伝統を継ぐということ(前編)
伝統を継ぐということ(前編) 2014.10.09 新型「スカイライン」命名の地を駆ける 日産スカイライン200GT-t Type SP(FR/7AT)/スカイライン350GT ハイブリッド Type SP(FR/7AT)13代の歴史を数え、今や日産を代表する伝統のセダンとなった「スカイライン」。最新モデルの実力をはかるべく、ターボとハイブリッドの両モデルとともに草津白根山のワインディングロードを目指した。
1957年の最先端モデル
日本の自動車産業が成長の途上にあった1957年、画期的な小型乗用車「プリンス・スカイライン」が誕生した。セミモノコックボディーで、サスペンションはフロントにダブルウィッシュボーン、リアには日本の量産車初となるド・ディオンアクスルを採用していた。1.5リッターの4気筒OHVエンジンは60psと強力で、最高速度は国産車トップの125km/hに達した。テールフィンを取り入れたアメリカンスタイルは、当時の流行をいち早く取り入れている。発表会は東京・日比谷の宝塚劇場で歌謡ショーの形をとって行われ、人気歌手のペギー葉山やザ・ピーナッツが華を添えた。
プリンスと日産が合併した後も作り続けられ、57年を経た今年2014年、13代目のV37型が発売された。今や歴史と伝統を持つ、日産を代表するモデルとなっているのだ。同時に最新の技術を採用するクルマでもある。開発者の言葉の中には、「最先端のクルマ」と「正統派のセダン」という相反する定義が出てきて、開発に課せられたテーマのレベルの高さがよくわかる。スカイラインは、伝統と革新をともに担うことが宿命づけられている。
2月に発売されたのは、3.5リッターV6エンジンにモーターを組み合わせたハイブリッドモデルだった。6月になって2リッター直4ターボエンジンを搭載したモデルが加わり、ラインナップが完成した。どちらも、最先端の技術が盛り込まれているのは同じだ。そこに表れた“スカイラインらしさ”とは何かを探るため、2台を連ねてゆかりの地を訪ねることにした。向かったのは、群馬県の横手山と白根山の間に位置する渋峠である。
変化するもの 受け継がれるもの
先に乗ったのは、“次世代ターボ”と銘打たれた「200GT-t Type SP」である。次世代を名乗っているのは、これが高出力とともに低燃費を追求したエンジンだからだ。このところヨーロッパ車で主流になっているダウンサイジングの考え方にのっとっている。考え方どころか、そもそもこのエンジンはダイムラーで開発されたものだ。2010年にルノー・日産アライアンスとダイムラーの間にかわされた戦略的提携の中にある「パワートレインの共有化」という項目が、スカイラインで実現されたわけである。
6気筒のイメージが強いスカイラインではあるが、この4気筒ターボは力強さにおいてまったく不満のないものであることはすぐにわかった。ごく低回転のうちからしっかりとしたトルクが生み出され、街なかで気持ちよく運転することができる。走っていると、重厚ともいえるフィーリングだ。一昔前のスカイラインとは、少し様子が異なる。それもそのはずで、アメリカでは「インフィニティQ50」として販売されているモデルなのだ。いわゆるプレミアムセダンというカテゴリーに入る。
「最もラグジュアリーでダイナミックなモデル」を目指したとする姿勢は、デザインにも表れている。フロントの造形は強い目ヂカラが印象的だ。グリルの大きさで迫力を増すのではなく、パワフルな表情でインパクトを与える手法をとっている。近くで見るとフロントもリアもランプが大きく張り出していて、最大限の視覚効果を狙っているようだ。ロングノーズ、ショートデッキのプロポーションは2代目以来の伝統だが、サイドビューの陰影の濃さがいかにも高級車らしい。前から後ろへと走るシャープなラインは、「skyline=空を背景とした山の稜線(りょうせん)」そのものに見える。思えば初代スカイラインにも、サイドに流れるモールラインがあった。
実は、今回の目的地はスカイラインの名が生まれた場所なのだ。このサイドラインのような流麗なカーブを描く道を、実際に走ってみようと考えたのである。
盛りだくさんの安全装備
当時、新型車を開発していたプリンス自動車は、車名を社内で公募した。1952年に入社して設計に関わっていた櫻井眞一郎は、このクルマにふさわしい名前としてスカイラインという名を提案する。彼は少し前に群馬県にスキーに出掛けており、渋峠から芳ヶ平まで滑ったことがあった。そこで見上げた銀色の尾根の美しさに感動し、スカイラインという言葉が頭に焼きついていたのである。見事にこの名前が採用され、2代目の途中から開発責任者となった櫻井は、“ミスタースカイライン”と呼ばれるようになる。
櫻井が見上げた山の稜線が、山田峠から渋峠にかけての道だった。標高は2172mで、日本の国道で最も高い地点である。東京からは、関越自動車道で向かうことになる。高速道路に入ってクルージングに移ると、スカイラインは高速ツアラーという別の顔を見せることになった。スポーティーセダンらしく乗り心地はやや硬いが、不快な突き上げは感じない。重厚さは安定感という印象に変わり、巡航していて疲れにくいというメリットを生む。
スカイラインにはカメラとミリ波レーダーによる運転支援システムが備えられていて、アクティブセーフティーやドライバーの負担軽減に力を発揮する。常に車線を監視しているから、逸脱しそうになると警告音でドライバーに注意を促す。インテリジェントクルーズコントロールも装備されていて、速度を設定すると前のクルマと一定の距離を保って勝手に追従してくれる。最近普及してきたシステムで、クルマによって結構設定に違いがある。スカイラインは、どちらかというとマイルドな反応をするようにしつけられている。
ほかにも、ハイテク安全装備は盛りだくさんだ。走行時に斜め後ろの車両を検知して知らせてくれる後側方車両検知警報(BSW)はもちろん、世界初となる前方衝突予測警報(PFCW)も設定がある。2台前を走る車両をミリ波レーダーでとらえ、車間距離や相対速度から危険を察知すると警告を発するのだ。衝突回避を支援するエマージェンシーブレーキも装備している。
さらに、駐車枠などからバックで出る際の事故を防止する後退時衝突防止支援システム(BCI)も備えられている。上からクルマを見下ろす映像を見せるアラウンドビューモニターが装備されているのはもちろんだ。こういったハイテク装備は、現在考えられる最高度のものが用意されているといっていい。
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ハイブリッドモデルはハイテクのかたまり
ハイブリッドモデルは、さらにハイテク度に磨きがかかる。世界初のダイレクトアダプティブステアリング(DAS)が採用されているからだ。ステアリングの動きを電気信号でタイヤに伝えるもので、設定の自由度を大幅に高めている。バックアップとしてステアリングシャフトは残してあるが、通常時はクラッチによって切断され、物理的なつながりはなくなるのだ。
ステアリングは、人間の手と路面を直接結ぶものだ。機械的な制約を取り去ることで、さまざまなメリットが生まれる。レスポンスの速さでは、圧倒的なアドバンテージがある。電気信号は瞬時に届き、アクチュエーターが作動してタイヤの向きを変える。ドライバーの意思は素早く正確に伝わり、意のままにクルマを操る感覚を得られるのだ。低速でも軽い操舵(そうだ)感を実現できるので、駐車時の取り回しが楽になる効果もある。粗い路面でキックバックに悩まされることもない。
電気的に操作することで、高速道路では直進性が高められる。不正路面からの影響を、素早く修正することができるからだ。さらに、車線を逸脱した際に従来の油圧ステアリングでは警告音を発するだけだったが、DASではアクティブレーンコントロールが自動的に微調整してくれる。クルマの側が積極的に安定した走行をサポートするわけだ。
ハンドリングの特性も、自由に設定することができるようになった。スカイラインはドライブモードの選択が可能で、ドライバーの好みで設定を選ぶことができる。DASによって、設定の自由度が劇的に高まるのだ。目的地に近づいてワインディングロードに入ると、その威力を実感することになる。
(文=鈴木真人/写真=郡大二郎)
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テスト車のデータ
日産スカイライン200GT-t Type SP
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4800×1820×1450mm
ホイールベース:2850mm
車重:1680kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7AT
エンジン最高出力:211ps(155kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:35.7kgm(350Nm)/1250-3500rpm
タイヤ:(前)245/40RF19 94W/(後)245/40RF19 94W(ダンロップSP SPORT MAXX 050 DSST CTT)
燃費:13.0km/リッター(JC08モード)
価格:456万8400円/テスト車=493万4736円
オプション装備:Boseサウンドシステム(14万5800円)/ビジョンサポートパッケージ<ハイビームアシスト、アクティブAFS+自動防眩(ぼうげん)式ルームミラー>(6万4800円) ※以下、販売店装着オプション プレミアムフロアカーペット<消臭機能付き>(5万6160円)/アンビエントLEDライトシステム<おもてなし間接照明>(9万9576円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:6092km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:722.2km
使用燃料:67.7リッター
参考燃費:10.7km/リッター(満タン法)
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日産スカイライン350GT ハイブリッド Type SP
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4800×1820×1440mm
ホイールベース:2850mm
車重:1800kg
駆動方式:FR
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7AT
エンジン最高出力:306ps(225kW)/6800rpm
エンジン最大トルク:35.7kgm(350Nm)/5000rpm
モーター最高出力:68ps(50kW)
モーター最大トルク:29.6kgm(290Nm)
タイヤ:(前)245/40RF19 94W/(後)245/40RF19 94W(ダンロップSP SPORT MAXX 050 DSST CTT)
燃費:17.8km/リッター(JC08モード)
価格:541万5120円/テスト車=582万4656円
オプション装備:ボディーカラー<HAGANEブルー>(4万3200円)/ビジョンサポートパッケージ<ハイビームアシスト、アクティブAFS+自動防眩(ぼうげん)式ルームミラー>(6万4800円)/Boseサウンドシステム(14万5800円)※以下、販売店装着オプション プレミアムフロアカーペット<消臭機能付き>(5万6160円)/アンビエントLEDライトシステム<おもてなし間接照明>(9万9576円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1万2728km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:696.7km
使用燃料:66.9リッター
参考燃費:10.4km/リッター(満タン法)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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伝統を継ぐということ(後編) 2014.10.9 日産スカイライン200GT-t Type SP(FR/7AT)/スカイライン350GT ハイブリッド Type SP(FR/7AT) 13代目「日産スカイライン」で、車名の由来となったワインディングロードを疾走。最新モデルの実力を探るとともに、半世紀以上にわたって受け継がれてきた、開発者の精神に思いをはせる。
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