第8回:圏央道開通!! ただし7割(その7)
都心を経由するクルマはホントに減少しているのか
2014.10.10
矢貫 隆の現場が俺を呼んでいる!?
新たに開通した区間を走ってみると
高尾山トンネルを抜けると、そこから先、相模原愛川ICまでの14.8kmの区間は取材日の1週間前(6月28日)に開通したばかりだけあって、いかにも新品、そして何より、いかにも1種2級(高速道路・設計速度100km/h)の高規格道路らしい、見栄えからして立派な道になっていた。
鶴ヶ島JCTからこの地点に至るまでずっと思っていたのだけれど、圏央道、いざ走ってみると、想像していたよりはるかに交通量が多いのである。平日だというのに乗用車やら観光バスやらがたくさん走っていて、逆に、多いと予想していた大型トラックの姿が、拍子抜けするくらい少なかった。
“そもそも”を言いだせば、第3回で書いたとおり、圏央道は、50年以上も前、池田内閣時代の全国総合開発計画を基にする産業道路である。それから時代は移り、しかし、それでも「3環状9放射ネットワーク」だとか、後述するけれど「都心経由から圏央道経由への転換」だとか、ことあるごとに圏央道建設の意義を国などはいってきたわけだ。すると、その言葉を聞かされてきたわれわれは、当然のごとく、圏央道って大型トラックがたくさん走るんだよね、と思う。少なくとも、俺はそう思い込んでいた。だからこそ、圏央道を走ってみて、あれ~ッ、大型トラック、あんまり走ってないんだね、と、拍子抜けしてしまうわけなのである。
新たな区間が開通(高尾山IC~相模原愛川IC)したことで、圏央道はますます存在意義を高めています、みたいな資料を国交省とNEXCO中日本が記者発表資料としてだしているけれど、そのなかに「都心を通らず、目的地へ」のデータが示されていた。
「圏央道がつながっていない現状では、首都高速や環状8号線など、都心経由が約9割。このため、都心部では慢性的な渋滞が発生。大型車が規格の高い道路を利用せず、さまざまな道路に高い負荷」という調子で圏央道の必要性を説き、資料はさらに、都心を経由している9割の車両のうち、「68%が大型車」だとの数字を示していた。
ふ~む、9割も都心を経由していたとなると、しかも、そのうちの7割弱が大型車ということであれば、今回の開通で、さぞかし大型車の迂回(うかい)路として圏央道は大活躍となるわけなのだな、と、資料を示されたわれわれは素直に思う。
それなのに……なのである。
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大型トラックはどこへ
それなのに、なんで大型トラックの姿が少ないのか不思議ではないか。
なぜ?
われわれが圏央道を走った時間帯に限って、たまたまそうだった、という可能性は確かにあるかもしれない。けれど、別の可能性として、そもそも、都心経由車両そのものの絶対数が少ないのだ、とも考えられはしまいか。
で、実際のところ、経由車両って、いったいどれくらいの数なのか?
その疑問に応えてくれる資料は、ない。いや、本当はあるのだろうけれど、記者発表の資料にはでてこないし、あれやこれやと探しても見つからないのである。
で、俺としては意地になってしまい、必死に探すわけである。必ずどっかにあるはずだ、と。そして、10年くらい前に、出どころ不確かな交通実態調査の数字があったのを思いだして引っ張りだしてみた。そこには、こう書いてあった。
「一日に都区内を移動する自動車の数はおよそ660万台。そのうちの、都心を通過していくだけの車両(=通過交通)は2万~5万台」
2万~5万って、ずいぶんアバウトなこの数字が意味しているのは、要するに、正確な数字はよくわからない、ということなのだろうと思う。そして同時に、通過交通車両って、実は、あんまり多くないんじゃないか、と思えてくる。だから、先の「9割」が圏央道を走るようになっても、見ようによっては「大勢に影響ないんじゃないか」と言えなくもないような気がしてしまうのは、俺だけ?
とにかく、圏央道で大型トラックをあまり見かけなかった理由は、こういうことだったのかもしれない、と思う俺なのだった。
(つづく)
(文=矢貫 隆)

矢貫 隆
1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。現在『CAR GRAPHIC』誌で「矢貫 隆のニッポンジドウシャ奇譚」を連載中。『自殺―生き残りの証言』(文春文庫)、『刑場に消ゆ』(文藝春秋)、『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。
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