マツダ・デミオ15MB(FF/6MT)
引き算が絶妙 2016.03.29 試乗記 マツダが「デミオ」に設定している「15MB」というグレードは、モータースポーツへの参加を想定した競技向けのベース車両である。しかし、モータースポーツに参加する予定がない人にも、大いに薦めたいモデルだ。その理由は……。箱根のワインディングロードを目指した。草の根モータースポーツのベースモデル
シュルン、と軽快敏しょうに走りだすその感覚は近ごろとんとご無沙汰していたものだ。何しろコンパクトボディーに自然吸気エンジンと6段MTを積んだ奇をてらわないFWD(前輪駆動)ハッチバックなど、今時なかなかお目にかかれない。物理的にも感覚的にも余計な装飾品で“盛られて”いない、そのすがすがしい簡潔さは若い人には新鮮に受け止められるだろうが、私にとってはむしろ懐かしく体になじむ。かつて、例えば「スターレット」やAE86という型式名で知られた「レビン/トレノ」、あるいは2/3代目「シビック」など、量産ベーシックカーを土台にほんの少し辛みをきかせた手ごろな価格のスポーティーモデルが妍(けん)を競ったあの頃を思い起こさせるのである。もちろん、その軽快感は安手な印象を与えるものではなく、当時の車よりはるかに洗練されているのはいうまでもない。これは茶道で言う「麁粗(そそう)に作る」という姿勢に近いのかもしれない、と思った。茶室の造作はさりげなく気取らずに(ぜいを尽くしたと見えては無粋)、しかしその実入念に精緻に作るという、あの心構えのことである。
デミオ15MBは、2015年秋にワンメイクレース用の「ロードスターNR-A」とともに発売された現行デミオの追加モデルで、ラリーやジムカーナ、ダートトライアルなどの競技に使用する車両のベースモデルとして使われることを想定したもの。ベーシックカテゴリーのモータースポーツを盛り上げたいという狙いを持つモータースポーツ・ベースグレードである。シンプル、ベーシックを旨としていることは疑いないが、とはいえ、モータースポーツ・ベース車両という言葉から想像されるようなスパルタンなモデルではない。内装や遮音材なども省いた、かつての“タイプR”のような、やる気むき出しの硬派モデルとは違う。目指すところは、日常使用でも実用性高く、イベント会場までの往復にも気軽に使える、いわゆるナンバー付き競技車両である。ということは、キメすぎない、やり過ぎない、その抑え具合が肝心。ちょうどいい“距離感”を保つということが実は難しい。メーカー主導の場合、どうしてもあれもこれもと盛り込みがちだが、デミオ15MBの場合は、どこを省いてどこを残すかという引き算のあんばいが適切といえるだろう。
身構えることなく乗れる
1.5リッター4気筒直噴DOHCミラーサイクルエンジン(P5-VPS型)は、116ps(85kW)/6000rpmと、148Nm(15.1kgm)/4000rpmというスペックを持つ。これまでデミオのガソリンモデルは1.3リッター版に限られていたが、もともと輸出仕様にはスカイアクティブ・ガソリン1.5リッター+6MTのデミオが用意されていた。この1.5リッターエンジンはロードスターのP5VP(RS)型(131ps/7000rpm、150Nm/4800rpm)や「アクセラ」用と同じボア・ストロークを持つ、いわば同じファミリーだが、高回転・高出力型のロードスター用に比べてよりトルク重視型であり、アクセラ用とも仕様が若干異なる(アクセラはレギュラー仕様で圧縮比13.0、デミオは14.0)。
当然、ピークパワーを追求してチューンしたものではないが、1.3リッターモデルよりむしろ軽いぐらいの1010kgの車重に上記のパワーだから走れば俊敏そのもので、街中でも非常に扱いやすい。踏めばストレスなくスムーズに吹け上がるいっぽう、普段使いでの燃費も考慮されており、アイドリングストップも充電制御も備わっている。ただし、この15MBのみ無鉛プレミアム仕様となる。
足まわりもガチガチのレスポンス最優先どころか、十分に滑らかで快適、デミオの中でも上位に入る。なぜか80km/hぐらいで走る場合のみ、スムーズにストロークしていないような突き上げ感があったが、不満に感じるほどではないし、この車の場合は後からお好きなようにモディファイしてくださいという余地があるのがむしろうれしい。
メーカーの仕事
モータースポーツ向けとはいっても、そもそもベーシックカテゴリー用だから、15MBに最初から備わる特別装備はほとんどない。フロントのブレーキディスク径が1.3リッターモデルの13インチから14インチへ、リアのドラムも7から8インチ径へアップグレードされたことと、LEDヘッドライトやサイドエアバッグなどを省いて若干軽量化を図り、車重を1000kgに抑えたことぐらい。それ以外のボディー、サスペンション等は1.3リッターモデルと変わらない。車重については、例えば改造範囲が狭いナンバー付き車両で競われるジムカーナのPNクラスではカタログ記載値が最低重量となることに配慮したものだろう。ただし、分割可倒式リアシートバックやCDプレーヤー、185/60R16タイヤなどからなる「ユーティリティパッケージ」(6万4800円)を備えると1010kgとなる。
ところで全日本選手権や地方選手権など公認競技には基本的にJAFに登録した車両のみが出場できるが、最近はモータースポーツに適したベースモデルが少なく、かつて活躍したモデルも期限切れで公認イベントに参加できなくなってきている。それゆえJAFに登録済みのデミオ15MBは貴重な存在だ。ちなみに海外での使用は考えていないためにFIAのホモロゲーションは取得していないという。また、マツダ本体によるロールケージなどのパーツ供給も予定していないというが、これは実に賢明な方針だといえる。とりわけベーシックな分野では、一から十までメーカーがシナリオを書いてしまうのは良策とはいえない。裾野を広げるためにも、カスタマーに裁量範囲を残しておくことが肝要だ。メーカーは手と口を出し過ぎず、支える立場に徹した方が良い結果をもたらすことは明らかなのだが、これがなかなかできない。その意味でもマツダはやはり分かっているということだ。
もう一度走ってみる?
自分でモータースポーツに参加するなんてとても考えられない、という人でも、乗ればこの15MBにひかれるはずだ。他のデミオとは違ってヘッドアップディスプレイやナビゲーションなどが備わらず(もうスマホでいいじゃないか)、エアコンもマニュアルだが、実用上はまったく問題はないし、繰り返すがむしろ簡潔で新鮮である。それでいて決して安っぽい印象を与えないのは、素材や操作感がきちんと吟味されているからだろう。機敏にすがすがしく走るデミオは燃費もかなり優秀(満タン法で17.2km/リッター、JC08モードでは19.2km/リッター)で、基本仕様の価格は150万1200円。といっているうちに、何だか15MBがベストデミオのように思えてきた。
別に今すぐラリーに出るつもりはないけれど、そのうち考えるなら最低限何が必要か、などと早くも思いを巡らせている自分がいる。“リターンラリースト”になることを想像するだけで胸の奥にポッと火がともるのだから、ここはまんまとマツダの術中にはまってみるのもいいかもしれない。そうそう、この車なら家族に言い訳する必要もありません。
(文=高平高輝/写真=小林俊樹)
テスト車のデータ
マツダ・デミオ15MB
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4060×1695×1500mm
ホイールベース:2570mm
車重:1010kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:116ps(85kW)/6000rpm
最大トルク:15.1kgm(148Nm)/4000rpm
タイヤ:(前)185/60R16 86H/(後)185/60R16 86H(トーヨー・プロクセスR39)
燃費:19.2km/リッター(JC08モード)
価格:150万1200円/テスト車=160万9200円
オプション装備:特別塗装色(ソウルレッドプレミアムメタリック)(4万3200円)/ユーティリティパッケージ(ダークティンテッドガラス<リアドア/リアゲート>、リアシート6:4分割可倒式シートバック、CDプレーヤー、185/60R16 86Hタイヤ&16×5 1/2Jアルミホイール)(6万4800円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:3459km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:229.0km
使用燃料:13.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:17.2km/リッター(満タン法)/16.6km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
-
DS N°8エトワールAWD(4WD)【試乗記】 2026.5.28 前衛を身上とするフランスのラグジュアリーブランド、DSオートモビルから、新たなハイエンドモデル「DS N°8(ナンバーエイト)」が登場。当代屈指の性能を誇る電気自動車であり、かの地では大統領専用車にも選ばれる一台の、独創の魅力に触れた。
-
メルセデスAMG GLC53 4MATIC+(4WD/9AT)【海外試乗記】 2026.5.27 「メルセデス・ベンツGLC」にスポーティーな「メルセデスAMG GLC53 4MATIC+」が仲間入り。「43」と「63」の中間、AMGとしては松竹梅の竹にあたるモデルだが、今後はそのポジションの重要性がさらに増すことになるという。本国ドイツでドライブした印象をリポートする。
-
マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R(FR/6MT)【試乗記】 2026.5.26 販売台数わずか200台の限定車「マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R」に試乗。スーパー耐久レース参戦をはじめとするマツダのモータースポーツ活動を担うサブブランドが生み出した初の市販コンプリートカーは、いかなる走りをみせるのか。
-
アウディQ6スポーツバックe-tronクワトロ アドバンスト(4WD)【試乗記】 2026.5.25 アウディの電気自動車(BEV)「Q6スポーツバックe-tron」で、東京・渋谷と静岡・裾野を往復。雨のなかでエアコンを効かせ、高速や峠道を遠慮なく走らせるハードユースに、最新のBEVはどう応えてくれたのか? そこで感じた“本音”をリポートする。
-
日産リーフAUTECH B7(FWD)【試乗記】 2026.5.23 新型「日産リーフ」にもおなじみの「AUTECH」が仲間入り。デザインや質感などの上質さを目指した大人のカスタマイズモデルだが、走りの質感がアップしたと評判の新型リーフとは、さぞ相性がいいに違いない。300km余りをドライブした。
-
NEW
つまずきを糧に成功をつかみ取れ! 新型「CX-5」に宿るマツダの変革と覚悟
2026.5.29デイリーコラム既存のマツダ車とは一線を画す乗り味で、メディアをおどろかせた新型「マツダCX-5」。マツダの最量販車種は、なぜ3代目で大転換を迫られたのか? 賛否両論を巻き起こした“あのクルマ”との関係は? 新しくなったCX-5に宿る、マツダの覚悟と変革に迫る。 -
NEW
キャデラック・リリックV(4WD)【試乗記】
2026.5.29試乗記キャデラック初の電気自動車(BEV)「リリック」に、最高出力646PSのハイパフォーマンスモデル「リリックV」が登場。“ブランド史上最速”をうたう豪速SUVだが、実際に乗ってみると、高い動力性能がもたらすゆとりや心地よさにも魅力を感じる一台となっていた。 -
DS N°8エトワールAWD(4WD)【試乗記】
2026.5.28試乗記前衛を身上とするフランスのラグジュアリーブランド、DSオートモビルから、新たなハイエンドモデル「DS N°8(ナンバーエイト)」が登場。当代屈指の性能を誇る電気自動車であり、かの地では大統領専用車にも選ばれる一台の、独創の魅力に触れた。 -
「日産テラノ」がPHEVで復活 往年のビッグネームを継承するSUVの特徴を分析する
2026.5.28デイリーコラム日産自動車が「北京モーターショー2026」で、往年のビッグネームを継承する新型SUV「テラノPHEVコンセプト」を世界初公開した。初代「テラノ」で採用された「3スロット」を想起させる車両のデザインに加え、日産が新型テラノで狙うグローバル戦略に迫る。 -
第963回:ベスパで家族円満! ローカルイベントをのぞいてみた
2026.5.28マッキナ あらモーダ!2026年は「ベスパ」の誕生80周年! 地元イタリアでは、各地で記念イベントが催されている。そのひとつである「キャンティ&ヴェルナッチャ100km」を、現地在住の大矢アキオがリポート。イタリアならでは、ベスパならではのファンの交流に触れた。 -
第871回:今年もグリーンヘルは熱かった! ニュルブルクリンク24時間レース観戦記
2026.5.27エディターから一言“世界一過酷な草レース”として知られ、今年も波乱が巻き起こったニュルブルクリンク24時間レース。F1王者のフェルスタッペンも参戦するとあって、大いに盛り上がったその様子を、世界を飛び回るモータースポーツカメラマンが臨場感満点でリポートする。






























