スバルBRZ tS(FR/6MT)
満喫するならサーキット 2015.06.30 試乗記 およそ2年ぶりに発売された、台数限定のチューンドカー「スバルBRZ tS」に試乗。「大人の感性にうったえたい」「同乗者にも楽しんでもらいたい」と開発陣も意気込む、その実力やいかに?想定外のチューンドカー
2015年6月30日に、スバルテクニカインターナショナル(STI)が新しいスバルBRZのコンプリートカーを出す。その前に公道プレス試乗会があるのだが、どんなクルマなのか、事前に『webCG』編集部が探りを入れても、BRZベースというだけで、それ以上は教えてくれなかったらしい。
STIは4月のニューヨーク自動車ショーに「STIパフォーマンスコンセプト」を出展した。派手なエアロチューニングを施したBRZのコンセプトカーで、その隣にはGT300用の2リッター水平対向4気筒ターボ(EJ20)エンジン単体が展示されていた。
もしかしてだけど、新型STI BRZとはコレなのではあるまいか!? すなわち、BRZ GT300のロードゴーイングバージョン!
勝手な期待を胸に試乗会場へ出掛けると、そこにいたのは想像よりだいぶ控えめなBRZ tSだった。
試乗後、STIの開発スタッフにそんな経緯を打ち明けたら、笑われた。STIパフォーマンスコンセプトは、スバルの主力市場であるアメリカの人たちにまずはSTIを知ってもらうために出したショーモデルであって、今度のBRZ tSとは関係がないという。今回はともかく、ロードゴーイングBRZ GT300に実現の可能性はあるのかどうか? それについても、明確な答えはもらえなかった。
腰から下を徹底鍛錬
BRZ tSは2013年8月に発売された、同名の限定モデルの“おかわり”である。前回は約7カ月の期間限定受注で、最大500台だったが、今度は今年10月12日までの受け付けで、300台。前回が444台にとどまったという事情を受けての限定規模だろう。
FRスポーツカーの老舗、「マツダ・ロードスター」が新しくなった。軽自動車の世界でも「ダイハツ・コペン」が出て、「ホンダS660」が加わり、話題を呼んでいる。なんとなくスポーツカーがキテイルいま、BRZのプレゼンスをもう一度、高めておきたい。復活 tSにはそんな意図も見え隠れする。
tSの名が示すとおり、エンジンを始めとする動力系には手が加えられていない。そのかわり、サスペンションチューニングからドライブシャフトの大径化まで、腰から下にはSTIの仕事が余すことなく施される。
さらに加えて、ビルシュタインダンパーやフレキシブルVバーなどが新たに備わり、ブレンボのブレーキローターはドリルドディスクにバージョンアップされた。
フレキシブルVバーとは、左右ストラットタワーとバルクヘッドを結ぶスチールのバーで、途中にピロボールを組み込んだ点が新しい。これにより、操舵(そうだ)に対する応答性は30%以上あがり、その一方、微小なステアリング振動は抑制される、というのがSTIの説明だ。
ATモデル(407万1000円)もあるが、試乗会に用意されていたのはMTモデル(399万円)だけだった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
「911 GT3」を思い出す
筆者は第1弾のBRZ tSに乗った経験がない。そのため、ノーマルBRZとの比較しかできない。試乗といっても、今回はすいたローカル道のみで、コーナーが連続するワインディングロードのようなところも走れなかった。
その範囲で最も印象的だったのは、シャシーの剛性の高さである。商品概要説明でもあった通り、tSのチューニング作法のひとつは、上質な乗り心地で、実際、過去に乗った「インプレッサ」や「レガシィ」のtSでは、そのあたりに納得もさせられたが、BRZ tSはかなりスパルタンに硬い。ミシュランの「パイロットスーパースポーツ」は正直に路面のデコボコを拾うし、ボディーも揺すられる。いかにもシャシー全体が締め上げられている感じだ。新型「911 GT3」の硬さを思い出した。
ステアリングはたしかにクイックである。しかも、重い。「メルセデスAMG GT」のようなスーパースポーツでも、操舵力を軽くする最近のトレンドを考えると、ちょっと古典的な味つけといえる。
エンジンはECUのソフトも含めてノータッチで、200psのパワーをはじめとしてアウトプットはストックのままだ。でも、シャシーがこれだけガッチリしていると、なんだかパワーも少し増えたような気がする。
やりすぎないのも大事
BRZ tSは、「トヨタ86」を混流生産する群馬県矢島工場ではなく、傘下の桐生工業で特別仕立てされる。パトカーや教習車といったスバルの特装車をつくる工場だ。
STIチューンは内装にも及び、新型tSではドアパネルやエアアウトレットやレカロシートに赤いアクセントカラーが入った。やはり新趣向のカーボン調ダッシュパネルの助手席側には「tS LIMITED EDITION 300」と記されたオーナメントが付く。スポーティーだが、抑制のきいたインテリアである。
前回、装着可能だったリアウイングは、オプションでも用意されない。「人気がなかったから」だそうだ。時がたつほど、台数が増えてくるほど魅力的に見えてきたこのボディーに、派手なリアウイングはたしかに似合わない。スバリストはわかっているなあと思う。
そんなことを考えると、BRZ tSの足まわりはもっとコンフォート重視でもよかったのではないか。サーキットランを追求するにはいいかもしれないが、それ以外のステージではちょっとムキになりすぎているような気がする。そっち方面は、来たる(?)ロードゴーイングBRZ GT300におまかせしましょう。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=三浦孝明)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
スバルBRZ tS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4260×1775×1310mm
ホイールベース:2570mm
車重:1240kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:200ps(147kW)/7000rpm
最大トルク:20.9kgm(205Nm)/6400-6600rpm
タイヤ:(前)225/40ZR18 92Y/(後)225/40ZR18 92Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:--km/リッター
価格:399万円/テスト車=399万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1433km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
三菱デリカミニTプレミアム DELIMARUパッケージ(4WD/CVT)【試乗記】 2025.11.22 初代モデルの登場からわずか2年半でフルモデルチェンジした「三菱デリカミニ」。見た目はキープコンセプトながら、内外装の質感と快適性の向上、最新の安全装備やさまざまな路面に対応するドライブモードの採用がトピックだ。果たしてその仕上がりやいかに。
-
ポルシェ911カレラGTSカブリオレ(RR/8AT)【試乗記】 2025.11.19 最新の「ポルシェ911」=992.2型から「カレラGTSカブリオレ」をチョイス。話題のハイブリッドパワートレインにオープントップボディーを組み合わせたぜいたくな仕様だ。富士山麓のワインディングロードで乗った印象をリポートする。
-
アウディRS 3スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】 2025.11.18 ニュルブルクリンク北コースで従来モデルのラップタイムを7秒以上縮めた最新の「アウディRS 3スポーツバック」が上陸した。当時、クラス最速をうたったその記録は7分33秒123。郊外のワインディングロードで、高性能ジャーマンホットハッチの実力を確かめた。
-
スズキ・クロスビー ハイブリッドMZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.11.17 スズキがコンパクトクロスオーバー「クロスビー」をマイナーチェンジ。内外装がガラリと変わり、エンジンもトランスミッションも刷新されているのだから、その内容はフルモデルチェンジに近い。最上級グレード「ハイブリッドMZ」の仕上がりをリポートする。
-
ホンダ・ヴェゼルe:HEV RS(4WD)【試乗記】 2025.11.15 ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」にスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。ベースとなった4WDのハイブリッドモデル「e:HEV Z」との比較試乗を行い、デザインとダイナミクスを強化したとうたわれるその仕上がりを確かめた。
-
NEW
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】
2025.11.25試乗記インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。 -
NEW
ステアリングホイールの仕様は、何を根拠に決めている?
2025.11.25あの多田哲哉のクルマQ&A「どれも同じ」というなかれ、メーカー・ブランドによりさまざまな個性が見られるステアリングホイールの仕様は、どのような点を考慮して決められているのか? 元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
ホンダ・ヴェゼル【開発者インタビュー】
2025.11.24試乗記「ホンダ・ヴェゼル」に「URBAN SPORT VEZEL(アーバン スポーツ ヴェゼル)」をグランドコンセプトとするスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。これまでのモデルとの違いはどこにあるのか。開発担当者に、RSならではのこだわりや改良のポイントを聞いた。 -
2025年の一押しはコレ! 清水草一の私的カー・オブ・ザ・イヤー
2025.11.24デイリーコラムこの一年間で発売されたクルマのなかで、われわれが本当に買うべきはどれなのか? 「2025-2026日本カー・オブ・ザ・イヤー」の正式発表に先駆けて、清水草一が私的ベストバイを報告する! -
アルファ・ロメオ・ジュニア(後編)
2025.11.23思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「アルファ・ロメオ・ジュニア」に試乗。前編では内外装のデザインを高く評価した山野だが、気になる走りのジャッジはどうか。ハイブリッドパワートレインやハンドリング性能について詳しく聞いてみた。 -
三菱デリカミニTプレミアム DELIMARUパッケージ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.11.22試乗記初代モデルの登場からわずか2年半でフルモデルチェンジした「三菱デリカミニ」。見た目はキープコンセプトながら、内外装の質感と快適性の向上、最新の安全装備やさまざまな路面に対応するドライブモードの採用がトピックだ。果たしてその仕上がりやいかに。






























