第13回:自転車――改正道交法が語る“意味”(その2)
6月1日 改正法一部施行
2015.06.09
矢貫 隆の現場が俺を呼んでいる!?
「おじさんッ!!」
自転車乗りの若いお姉さんに「マナーが悪い」と怒られたのは、潜入取材でタクシー運転手を始めたばかりの頃だった。3年か4年くらい前になるだろうか。
「おじさんッ!!(=矢貫 隆)、自転車は左側通行って知らないの!?」
「なんで右側通行をするんですか!?」
「おじさんみたいな人がいるから自転車のマナーが悪いって言われるのよ」
このお姉さん、マナーの悪い自転車乗りに遭遇するたびこうして怒るのか、あるいは腹に据えかねる無法自転車への日ごろの怒りが、たまたま目の前に現れた逆走自転車(=私)に向いたのか、いずれにしても私に向けられたのは容赦のない叱責(しっせき)だった。
いや、お姉さん、ちょっと誤解があるようだ、と言い訳が通用する雰囲気ではまるでなかったものだから、「おじさんッ」「おじさんッ」とおじさんを連呼された自転車乗りのおじさんは、おびえた猫のような逃げ腰で「ごめんなさい。これから気をつけます」とわびてその場を去ったのだった。
明治通り沿いに新宿をでて、新目白通りとの交差点、高戸橋を左折。そのまままっすぐ走って、こんどは山手通りとの交差点を右折する。こうして板橋方面に向かうのが潜入先のタクシー会社までの通勤路で、事が起こったのは、山手通りの手前、信号機のある交差点で、である。
ここで新目白通りを反対側に渡り、向こう側の歩道を通って山手通りにでる。それもいつものコースだから青信号を待ってその幹線道路を渡ったと思ってもらいたい。ところが渡った先の歩道上に乳母車を押した若いお母さんがいたものだから、気を利かせた私は、歩道の手前で彼女に道を譲った。ほんの5mもずれたらガードレールの切れ目がある。そこから歩道に入ればいい。そう判断したのだ。
ところが……。
自転車乗りのお姉さんが、山手通りから坂を下ってきて、マナーに欠ける(=実は道交法違反)自転車乗りのおじさんの行為を目撃したのはその瞬間だった。
正確に言うと、彼女が目撃したのは“その瞬間だけ”だった。おじさんが横断歩道を渡ってきた事実を彼女は知らない。歩道に乗り上げようとして、でも乳母車に道を譲り、5mだけ左にずれたのだという事実を彼女は知らない。彼女の目に映ったのは、まさに、その5mを移動している場面。右側通行しているマナーの悪い自転車乗りのおじさんでしかなかったのだ。だから「おじさんッ!!」となった。
たかだか5m弱。だが、5mだろうが3mだろうが、結果として右側通行になってしまったことに違いはない。自転車を降りなかった私が悪い。それは認める。だから「ごめんなさい」と反省したけれど、でもなぁ、言い訳したかったなぁ。

矢貫 隆
1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。現在『CAR GRAPHIC』誌で「矢貫 隆のニッポンジドウシャ奇譚」を連載中。『自殺―生き残りの証言』(文春文庫)、『刑場に消ゆ』(文藝春秋)、『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。
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