第11回:八王子城跡と城山トレッキング(その2)
高尾山よりも本格的!?
2014.11.20
矢貫 隆の現場が俺を呼んでいる!?
バリバリ登山の山
八王子城山といえば、オオタカ、なのである。
レッドデータブックに絶滅危惧II類(注)とあるオオタカについて、その昔、といっても18年前でしかないけれど、「八王子城山で営巣木が発見された」という話があったのを、何かで読んだか聞いたかした覚えがある。
けれど、八王子城山のオオタカ、いまは残念ながら、なのである。
さて、八王子城である。
八王子城は山城である。
「城」と聞けば、一般的に思い浮かべるのは姫路城とか大坂城とか、大きな天守閣のある、そして、平地にある城だろうけれど、八王子城は、山岳地にありながらも領主の居館や家臣たちの住まいを備えた、戦国時代後期の代表的な山城だった。
標高こそ600mにも満たなくて高尾山よりも低いとはいえ、標高451mの地点にある本丸跡までの道は、まさに登山道そのものである。
年間250万人以上の人が登る大人気の高尾山、山をなめた格好の人も多く見かけるが、この八王子城山の登山道では、そうはいかない。低山なのに勾配変化は大きいし、アップダウンもキツくて、途中で出会う人たちは、みな本格装備の登山者ばかり。実際に現場を歩いてみて私も初めて知った。
八王子城山、ここは、売店も自販機もないバリバリ登山の山だ、と。
一部に杉やひのきの人工林もあったけれど、基本、この山も高尾山と同様、植生が豊富で、さまざまな種類の木で全山が覆われている。東向きの斜面を歩きだすと眼下に八王子の市街地が広がっていた。
おお、あっちが八王子の市街地だとすると、では奥多摩は左の方向か? と景色を眺めている私の視線の先で、「ガサガサッ」という音を伴って木々が大きく揺れた。
獣だッ!!
怖がりだから、山では、この種の音に敏感に反応する私なのである。
近くに獣がいるのは確かにわかったが、その正体は?
オオタカの運命
また「ガサガサッ」っと、しかも、あちこちの木が揺れ、ちょっとばかり怖くなった瞬間、黒い影が木から木へ飛び移った。数匹の猿たちだった。この場に居合わせたら、子どもでもわかるに違いない。ここで弁当を広げちゃだめだ、と。
植生が豊かだから野生の動物たちもたくさん生息しているようで、そういえば、御主殿跡のあたりで「野生動物に注意」と書いた表札を何度か目撃したのを思いだした。
実は、八王子城山、オオタカが巣を作るほどだから、高尾山に負けず劣らず、すごい、のである。
で、このすごい山に圏央道のトンネルを掘るとなると、では、オオタカの運命はどうなってしまったのか?
保護が義務付けられている鳥だし、トンネル(=八王子城跡トンネル)を掘るの、ちょっとマズイんじゃないの、ルート変更も検討した方がいいんじゃないの、少なくとも、何らかの対策は必要なんじゃないか、と、きっと多くの人はそう考える。圏央道を建設する国交省も同様に考えたようで、「圏央道オオタカ検討会」を設置した。
で、オオタカは?
営巣木の発見から3年後、巣立ちするひなの数が減り、2002年には、オオタカは営巣を途中で放棄してしまい、以来、八王子城山に戻ってきていない。
なにゆえ!?
圏央道オオタカ検討会を設置したものの、トンネル工事は、1999年(=ひなが減ってしまった年)に、予定通り、開始されていたのだ。
その3年前に発見されていたオオタカの営巣木は、実は、圏央道トンネル坑口の真上、約220mの雑木林のなかにあったのだもの、トンネル工事が続けば、そりゃ、オオタカだって姿を消してしまうわな。
八王子神社の鳥居(A)から登りだす八王子城山のトレッキングコース。標高451mの本丸を過ぎたら下り勾配で、するとまた登り勾配に変わって標高478mの詰城まで登り、さらにアップダウンを繰り返して標高527mの富士見台へと到着し、この時点でA地点をスタートしてから3時間近くが経過していた。
摺指(するさし=裏高尾町の集落のひとつ)の「峰尾とうふ店」の営業時間中にたどり着けるのだろうか。
八王子城跡の管理棟で、ボランティアガイドから「城山を縦走して裏高尾町までなら3時間はかかる」と教えられていたけれど、登山地図に示されたコースタイムによれば、この時点で、私はまだ「裏高尾まで1時間」の場所でうろちょろしている。今日は、なにがなんでも、有名な峰尾とうふ店の「寄せ豆腐」を買って帰るつもりなのに、ちょっとばかり時間が心配になっていた。
八王子城山。見るべき史跡がたくさんあって楽しい。けれど、でかけるには最小限の登山の装備は必要だし、運動不足がちの人には少しばかりハードルが高いかもしれない。
(文=矢貫 隆)
(注)絶滅危惧IIA類は、ごく近い将来、絶滅の危険性がきわめて高い種。IIB類は、IIA類ほどではないが、近い将来に絶滅の危険性が高い種。そして、オオタカなどの絶滅危惧II類とは、絶滅の危険性が増大している種を指す。

矢貫 隆
1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。現在『CAR GRAPHIC』誌で「矢貫 隆のニッポンジドウシャ奇譚」を連載中。『自殺―生き残りの証言』(文春文庫)、『刑場に消ゆ』(文藝春秋)、『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。
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