伝統を継ぐということ(後編)
伝統を継ぐということ(後編) 2014.10.09 新型「スカイライン」命名の地を駆ける 日産スカイライン200GT-t Type SP(FR/7AT)/スカイライン350GT ハイブリッド Type SP(FR/7AT)13代目「日産スカイライン」で、車名の由来となったワインディングロードを疾走。最新モデルの実力を探るとともに、半世紀以上にわたって受け継がれてきた、開発者の精神に思いをはせる。
カスタマイズできるドライブモード
(前編からのつづき)
渋峠へは、草津から国道292号を登っていく。標高が高いため冬季は積雪で埋まり、もちろん、クルマは通行止めだ。試乗に訪れたのはちょうど紅葉の時期で、平日ながら観光客が多かった。赤や黄色に彩られた木々は美しいが、一部は木が生えない荒涼とした風景だ。活発な火山活動によって有毒なガスが発生しており、危険なのでクルマの駐停車が禁じられている区域もある。
「200GT−t」では、ドライブモードが「スポーツ」「スタンダード」「スノー」「パーソナル」の4種から選択できる。「パーソナル」は自分好みに設定を変えることができるモードで、「エンジン・トランスミッション」「ハンドル操舵(そうだ)力」「コーナリングスタビリティアシスト」の3項目でカスタマイズする。それぞれ3通り、2通り、2通りの選択肢があり、合計12通りの組み合わせから選べるわけだ。
高速道路では「スタンダード」でこと足りたが、山道ではやはり「スポーツ」を選びたくなる。アクセルオンに対するレスポンスは明らかに素早くなり、ステアリングの手応えもしっかりする。このモードは最もスポーティーな設定になっているので、わざわざ「パーソナル」で別の組み合わせを追求する必要はなさそうだ。さらにATをマニュアルモードに変え、パドルシフトにすれば気持ちのいいドライビングが約束される。
「350GT ハイブリッド」に乗り換えると、事情は変わってくる。ドライブモードに「エコ」が加わるほか、ターボモデルでは12通りだった「パーソナル」モードの組み合わせが、一気に96通りにまで増えるのだ。「アクティブレーンコントロール」が加わって項目が一つ増えた上に、エンジン・トランスミッションとハンドリングの項目の選択肢も広がるのだ。
スポーティーにもエコロジカルにも
そもそも、ターボとハイブリッドでは、ほとんど別のクルマといってもいいほどの違いがある。エンジンだけではなく、ハンドリング、ブレーキフィールもまったく似ていない。ハイブリッドモデルは、いかにも最先端の電子技術で武装していますという雰囲気を振りまいている。ターボが次世代なら、こちらは次次世代とでも言わなければならないだろう。350GT ハイブリッドから200GT−tに戻ると、いかにもクルマらしいクルマだという印象を持つ。
200GT−t でもモードを変えるといろいろな部分が変化したが、350GT ハイブリッドは次元が違った。「ダイレクトアダプティブステアリング」は物理的な特性から解放されているから、ハンドリングの特性を思い切って変えることができるのだ。「スポーツ」モードを選ぶと、ステアリングの手応えはグッと重くなる。抵抗を押しのけてほんの少し動かすと、クルマは大きく向きを変える。恐ろしくクイックなのだ。「スタンダード」との差は、200GT−tよりもはるかに大きい。
エンジンも活発になる。単体でも306psという高出力を持つところに、68psのモーターが最大限の応援を開始する。“世界最速のハイブリッド”をうたうだけあって、白根山の急勾配をものともせずに加速していく。セダンとしては、最強レベルではないか。ライバルとなるべき「BMW 3シリーズ」や「アウディA4」と比べても、スポーティーさでは好勝負となるだろう。
もちろん、「スポーツ」モードは場所を選ぶ。普段は「スタンダード」か「エコ」で走行したほうがいい。特に高速道路では、ハンドリングがクイックになりすぎるのは疲れるだけだ。燃費を考えれば、エンジンレスポンスをいたずらに高めるのは意味がない。「フーガ」譲りの1モーター2クラッチ方式のハイブリッドシステムはなかなか頭がよく、高速巡航時にもふと気が付くとエンジンが停止している。かなりのスピードでもEV走行が可能なのだ。
「パーソナル」モードでは、はなはだ奇妙な組み合わせも設定できる。エンジン・トランスミッションとシフトが「スポーツ」、ハンドルの操舵力が「軽い」、操舵応答が「おだやか」という設定にしてみた。どう考えても相性の悪い組み合わせで、運転してみるとこれまでに経験したことのない気持ち悪さだった。パワーはもりもり湧いてくるのに、ステアリングの手応えは弱々しく要領を得ないのである。まあ、こんなすっとんきょうな組み合わせを選ぶ人はいないとは思うけれど。
運転状況をビジュアル化
ダッシュボードの中心には8インチと7インチのツインディスプレイが備えられていて、さまざまな操作をスマホ感覚で行うようになっている。ナビやオーディオ、エアコンなどをコントロールすることができるが、使用頻度の高い操作はセンターコンソールのハードスイッチでも行える。
面白いのは、運転状況をリアルタイムに表示する機能だ。前後左右のGやステアリングの切れ角、燃料噴射量などが時々刻々と変化する様子をビジュアル化する。注視していると運転に支障をきたしそうだが、目の端に変化が見えるのはちょっと楽しい。メーター内にはアドバンスドドライブアシストディスプレイがあって、瞬間燃費や車両情報、警告表示などを映し出す。クルマから発せられる情報量は膨大だ。
発信するだけでなく、情報を記憶する機能も備えている。「パーソナルアシスタント機能」は、3名分の情報を保存してワンタッチで切り替えるシステムだ。ドライビングポジションやエアコンの設定だけなら普通だが、安全装備の設定やドライブモードもパーソナライズしてくれる。すべてを知り尽くした執事にサービスを受けているようなものである。
気持ちよくコーナーを抜けていくと、「日本国道最高地点」の石碑のある駐車場に到着した。眼下にはクマザサが生い茂る崖が見える。本来ならばその向こうに芳ヶ平の雄大な姿が広がっているはずなのだが、あいにく霧が出ていて見通せなかった。晴れていれば、芳ヶ平ヒュッテの赤い屋根が見えただろう。60年近く前、確かにそこには、この場所を見上げる櫻井眞一郎がいたのだ。
稜線のように美しいクルマを作りたい
初代スカイラインはミケロッティがデザインした派生モデルの「スカイライン・スポーツ」を生み、日本のカーデザインに新風を吹き込んだ。1963年に2代目となり、翌1964年にはグロリア用の6気筒エンジンを搭載した「スカイラインGT」が発売される。このモデルが第2回日本グランプリに出場し、「ポルシェ904」と名勝負を繰り広げたことで伝説となる。
日産で製造されるようになってからも、「ハコスカ」「ケンメリ」などの愛称を持つ名車が生まれている。強力なエンジンを積んだ「GT-R」がレースで活躍し、“羊の皮をかぶった狼(おおかみ)”という異名が定着した。スポーツイメージが強いが、同時に家族で乗るファミリーセダンとして親しまれ続けたモデルでもある。そして、常に最先端のテクノロジーがつぎ込まれていた。スカイラインは、さまざまな顔を持っている。
新しいスカイラインにとっては、プレミアム性という要素も重要である。開発者はインタビューの中で、「高級車の新たなベンチマーク」という言葉を使ってこのクルマを定義している。ドアやフードの隙間がわずか2.5mmというのはプレミアム輸入車を上回っているし、上質な素材で仕上げられた内装も高級感があふれている。
「これまでにないレベルのドライビングプレジャー」という表現も使われていた。それを実現するために用意されたのが、このハイブリッドと次世代ターボだった。性格は異なるが、どちらもスポーティーな走りと低燃費を両立させようという方向性では一致する。
櫻井眞一郎は、このクルマをスカイラインと名づけた理由について語っていた。俺の作るクルマは、あの稜線(りょうせん)のようにきれいなクルマにしたい。そういう思いで開発に取り組んだのだという。半世紀を経てもその精神が受け継がれていることが、何よりも素晴らしい。だからこそ、最新モデルに乗っても伝統の重みをひしひしと感じてしまうのだ。
(文=鈴木真人/写真=郡大二郎)
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テスト車のデータ
日産スカイライン200GT-t Type SP
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4800×1820×1450mm
ホイールベース:2850mm
車重:1680kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7AT
エンジン最高出力:211ps(155kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:35.7kgm(350Nm)/1250-3500rpm
タイヤ:(前)245/40RF19 94W/(後)245/40RF19 94W(ダンロップSP SPORT MAXX 050 DSST CTT)
燃費:13.0km/リッター(JC08モード)
価格:456万8400円/テスト車=493万4736円
オプション装備:Boseサウンドシステム(14万5800円)/ビジョンサポートパッケージ<ハイビームアシスト、アクティブAFS+自動防眩(ぼうげん)式ルームミラー>(6万4800円) ※以下、販売店装着オプション プレミアムフロアカーペット<消臭機能付き>(5万6160円)/アンビエントLEDライトシステム<おもてなし間接照明>(9万9576円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:6092km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:722.2km
使用燃料:67.7リッター
参考燃費:10.7km/リッター(満タン法)
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日産スカイライン350GT ハイブリッド Type SP
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4800×1820×1440mm
ホイールベース:2850mm
車重:1800kg
駆動方式:FR
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7AT
エンジン最高出力:306ps(225kW)/6800rpm
エンジン最大トルク:35.7kgm(350Nm)/5000rpm
モーター最高出力:68ps(50kW)
モーター最大トルク:29.6kgm(290Nm)
タイヤ:(前)245/40RF19 94W/(後)245/40RF19 94W(ダンロップSP SPORT MAXX 050 DSST CTT)
燃費:17.8km/リッター(JC08モード)
価格:541万5120円/テスト車=582万4656円
オプション装備:ボディーカラー<HAGANEブルー>(4万3200円)/ビジョンサポートパッケージ<ハイビームアシスト、アクティブAFS+自動防眩(ぼうげん)式ルームミラー>(6万4800円)/Boseサウンドシステム(14万5800円)※以下、販売店装着オプション プレミアムフロアカーペット<消臭機能付き>(5万6160円)/アンビエントLEDライトシステム<おもてなし間接照明>(9万9576円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1万2728km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:696.7km
使用燃料:66.9リッター
参考燃費:10.4km/リッター(満タン法)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。