マツダ・デミオXDツーリング Lパッケージ(FF/6AT)/13S Lパッケージ(FF/5MT)/13S(FF/6AT)
4代目はプレミアム 2014.09.26 試乗記 4代目となる新型「デミオ」がいよいよ公道に踊り出た。舞台は箱根のワインディングロード、力感に満ちた「魂動(こどう)」デザインをまとった新型は、いったいどんな走りを見せるのだろうか。注目の1.5ディーゼル、そして1.3ガソリンの両方に試乗した。攻めのモデルチェンジ
「クラス概念を打ち破る」というのが新型「デミオ」の開発テーマである。
その中核が、国産Bセグメント初のクリーンディーゼル搭載だ。「CX-5」で大成功している2.2リッター4気筒ターボを1.5リッターにスケールダウンし、1.3リッター直噴4気筒ガソリンエンジンとの二本立てとした。販売比率も半々になるとマツダは見込んでいる。少し前まで、世界に冠たるディーゼル嫌いだった国の国産コンパクトに大変革をもたらす、たしかにクラス概念を超えたチャレンジといえる。
変速機の主力は、CVTから6段ATに代わった。一方、MTも健在で、ディーゼル用にはアテンザ同様、6段MTが用意される。エコカーだと最初から切り捨てられることが多いMT党にも手厚い。さすが“Be a driver.”のマツダである。
新しい専用プラットフォーム(車台)の採用で、ホイールベースは8cm延び、ボディー全長も16cm大きくなった。そのプラス分はスペース拡大よりも、もっぱら「魂動」デザインの実現に使われたようだ。いちばん数の出るコンパクトクラスの外観を、ここまで上位モデルと共通のイメージにするとは、日本車としては珍しい。
そのほか、細かいところで言うと、ハーフレザーシートや、ヘッドアップディスプレイや、切削アルミホイールといったオプションも、クラス概念を超えた装備といえる。
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底力も伸びもある1.5D
105分ひとコマに2台借り出せるセッションが2回という新型デミオ初の公道試乗会で、ディーゼルのATと、ガソリンのMT/ATの3種類を試した。台数の少なかったディーゼルMTは人気殺到で、乗りこぼす。
最初に乗ったのは、ディーゼルのAT。「XDツーリング Lパッケージ」という上級モデルで、税込みの本体価格は200万円ちょっと。同グレードのガソリンモデルより30万円ほど高い。
試乗基地は箱根花月園ホテル。2年半前、CX-5ディーゼルの試乗会もここで開かれた。デミオ・ディーゼルで走りだすと、ホテルの敷地内を動いただけで「これがディーゼル!?」とタマげたCX-5ほどの感動はなかった。
エンジンをかけ、アイドリングからブリッピングしたときの吹け上がりと滑らかさはCX-5の2.2リッター以上だ。しかし、Dレンジに入れて動き出すと、ディーゼルである。うるさいというほどではないが、“ディーゼル感”はある。踏めばグワッと反応するが、ディーゼルのうなりも伴う。
ガソリン2.5リッター並のトルクという謳(うた)い文句は大げさではなく、力はある。停留所で止まっているバスを追い越すようなときの瞬発力は、2.5リッター級の大型車以上かもしれない。その一方、5000rpmを超すトップエンドでも、力はさして衰えない。かつて経験したことのあるフィアットやプジョー/シトロエンの1.3~1.6リッター級クリーンディーゼルにも、こんなに回しがいのあるエンジンは見当たらない。
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ベスト・デミオはどれ?
今回のような複数台数短期集中型の試乗会では、インプレッションがどうしても直前に乗ったクルマに引っ張られる。XDの次にガソリンの「13S Lパッケージ」(5段MT)に乗ると、力がないなあと思った。逆に言うとそれだけ1.5リッターターボディーゼルがトルクフルだったのだ。
しかし、ガソリンデミオに慣れてから、同じ13SのATに乗り換えると、爽やかな軽快感に好感を覚える。
ガソリン仕様のアドバンテージは、軽量である。今回乗った4台で比べると、ディーゼルより100~120kg軽い。1トンそこそこのオーダーで、この差は大きい。しかもそれはほとんど前輪荷重の差である。ステアリングを切り込んだ時の身のこなしはガソリンのほうが明らかに軽い。
デミオ初の6段ATもこの1.3リッター4気筒に合っている。セレクター近くに付くスイッチでシフトマップをSPORTにすることもできるが、ノーマルでも変速は素早く、92psのパワーを無駄なく紡ぎ出してくれる。トップエンドは、MTで引っ張ったときよりもむしろ力強く感じた。
試乗車にパドルは付いていなかったが、剛性感のあるセレクターを前後にマニュアルシフトすれば、MTに負けず劣らず楽しめる。そんなスポーティーなことをやらなくても、あらためて、よくできたトルクコンバーター式ATはいいなあと思った。CVTのようなイッパイイッパイ感がない。運転フィールが、なんというか、豊かになる。13SのATがこの日のベスト・デミオだった。
ひとクラス上へ
最後にもう一度、XDに乗った。13Sから乗り換えたのに、この日最初にXDに乗ったときほどディーゼルっぽさが気にならなかった。ガソリンデミオの直後に乗っても、その程度の差ということか。
ただ、ハンドルにディーゼルのごく細かい振動が伝わるのは、操舵(そうだ)品質の点で残念だ。エンジニアに確認したところ、ガソリン車のステアリング取り付け部にはゴムブッシュを入れているが、ディーゼルはリジッドマウントにした、そのせいではないかと説明された。ノーズヘビーでも操舵感のスポーティーさを確保しようとした対策のネガということだろうか。
だが、総合的な印象を言えば、新型デミオは先代よりひとクラス上のクルマになった。Lパッケージに付いてくるハーフレザーシートは、オシャレな見かけ倒しではない。点ではなく面で体を支えてくれる座り心地も脱国産コンパクト的で、メルセデスのシートを彷彿(ほうふつ)させる。
このクラスだと、プレスでパッコンパッコンつくっているんだろうなあと思わせることが多いダッシュボードまわりの内装も、デミオはデザインや素材の工夫で新境地を開いている。変速レバーのまわりを囲むシルバーの枠は、エンジニアに聞くまで、てっきりアルミと騙(だま)されていた。プラの塗りでも、触ったときのヒンヤリ感まで再現したという。
「第三のエコカー」で一点突破を狙った先代デミオのデビュー当時を思い起こすと、新型はカラフルで盛りだくさんだ。デミオがプレミアムになったのである。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=小林俊樹)
テスト車のデータ
マツダ・デミオXDツーリング Lパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4060×1695×1500mm
ホイールベース:2570mm
車重:1130kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:105ps(77kW)/4000rpm
最大トルク:25.5kgm(250Nm)/1500-2500rpm
タイヤ:(前)185/60R16 86H/(後)185/60R16 86H(トーヨー・プロクセスR39)
燃費:26.6km/リッター(JC08モード)
価格:203万400円/テスト車=221万4000円
オプション装備:セーフティーパッケージ(ブラインド・スポット・モニタリング<BSM>+ハイ・ビーム・コントロールシステム<HBC>+車線逸脱警報システム<LDWS>)(8万6400円)/CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー(フルセグ)(3万2400円)/i-ELOOP(6万4800円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:2228km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
マツダ・デミオ13S Lパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4060×1695×1500mm
ホイールベース:2570mm
車重:1010kg
駆動方式:FF
エンジン:1.3リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:5段MT
最高出力:92ps(68kW)/6000rpm
最大トルク:12.3kgm(121Nm)/4000rpm
タイヤ:(前)185/65R15 88S/(後)185/65R15 88S(ヨコハマ・ブルーアースA)
燃費:21.8km/リッター(JC08モード)
価格:179万2800円/テスト車=182万5200円
オプション装備:CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー(フルセグ)(3万2400円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:2167km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
マツダ・デミオ13S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4060×1695×1500mm
ホイールベース:2570mm
車重:1030kg
駆動方式:FF
エンジン:1.3リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:92ps(68kW)/6000rpm
最大トルク:12.3kgm(121Nm)/4000rpm
タイヤ:(前)185/65R15 88S/(後)185/65R15 88S(ヨコハマ・ブルーアースA)
燃費:24.6km/リッター(JC08モード)
価格:145万8000円/テスト車=164万7000円
オプション装備:LEDコンフォートパッケージ(LEDヘッドランプ+アドバンストキーレスエントリーシステム+オートライトシステム+レインセンサーワイパー+フルオートエアコン)(8万6400円)/スポーティーパッケージ(185/65R15 88Sタイヤ&15×5 1/2Jインチアルミホイール+ステアリング/シフトノブ/パーキングブレーキレバー本革巻き)(7万200円)/CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー(フルセグ)(3万2400円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1990km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。