フォルクスワーゲン・ゴルフR(4WD/6MT)
あえてMTで乗る意義を問う 2015.10.01 試乗記 280psの高出力エンジンに4WDの駆動方式を組み合わせた「フォルクスワーゲン・ゴルフR」に、6段MT仕様が登場。フォルクスワーゲン(VW)が誇るハイパフォーマンスモデルに、あえて“人力シフト”で乗ることによってリポーターが実感したこととは?トランスミッション以外はDSG仕様と一緒
「GTI」だけでなく、オンロード四駆スポーツのゴルフRにもMTモデルが発売された。「日本市場はAT」路線をここへきて見直したのも、「ゴーキゲン ワーゲン~♪」戦略の一環だろうか。
日本人は米国民のことをわれわれ以上に“オートマチックな人々”と思っているかもしれないが、アメリカではゴルフRもGTIも以前からMTで乗れる。それどころか、高性能系ではないフツーの「ゴルフ」にもMTモデルがちゃんと用意されている。これほどDSG一辺倒のゴルフが走っている国は、日本以外にないのである。
6段DSGが6段MTに換装される以外、ゴルフRそのもののカタログスペックに変更はない。ちょっと信じられないことだが、1500kgの車重も同一だ。これを機に、MTモデルには本国仕様の300psユニットが載るのかなと期待させたが、そこまでのサービスはなく、GTI用の直噴2リッター4気筒ターボをさらに強化したエンジンは、DSGと同じホットカントリー仕様の280psチューンである。
しかし、価格は10万円安い。といっても、GTIをしのぐハイエンドゴルフだから、クラッチペダルを踏んでも539万円する。安いからMTにしとく、というようなクルマではない。
高額になっても浮かれた雰囲気はなし
GTIの17インチに対して、18インチの5本スポークホイールを履き、テールパイプが2本から極太の左右4本出しに変わるのが、Rの自己主張である。ボディーに付く「R」のエンブレムは控えめで、MTかDSGかの区別はもちろん見た目からはつかない。
前席は、見ても座っても上等な革のスポーツシート。運転席は電動調整式で、シートヒーターは助手席にも内蔵される。寒いところで使われることが多いとしたら、ステアリングヒーターもあったらいいのになあと思う。夜、ドアを開けると、サイドシルがブルーに発光することを除けば、かるく500万円オーバーのゴルフといえども、そんなにハシャいだところはない。
センターフロアに突き出すシフトレバーは、短くて太い。前進6段のシフトパターンはダブルH型で、左上がリバースだ。シフトフィールはまろやかで、メタリックなゴリゴリ感はまったくない。
トーボードからは3つのペダルが突き出す。クラッチペダルは重くない。カネはあるけどコラーゲンはないMTアゲインの中高年でも大丈夫だ。ペダルにはアルミが多用されてカッコイイが、雨の日はちょっとすべりやすかった。
印象に残るのはパワーよりマナー
公式データをみる限り、Rのスーパーゴルフぶりは明らかだ。220psのGTIが0-100km/h=6秒台であるのに対して、300ps欧州仕様のRなら5.1秒で駆け抜ける。DSGだとこれが4.9秒に短縮されるのが、VWの誇るデュアルクラッチ式“オートマ”のニクらしいところだが、人力シフトのMTモデルでも速いことには変わりない。
だが、6段MTで味わうゴルフRの2リッターユニットで最も印象的だったのは、パワーよりもむしろマナーである。大排気量マルチシリンダーのように滑らかで、トルクフルだ。
町なかでなにより驚いたのはエンジンの柔軟性で、5速なら1000rpmを切る低回転からなんら不平をもらすことなく立ち上がってくれる。6速トップでも1500rpm回っていれば加速を受け付けるから、匍匐(ほふく)前進スピードからそのまま踏んでいるだけで250km/hの最高速までもっていけるわけである。MTいらないじゃん! とは思わなかったが、試乗中、恥ずかしながら何度かハンドルの裏側をまさぐってしまったことがあった。DSGと錯覚して、シフトパドルを探してしまったのだ。
「R32」と呼ばれた時代はV型6気筒だったが、Rに車名を改めた先代(ゴルフVI)からはGTIと同じ4気筒の“チューン違い”を搭載する。そんな今もなお、V6当時の豊かな味を残しているのが最新Rユニットの特徴といえる。
釈然としない10万円の価格差
ワインディングロードを走った日は、あいにくの雨だった。だが、雨中を激走しても保険に入っているような安心感を与えてくれるのがスーパー四駆ゴルフの現世御利益だなあとあらためて実感した。
ただ、車重1.5トンのゴルフRに、GTIほどのヒラヒラ感はない。乗り心地の点でも、バネ下の動きにアンコ型の重さを感じる。靴底が厚い感じがするのだ。
7代目ゴルフでおなじみのドライブモードセレクトがRにも装備されているが、MTモデルはDSG付きほどキャラクターが変わらない。キックダウンやシフトアップなどの変速マップやシフトスピードを硬軟に変えるのがこの種のドライブモード切り替えの大きな売りだが、その部分がMTだとないのだから仕方ない。
DSG仕様のゴルフRでは“レース”モードを選ぶと別人のように過激になったが、MTモデルでは排気音が少し大きくなる以外、それほど大きな変身ぶりは味わえない。これで10万円しか安くないとは、ちょっと高くないかとヤブヘビ的に思った。
筆者はほとんど盲目的なMT好きなので、ゴルフRでも機械としてシンプルなMTのほうを歓迎するが、安心で速いゴルフとして4WDのRを選ぶ人には、これまでどおりDSGをお薦めする。
いずれにしても、マニュアルのゴルフに乗ったら、DSGの付加価値の高さを再認識させられてしまったのである。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4275×1800×1465mm
ホイールベース:2635mm
車重:1500kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:280ps(206kW)/5100-6500rpm
最大トルク:38.7kgm(380Nm)/1800-5100rpm
タイヤ:(前)225/40R18 92Y/(後)225/40R18 92Y(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:13.9km/リッター(JC08モード)
価格:539万円/テスト車=545万4800円
オプション装備:ボディーカラー<オリックスホワイト マザーオブパールエフェクト>(6万4800円)
テスト車の年式:2015年型
テスト車の走行距離:2218km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:316.0km
使用燃料:34.9リッター
参考燃費:9.1km/リッター(満タン法)/9.5km/リッター(車載燃費計計測値)
![]() |

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
BMW R12 G/S GSスポーツ(6MT)【試乗記】 2025.10.4 ビッグオフのパイオニアであるBMWが世に問うた、フラットツインの新型オフローダー「R12 G/S」。ファンを泣かせるレトロデザインで話題を集める一台だが、いざ走らせれば、オンロードで爽快で、オフロードでは最高に楽しいマシンに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツGLE450d 4MATICスポーツ コア(ISG)(4WD/9AT)【試乗記】 2025.10.1 「メルセデス・ベンツGLE」の3リッターディーゼルモデルに、仕様を吟味して価格を抑えた新グレード「GLE450d 4MATICスポーツ コア」が登場。お値段1379万円の“お値打ち仕様”に納得感はあるか? 実車に触れ、他のグレードと比較して考えた。
-
MINIカントリーマンD(FF/7AT)【試乗記】 2025.9.30 大きなボディーと伝統の名称復活に違和感を覚えつつも、モダンで機能的なファミリーカーとしてみればその実力は申し分ない「MINIカントリーマン」。ラインナップでひときわ注目されるディーゼルエンジン搭載モデルに試乗し、人気の秘密を探った。
-
BMW 220dグランクーペMスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.9.29 「BMW 2シリーズ グランクーペ」がフルモデルチェンジ。新型を端的に表現するならば「正常進化」がふさわしい。絶妙なボディーサイズはそのままに、最新の装備類によって機能面では大幅なステップアップを果たしている。2リッターディーゼルモデルを試す。
-
ビモータKB4RC(6MT)【レビュー】 2025.9.27 イタリアに居を構えるハンドメイドのバイクメーカー、ビモータ。彼らの手になるネイキッドスポーツが「KB4RC」だ。ミドル級の軽量コンパクトな車体に、リッタークラスのエンジンを積んだ一台は、刺激的な走りと独創の美を併せ持つマシンに仕上がっていた。
-
NEW
EV専用のプラットフォームは内燃機関車のものとどう違う?
2025.10.7あの多田哲哉のクルマQ&A多くの電気自動車にはエンジン搭載車とは異なるプラットフォームが用いられているが、設計上の最大の違いはどこにあるのか? トヨタでさまざまな車両の開発を取りまとめてきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.7試乗記アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。 -
「マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R」発表イベントの会場から
2025.10.6画像・写真マツダは2025年10月4日、「MAZDA FAN FESTA 2025 at FUJI SPEEDWAY」において、限定車「マツダ スピリット レーシング・ロードスター」と「マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R」を正式発表した。同イベントに展示された車両を写真で紹介する。 -
第320回:脳内デートカー
2025.10.6カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。中高年カーマニアを中心になにかと話題の新型「ホンダ・プレリュード」に初試乗。ハイブリッドのスポーツクーペなんて、今どき誰が欲しがるのかと疑問であったが、令和に復活した元祖デートカーの印象やいかに。 -
いでよ新型「三菱パジェロ」! 期待高まる5代目の実像に迫る
2025.10.6デイリーコラムNHKなどの一部報道によれば、三菱自動車は2026年12月に新型「パジェロ」を出すという。うわさがうわさでなくなりつつある今、どんなクルマになると予想できるか? 三菱、そしてパジェロに詳しい工藤貴宏が熱く語る。 -
ルノー・カングー(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.6試乗記「ルノー・カングー」のマイナーチェンジモデルが日本に上陸。最も象徴的なのはラインナップの整理によって無塗装の黒いバンパーが選べなくなったことだ。これを喪失とみるか、あるいは洗練とみるか。カングーの立ち位置も時代とともに移り変わっていく。