日産エクストレイル20Xハイブリッド“エマージェンシーブレーキ パッケージ”(4WD/CVT)
意地と燃費の両立 2015.06.17 試乗記 「タフギア」としての魅力と、時代が求める燃費の両立は成ったのか? 日産を支えるミドルサイズSUV「エクストレイル」に追加された、ハイブリッドモデルの実力を試す。いろいろ言われはしたものの
エクストレイルって、なんであんなんなっちゃったの?
2013年末に登場した現行型を見ての、周囲の友人知人の反応は、概してそんな感じだった。「タフギア」と言い続けてはいるものの、愚直に四角さを貫いていたそれまでのナリは捨て去られ、良く言えば今日的な、悪く言えば他と大差ないSUV的なデザインをまとったそれは、迎合を嫌うクルマ好きにとって、落胆の要素の方が強かったのだろう。
同じくCセグメント系プラットフォームを用いる欧州名「キャシュカイ」、日本名「デュアリス」とのアーキテクチャー統合を前提に開発された、そのロングホイールベース版。そして米国では「ローグ」として販売され……と、世界的な商品戦略との折り合いで、エクストレイルは確かに日本発だったコンセプトの見直しを迫られた。そこに共感できなかったのは僕も一緒である。
だが、数字は正直だ。フルモデルチェンジ後、初の通年販売となった2014年の台数は約5万4000台。日産の国内販売にとって今やエクストレイルは「ノート」「セレナ」と並ぶ3本柱のひとつだ。しかも初代、2代目と比較しても、その売れっぷりは明らかにずぬけてもいる。
好きってだけじゃあ売れないんですよ。クルマ屋さんの営業や商品企画の人が時折口にする言葉を、見事に証明する事象を目の当たりにしてはぐうの音も出ない。そんな国内での販売をさらに景気づけるべく追加投入されたのが、今やこのキーワードなしでは来店の話もお茶の間で始まらないという「ハイブリッド」だ。
25%の燃費改善と引き換えに
エクストレイル ハイブリッドのパワートレインは従来の日産のハイブリッド車と同様、エンジンとトランスミッションの間にモーターを挟み込み、モーターの両端をクラッチで制御する1モーター2クラッチ式を採用している。挟み込まれるモーターの出力は41ps/16.3kgm。エンジンの側は基準車にも搭載される「MR20DD」ユニットで出力も147psと同一だが、ACコンプレッサーやウオーターポンプの電動化に伴い補機ベルトを廃すなど、摺動(しゅうどう)抵抗を低減している。システム合計でのパワーは188ps、トルクは27.5kgmと、すなわち前型で搭載されていた2.5リッターユニットを凌駕(りょうが)する動力性能を確保しているというのが大きなウリだ。ちなみに燃費は2列シート&4WD同士の比較で、基準車の16.0km/リッターに対して20.0km/リッターと、25%の改善をみている(ともにJC08モード)。
容量は非公開というバッテリーは円筒形のセルを用いた多重構成で、そのマネジメントシステムを含めたユニットを日立オートモーティブが手がけている。そのユニットがリアシート背後の床面に置かれる関係で、エクストレイル ハイブリッドの荷室部は底面が若干かさ上げされており、基準車に比較すればわずかながら荷室容量も少ない。が、それは使い勝手的にはほとんど影響がない程度であり、後席を倒してのカーゴルームのフラット化にはかえって都合よく機能してもいる。ただし床面に電源を備える関係もあり、エクストレイルの特徴である拭き取り可能な耐水性素材は荷室部には採用されていない。
“ハイブリッド感”は控えめ
基準車のエクストレイルには500km程度試乗したことがある。見た目のあまりの変貌ぶりに特段の期待も抱かなかっただけに、乗り心地よろしくハンドリングも素直で燃費も良好……と、このクラスの“デイリーなSUV”としてライバルに勝るところも多々見受けられるほどよくできていることに驚かされた覚えがある。肝心の悪路では試す機会がいまだないものの、オンロードでの印象は総じて悪くはない。
システム搭載によって車重は60~70kgほど増えてはいるものの、エクストレイル ハイブリッドの動的な印象は、基本的に基準車のそれと大きな差はなかった。恐らくは峠道などに行けば、後軸側のバッテリーユニットやそれを固定するフレームなども効いて接地感が上がっていることも確認できるかもしれないが、この点も基準車は相応以上のレベルに達している。つまり、乗り心地やハンドリングの面でハイブリッドの側に特筆するほどのものはないとみていいだろう。
ハイブリッドシステムはモーター側の出力が小さいこともあり、低中速域で電気自動車的な走行モードを頻繁に感じることはない。技術陣は0~60km/h付近まではモーターのみで走行することも可能というが、充電状況の差異はあるにせよ、アクセル操作に気遣ってもおおむね発進から20~30km/hのところで力足らずとなりエンジンが稼働する状況が多く見受けられた。一方で、モーターとエンジンのパワーミクスチュアは「フーガ」や「スカイライン」以上に巧みで、クラッチ式のデメリットをほとんど感じさせない。良くも悪くもドライバーが日常域でハイブリッドシステムの介入を意識する機会は、トヨタの「THS」よりも少ないといえるだろう。
「タフギア」としての意地がある
逆に60km/hを超えた辺りからエンジン側が定常的に稼働するTHSに対すれば、クラッチ式には高速域でも低負荷領域でエンジンを休止できるというメリットがある。中高速域でエクストレイル ハイブリッドのメリットを感じるのはこの点に加え、やはり微妙な速度調整の際にモーターのアシストが働くことで、CVTによる不要な回転上昇を抑えられることだ。例えば平地90km/h前後のエンジン回転数はおおむね1600rpm付近。そこからゆっくり速度を高めたいとアクセルを薄く踏めば、回転を高めることなくじわじわと加速してくれるなど、パワートレインのフレキシビリティーが大きく向上している。全開時の力強い加速もさることながら、高速道路を多用する向きにはむしろこの点が動的な恩恵として強く感じられるのではないだろうか。
空気抵抗低減のためのアンダーカバー装着もあって、エクストレイル ハイブリッドの最低地上高は基準車に対して10mm落ちてはいるものの、それでも195mmを確保している。そして、悪路走破性を重視したドライブトレインの制御ロジックに基本的な差異はない。前述のラゲッジユーティリティーも含め、エクストレイルの魅力を限りなく保持したままハイブリッド化するならば、モーターや電池の容量もおのずと現状に収斂(しゅうれん)する。要するに、日産はひたすらな燃費向上よりもできるだけこのクルマの本質を曲げないエンジニアリングを採ったということだろう。一滴とは言わずとも100cc分でもガソリン代を削りたいという燃費コンシャスなユーザーには物足りないかもしれないが、エクストレイルにもハイブリッド以前に3代目タフギアとしての意地がある。そこが垣間見えるモデルだった。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
日産エクストレイル20Xハイブリッド“エマージェンシーブレーキ パッケージ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4640×1820×1715mm
ホイールベース:2705mm
車重:1630kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:147ps(108kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:21.1kgm(207Nm)/4400rpm
モーター最高出力:41ps(30kW)
モーター最大トルク:16.3kgm(160Nm)
タイヤ:(前)225/65R17 102H M+S/(後)225/65R17 102H M+S(ダンロップ・グラントレックST30)
燃費:20.0km/リッター(JC08モード)
価格:301万1040円/テスト車=359万2425円
オプション装備:ボディーカラー<ブリリアントホワイトパール>(4万3200円)/NissanConnectナビゲーションシステム+ETCユニット+ステアリングスイッチ<オーディオ、ナビ、ハンズフリーフォン、クルーズコントロール>+アラウンドビューモニター<MOD(移動物検知)機能付き>+インテリジェントパーキングアシスト+BSW<後側方車両検知警報>+ふらつき警報+クルーズコントロール(32万7240円)/リモコンオートバックドア<ハンズフリー機能、挟み込み防止機構付き>(5万4000円)/ルーフレール(5万4000円) ※以下、販売店装着オプション LEDフォグランプ<アラウンドビューモニター装着車用>(6万9614円)/デュアルカーペット<フロアカーペット(消臭機能付き)+ラバーマット>(3万3331円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:2045km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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