを踏みつける必要がある。
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オプション装備のドアは、サイドシルに肘を乗せられるよう、外側にふくらんだ形状となっている。昔の「スーパーセブン」にはこんな工夫はなかった。快適になったものである。
オプション装備のドアは、サイドシルに肘を乗せられるよう、外側にふくらんだ形状となっている。昔の「スーパーセブン」にはこんな工夫はなかった。快適になったものである。
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わかった人だけ乗ってほしい

ひところのケータハムは、パワーウエイトレシオ(馬力荷重)の数値を小さくすることに血道をあげていた。その当時の一台で信号からちょっと回転を上げて発進したことがある。その場で横を向きそうになった。もともと軽さで走るクルマに、これでもかこれでもかとパワフルなエンジンを載せるのは悪趣味だと思う。ライトウェイトスポーツカーは、パワーではなく、ライトウェイトで走ってこそである。

その意味で、160はまさに原点回帰のスーパーセブンである。ばか力ではなく、軽さで走る。しかも、エンジンやパワートレインは 信頼の日本製。実際こんなに扱いやすく、リラックスして乗れるスーパーセブンは初めてである。超オタク系のネイキッドスポーツカーが、日本語をしゃべるようになったのだ。

ただし、本質は何も変わっていない。イギリス本国のスーパーセブンは、今でも半分がキット販売される。日本仕様の完成車でも“素”の状態ではヒーターもフロントウィンドウも付いていない。クーラーはオプション設定すらない。手厚いセーフティーデバイスとも無縁だ。安全性はドライバーの自己責任である。だから、単にイエローナンバーという“引き”だけで手を出すと、後悔するかもしれない。あくまで“わかった人”に乗ってもらいたいクルマである。
すでにスゴいスーパーセブンを持っている人の“ふだん乗り”にまずはお薦めしたい。

(文=下野康史<かばたやすし>/写真=荒川正幸)

「セブン160」のサスペンションは、前がダブルウィッシュボーン、後ろがリジッドアクスルの組み合わせ。
「セブン160」のサスペンションは、前がダブルウィッシュボーン、後ろがリジッドアクスルの組み合わせ。
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シートの座面はフロアと干渉しているようで、裏側にはスライド時に擦れた傷が見られた。日本車ならクレームものだが、バックヤードビルダーが作った手作りのクルマと思えば、こんなところも許せてしまうから不思議だ。
シートの座面はフロアと干渉しているようで、裏側にはスライド時に擦れた傷が見られた。日本車ならクレームものだが、バックヤードビルダーが作った手作りのクルマと思えば、こんなところも許せてしまうから不思議だ。
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「CATERHAM」の文字があしらわれたフューエルキャップ。古い英国車によく見られた、キー(イグニッションキーとは別に用意されている)を差して取り外すタイプだ。
「CATERHAM」の文字があしらわれたフューエルキャップ。古い英国車によく見られた、キー(イグニッションキーとは別に用意されている)を差して取り外すタイプだ。
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テスト車のデータ

ケータハム・セブン160

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3100×1470×1090mm
ホイールベース:2225mm
車重:490kg
駆動方式:FR
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:5段MT
最高出力:80ps(59kW)/5500rpm
最大トルク:10.9kgm(107Nm)/3400rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75T/(後)155/65R14 75T(エイヴォンZT5)
燃費:--
価格:394万2000円/テスト車=431万9700円
オプション装備:ウインドスクリーン+ソフトトップ&ドア(23万7000円)/レザーシート(8万5100円)/ヒーター(5万5600円)

テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:4370km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:310.0km
使用燃料:14.7リッター
参考燃費:21.1km/リッター(満タン法)
 

ケータハム・セブン160
ケータハム・セブン160
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下野 康史

下野 康史

自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。

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