ボルボ850 T-5Rエステート(FF/4AT)
グッドオールド・ボルボ 2015.07.09 試乗記 1990年代に人気を博したボルボのステーションワゴン「850エステート」。ボルボ・カー・ジャパンがレストアを施した個体の試乗を通し、スクエアなデザインが特徴だった“古き佳き時代”のボルボの魅力に触れた。可能な限り“新車”に近い姿に
「850 T-5R」は、今秋発売されるボルボの新型ワゴンである。
と、そう書いても、知らない人なら信じてもらえそうなビカモンの850 T-5Rエステートに乗った。1995年型、走行約24万kmの個体をボルボ・カー・ジャパン(以下、ボルボジャパン)がレストアしたものである。
古いボルボのためのレストアプログラムを立ち上げるとともに、今後、ボルボジャパンは認定中古車ならぬ認定大古車をビジネスの柱にしていくことになった。といったような計画が特にあるわけではないが、20年前のクルマでもディーラー整備でここまでのミントコンディションに復元できる、ということをPRするためにつくられた一台である。
ボルボはいま、エンジンラインナップの一新を図っている。資本提携時代のフォードユニットと決別し、新開発の4気筒2リッターを核にした自製エンジンへの切り替えに取り組んでいる。すでに登場しているガソリンエンジンに次いで、2015年はクリーンディーゼルがボルボの目玉になる。
その一方、「丈夫で長持ち」というボルボ古来の価値も忘れてもらっちゃ困るよ、というアピールがこの850 T-5Rエステートである。都内のディーラーに下取りで入ってきたワンオーナー車。それもカーナビすら付いていないフルノーマル車を可能な限り、新車に近づけた。
といっても、2.3リッター5気筒ターボエンジンはまだカクシャクとしたもので、交換したのはタイミングベルトなどの補機類くらいだという。しかし、クリームイエローのボディーには入念な再塗装を施し、内外装の部品も調達できる範囲で新品に替えてある。売りものではないが、トータルで新車の「V60」が買えるくらいのお金がかかっているらしい。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
ボルボ史上、最も体育会系
“いまの人”は、ボルボを「カッコいいクルマ」と思っているかもしれないが、ひと昔前まで、ボルボは「四角いクルマ」だった。
1991年に登場した大型ボルボ初のFF車、「850」は、四角いボルボ時代の最後のクルマである。このころの日本での併売モデルは「240」「740」「760」「940」「960」。いずれも筋金入りの四角四面野郎である。そのなかで、新人の850は、鋭いエッジと微妙な面の張りを際立たせた、いわばカッコいい四角四面が特徴だった。カッコに目覚めたスクエアデザインである。
横置きされるエンジンは、気筒あたり4バルブの直列5気筒。それまでの3ケタ車名のつくりからわかるとおり、2ケタ目の5は気筒数を表していた。
1995年に追加発表されたT-5Rは、シリーズを通して最も硬派な高性能モデルである。2.3リッターターボのブースト圧を上げ、チップチューンを加えて240psを得た。排気量は2319ccだから、リッター100ps達成である。
サスペンションを固め、ボディーにエアロチューンを施したT-5Rは、セダンとワゴンの両方に用意され、ボルボとしては久しぶりのMTモデルも国内販売された。発売時の価格は、セダンが585万円、ワゴンが605万円(いずれもATは10万円高)だった。
この当時、ボルボは850で英国ツーリングカー選手権(BTCC)に参戦し、ワゴンも走らせていた。テールの重いステーションワゴンは、重量バランス的に決してベターとは思えないが、それがまた話題を呼び、人気を集めた。BTCCボルボを想起させるT-5Rのイメージリーダーもワゴンだろう。
こうして振り返ると、ボルボ史上、最も体育会系だったのが850 T-5Rである。
往年のボルボの“味”がする
自分の試乗メモを調べたら、最後に850 T-5Rに乗ったのは10年前だった。輸入中古車誌『UCG』の取材で借りた1995年型、走行6.4万kmの個体である。それと比べると、ボルボジャパンが復元したこの1995年型は当然、程度のよさではるかに差をつけるが、それでも、2015年に走ってみた印象をひとことで言えば、「古き佳きボルボ」である。
最近の電動ステアリングに比べると、ハンドルは重い。徹底した整備が加えられていても、2.3リッター5気筒ターボは今のスポーツエンジンほどシャープではないし、新車当時から明らかにセダンのほうが高かったワゴンボディーの剛性感には衰えもみられる。硬いサスペンションとヨンマルのタイヤがもたらす乗り心地は、荒れた舗装路へ行くとドタバタ系だ。
そうしたところにいちいち設計年次の古さは隠せない。だが、四角四面時代のボルボ、つまり100%ボルボ資本だったころのボルボは、どんなクルマに乗っても、新車の時からそんなに「最新の機械!」という感じはしなかった。自分の首を締めるほど、いいクルマとして突き詰めていないところが、乗るとホッとするボルボの“味”を生んでいたし、まさにそこがボルボのよさだった。
四角いボディーのすばらしさ
もうひとつ、ビカモンT-5Rワゴンに乗って感じた温故知新は、四角四面のありがたみである。
1760mmの全幅も、1460mmの全高も、いまのV60より小ぶりなのだが、乗り込むと850 ははるかにルーミーに感じられる。スクエアデザインと、低いウエストラインがもたらす大きなグラスエリアのおかげである。運転席からはボンネットが隅々まで見渡せるから、狭いところでの取り回しもいい。四角四面って、ドライバーフレンドリーなのだなあとあらためて感じた。FFなのに小回りが利いたのも、850の美点だった。
限られたサイズで、最大の容積を得るには、四角四面の箱が一番いい。テールゲートを開けると、850エステートの荷室はかるくのけぞるほど広い。現行ボルボのフルサイズステーションワゴン「V70」と比べても、850の荷室幅は13cmも広い(実測)のである。全幅はV70(1890mm)のほうが13cmも広いくせに。
24万km台のオドメーターをまた214km進ませてもらうと、トリップコンピューターの平均燃費表示には14.7の数字が出ていた。グッドオールドT-5R、燃費もやるな! と思うのは早とちりで、これは当時ヨーロッパ車では一般的だった100kmあたりの燃料消費量である。計算すると6.8km/リッターだった。「燃費のボルボ」というイメージを加速させるのは2015年のこれからである。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
ボルボ850 T-5Rエステート
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4710×1760×1460mm
ホイールベース:2665mm
車重:1520kg
駆動方式:FF
エンジン:2.3リッター直5 DOHC 20バルブ ターボ
トランスミッション:4AT
最高出力:240ps(176kW)/5600rpm
最大トルク:30.6kgm(300Nm)/2000-5600rpm
タイヤ:(前)205/45R17 88V/(後)205/45R17 88V(ピレリPゼロ ネロ)
燃費:8.2km/リッター(10・15モード)
価格:615万円(1995年当時)/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:1995年型
テスト開始時の走行距離:24万205km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:214.2km
使用燃料:30.2リッター
参考燃費:7.1km/リッター(満タン法)/14.7リッター/100km(約6.8km/リッター、車載燃費計計測値)
![]() |

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
メルセデス・ベンツGLE450d 4MATICスポーツ コア(ISG)(4WD/9AT)【試乗記】 2025.10.1 「メルセデス・ベンツGLE」の3リッターディーゼルモデルに、仕様を吟味して価格を抑えた新グレード「GLE450d 4MATICスポーツ コア」が登場。お値段1379万円の“お値打ち仕様”に納得感はあるか? 実車に触れ、他のグレードと比較して考えた。
-
MINIカントリーマンD(FF/7AT)【試乗記】 2025.9.30 大きなボディーと伝統の名称復活に違和感を覚えつつも、モダンで機能的なファミリーカーとしてみればその実力は申し分ない「MINIカントリーマン」。ラインナップでひときわ注目されるディーゼルエンジン搭載モデルに試乗し、人気の秘密を探った。
-
BMW 220dグランクーペMスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.9.29 「BMW 2シリーズ グランクーペ」がフルモデルチェンジ。新型を端的に表現するならば「正常進化」がふさわしい。絶妙なボディーサイズはそのままに、最新の装備類によって機能面では大幅なステップアップを果たしている。2リッターディーゼルモデルを試す。
-
ビモータKB4RC(6MT)【レビュー】 2025.9.27 イタリアに居を構えるハンドメイドのバイクメーカー、ビモータ。彼らの手になるネイキッドスポーツが「KB4RC」だ。ミドル級の軽量コンパクトな車体に、リッタークラスのエンジンを積んだ一台は、刺激的な走りと独創の美を併せ持つマシンに仕上がっていた。
-
アウディRS e-tron GTパフォーマンス(4WD)【試乗記】 2025.9.26 大幅な改良を受けた「アウディe-tron GT」のなかでも、とくに高い性能を誇る「RS e-tron GTパフォーマンス」に試乗。アウディとポルシェの合作であるハイパフォーマンスな電気自動車は、さらにアグレッシブに、かつ洗練されたモデルに進化していた。
-
NEW
BMW R12 G/S GSスポーツ(6MT)【試乗記】
2025.10.4試乗記ビッグオフのパイオニアであるBMWが世に問うた、フラットツインの新型オフローダー「R12 G/S」。ファンを泣かせるレトロデザインで話題を集める一台だが、いざ走らせれば、オンロードで爽快で、オフロードでは最高に楽しいマシンに仕上がっていた。 -
NEW
第848回:全国を巡回中のピンクの「ジープ・ラングラー」 茨城県つくば市でその姿を見た
2025.10.3エディターから一言頭上にアヒルを載せたピンクの「ジープ・ラングラー」が全国を巡る「ピンクラングラーキャラバン 見て、走って、体感しよう!」が2025年12月24日まで開催されている。茨城県つくば市のディーラーにやってきたときの模様をリポートする。 -
NEW
ブリヂストンの交通安全啓発イベント「ファミリー交通安全パーク」の会場から
2025.10.3画像・写真ブリヂストンが2025年9月27日、千葉県内のショッピングモールで、交通安全を啓発するイベント「ファミリー交通安全パーク」を開催した。多様な催しでオープン直後からにぎわいをみせた、同イベントの様子を写真で紹介する。 -
「eビターラ」の発表会で技術統括を直撃! スズキが考えるSDVの機能と未来
2025.10.3デイリーコラムスズキ初の量産電気自動車で、SDVの第1号でもある「eビターラ」がいよいよ登場。彼らは、アフォーダブルで「ちょうどいい」ことを是とする「SDVライト」で、どんな機能を実現しようとしているのか? 発表会の会場で、加藤勝弘技術統括に話を聞いた。 -
第847回:走りにも妥協なし ミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」を試す
2025.10.3エディターから一言2025年9月に登場したミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」と「クロスクライメート3スポーツ」。本格的なウインターシーズンを前に、ウエット路面や雪道での走行性能を引き上げたという全天候型タイヤの実力をクローズドコースで試した。 -
思考するドライバー 山野哲也の“目”――スバル・クロストレック プレミアムS:HEV EX編
2025.10.2webCG Movies山野哲也が今回試乗したのは「スバル・クロストレック プレミアムS:HEV EX」。ブランド初となるフルハイブリッド搭載モデルの走りを、スバルをよく知るレーシングドライバーはどう評価するのか?